第53話 騒動は終わった!?

「諦めるんじゃねぇぇぇっ!」


 その声が聞こえた瞬間にはキマイラの首は飛んでいた。


「ダリ……ル……さん……」


「喋るなぁぁっ!」


 ダリルさんの表情は今まで見た事がないぐらい焦りに満ちていた。


「ふ……た……りは?」


「俺が街に連れて行ったっ! 喋るなっ!」


「「「「「シャァァァァァッ」」」」」


 魔物が近付いて来ているのだろう有象無象の声が聞こえてくる。


「五月蠅い────」


 一振りの斬撃で一瞬にして殺すダリルさんはやっぱり流石だな……。


「全力で戻る──気力で意識を保てっ! 絶対に死ぬなっ!」


 俺は抱えられて猛スピードで運ばれる。



 ────速いな。もう街だ……。


 俺はさっきエリーさんやカミラさん達と一緒にいた医務室みたいな所に運ばれる。


「エリーっ!!! コウキに回復魔法をっ!!!」


「────コウキ!? …………何でこんな事に……私じゃ無理だよ……」


「ここには回復魔法を使えるのはお前しかいないんだっ! 早く使えっ!!!」


 雷魔法をくれた子……エリーさんは回復魔法も使えるんだな……治癒師か何かかな?


 隣にカミラさんもいるな……。


 何で2人共そんなに泣いているんだ?


 それにダリルさんもそんなに怒鳴らなくていいじゃないか……俺生きてるんだし……。


 そう思いながら俺は自分の体を見る──



 ────あぁ、これは無理だ……俺でもわかる。


 内臓が飛び出て、手足は曲がったらダメな方向に曲がっているし、折れた骨は皮膚を貫通している。よく生きているなと自分でも思う。


 もう痛み──感じないや……。



「……俺────キマイラに一泡吐かせましたよ? ダリルさん達のお陰です……」


 俺は出来る限り声を出す。


「……あぁ、お前は自慢の教え子だ……」


「そう……ですか……」


「まだ手はある────諦めるなっ! 俺が戻るまで意識を強く持てっ! エリーっ! ボサッとしてないで血止めぐらいしろっ!」


「────!?」


 そう言い残し──一瞬にしてその場を後にする。

 エリーさんは俺に触れて魔法を使う。


 なんか少し楽になった気がする。


「バカッ……約束守ってよ……こんなの嫌だよ……」


 エリーさんの言葉が胸に突き刺さる。2回目のキスの前に何か約束をしたんだろうか?


「コウキ君……ダリルさんがなんとかしてくれるから頑張ってね?」


 カミラさんは泣きながらも笑顔を作って手を握ってくれる。


 心配して貰えるのは嬉しいけど、俺の2人に関する記憶────それが失われて、俺自身の気持ちがわからないのが少し寂しいな……まるで他人事のように感じてしまう。


「ここに──コウキとか言う奴が運ばれたと────!?」


 この声はティナか……何でいるんだろ?


 でも──最後に見れたな……。


 ははっ、死にそうなんだけど嬉しいや。


 心残りは