第55話 大将が熱いっ!?
次の日はいつも通りに串焼きを焼いて売っている。
場所は街の外だ。大将が「弱者の仕事ぶりを見に行くぞ」とか大きな声で言って連れ出された。
俺の目に映る光景は冒険者達が魔物の後処理をしている────
俺はしなくていいのか聞くと。
「あんなもん役に立たん、雑魚がやるもんじゃ」
と大将に一蹴された。
俺、低ランク冒険者なんだけどな……。
客なんて来ないだろうと思ったけど、意外と来ている。中まで買いに行くのは面倒臭いんだろうな。
「大将……」
「なんじゃ?」
「女心がわかりません」
「…………」
「男って顔なんですかね? この顔がトラブルの元なんでしょうか────って痛っ! 大将串刺さってるから!」
「その内刺されるぞ?」
「大将が刺したんでしょ!? 何、ほらな? みたいな顔してるんですかね!?」
「コウキよ……世の中には顔に恵まれない奴もおるんじゃ……だから皆──テクを使って女子に振り向いてもらおうと頑張るんじゃ。お前は顔が良い……わしのテクをマスターした時──最強のナンパ師になるじゃろう!」
何でその流れになった!?
「それで、なってどうなるんですか?」
「コウキ……お前このままじゃと────彼女できんぞ?」
なんだと……。
「俺には顔がある!」
「お前の力が全て台無しにしとるわい。それを会話で補え。3人から好意を受けておるのに、なんじゃそのヘタレっぷりは!」
がはっ……。
心の中で吐血する。
「しかし、付き合うなら好きな人とが────」
「馬鹿者がぁぁぁっ!」
頭を殴る大将。
「痛っ──大将めっちゃ痛いですって! それ闘気込めてますって! 俺闘気纏うの遅れたら頭がグシャってなってますってっ!」
「それぐらい対応でけるじゃろが。そもそも────お前は本当に彼女が欲しいのか!? 欲しいなら好意を受け取らんかっ! ほれっ、そこの冴えない男共を見てみろっ! あいつらは──モテたくてもモテないんじゃぞ!? そんな奴らに失礼じゃっ!」
いや、大将……あんたの方が失礼だろ……そこの魔物を処理してる人達プルプル震えてるぞ? 声大きいからっ!
「コウキよ……いいか? 人は会った時の初対面の印象でほとんどイメージが固まってしまう。顔が良いお前はその分、確かに他より有利じゃ────だが、仲良くなった時……絶対にキスをする。その時にそれは有利ではなく不利になる事もある。ゼロから────いやマイナスからのスタートかもしれん。そこでお前はどうするんじゃ!? 諦めるのか? それとも行動を起こすのかどっちじゃ!? 2回目のキスでお前に記憶がない? そんなもんどうでもいいわいっ! もっとがっつかんか! 好きな人なんぞ、付き合っとったら自然と好きになっとるもんじゃっ! ここに来る途中にいたカップルおったじゃろ?! あんな男にあんな美人な彼女がおるんじゃぞっ!? 諦めて指くわえてるそいつらより、行動してチャンスを物にしたんじゃっ! お前は理想ばっか追いかけて────全てを失いたいのか!!!」
熱い……とても熱い。
俺の事を考えて────とても良い事を言っているのはわかる。理解も出来る。
──だが……魔物処理してる人達の視線が凄く痛い……。
しかし、まぁ確かに大将の言う通りなのかもしれないな。俺にハーレムなんて無理だけど──とりあえず彼女作ってみてからでもいいのかもしれない。
2回目のキスで彼女達の記憶がないから特定の誰かが好きなわけじゃないけど、きっと────それに近い感情を持ってたはず。
俺は顔を引き締める。
「良い顔じゃ……では講義を始める──丁度良い……初対面の印象について話そう」
「──はいっ!」
「まず、人は初対面の時に視界に入るのは上半身じゃ。その後に全体や細かな所を見る」
「確かにっ!」
「コウキ──お前は顔が良い。それだけで十分武器になる。だが……お前の1回目のキスは記憶を奪う。つまり相手からすると初対面になるわけだ。しかも知らない他人からキスされて始まるという最悪な印象だ」
た、確かに……俺はキスされても嬉しかったけど────女性からしたら襲われると勘違いしてもおかしくないな。というか、記憶はなくても既にそんな体験してるかもしれない。
「それが印象でなんとかなるんですか!?」
「なるわけないじゃろ」
「ですよね!」
なら何でそんな話をした!?
「そこでだ。対応策として──キスをまず長い時間するな。そして直ぐに去れ」
それなら──なんとかなるか?
そういえば──クレアさんとリリーさんの時はキスする時間が短かったはず。
そして、2回目のキスで記憶を無くした経験をした俺からすると、一瞬何が何かわからない状況だった。
つまり、短い時間でも力は使えるし、混乱してる間であれば対処が可能という事か!?
さすが大将────よく見てるぜっ!
「わかりました!」
「それとな……中身で勝負とか言うてる奴は努力を怠った者じゃっ! 最初は見た目じゃっ! 中身なんて最後なんじゃっ! 会ったばかりの人間の中身なんて誰もわからんわっ!」
大将の話を聞いている人達がダメージを受けてるぞ!? きっと、そいつらは中身で勝負とか思ってたんじゃないのか!?
「そっ、そっすか……」
まぁ、確かに友達としての付き合いとかなかったら中身なんてわからないよな……。出会いを確かな物にする為にはやはり印象は大事か……。
「おっと、また話が逸れたのう。コウキの場合はスタートをマイナスではなく、まずゼロにする事が大事じゃ。初対面の印象は何か印象を覆すような事がない限り──経験上ずっと引きずる。そこでじゃ……コウキは初対面の女性で髪がボサボサの子とサラサラの子ならどっちに良い?」
「そりゃサラサラでしょ」
「つまり、人は清潔感がある方が好まれるんじゃ。汚い男なんぞ誰も寄らんわい……顔が良いとその辺相殺するがの」
「清潔感ですか」
「そうじゃ、次に身嗜みじゃな。センスが良いかどうかと──自分は金を持ってますとアピールするんじゃ」
「センスはまぁわかりますが、金って関係するんですか?」
「あったり前じゃ! 男は気にしない奴も多いが女は違う! そもそも、一緒に歩く時にセンス悪かったら相手が恥をかくじゃろうが! さっきの不細工な男のカップルなんか服装とかしっかりしとったぞ? 女性は常にその辺に気を使っておる。化粧、服装、髪型──持ち物などな? そして────金が無い男に女は寄らんわいっ!」
金が無い男に女は寄らんわい────その言葉が一帯に響き渡る。
大将、すんごい注目されてます。そして、周りの人達が蹲ってダメージ受けてます……正直恥ずかしいです……。
「金が無いと寄らないんですか?」
「男と女は基本的に考え方が違うんじゃっ! 男はヤレればOKじゃろうが、女は現実的じゃ! 遊ぶ人、ヤル人、付き合う人、結婚する人と大まかに分けておるわっ!」
凄い熱弁だ……俺もドン引きだよ……。
「わっ、分けてるんですか?」
「一目惚れとかの一時の愛に溺れる事もあるじゃろうが────冷静に女が男を見る時は大概そうじゃ! 付き合うだけなら金は武器になるっ! そう──その大まかに分けた選択肢を増やす為に金が最大の武器になるんじゃっ!」
「つまりどうすればいいんですか?」
「まず、冒険者であれば装備じゃ。普段着はセンス良く──アクセサリーとかしておると良いじゃろうな。靴も絶対に気を抜くなよ? 隅々まで観察されておると思えっ!」
「そこまでですか!?」
「うむ。本当に付き合いたい──結婚したいと思った時は────またわしの元へ来ると良い。お前は────わしの弟子じゃ。いや、後継者じゃっ!」
「大将──俺────彼女作ります」
そうだ。大将がここまで言ってくれているんだっ!
ここで奮起せねば男────いや弟子じゃないっ!
「それでこそ──我が弟子じゃっ! 修羅場に迎えっ!」
修羅場!?
どういうこと────!?
大将の視線が俺じゃない所にある事に気付く。
その先には────ティナさん、エリーさん、カミラさんの3人がいた。
俺は大将を見る。
「わしも若い頃は苦労したもんじゃて……お前も経験して来い」
大将はサムズアップして連れ去られる俺を見送った。
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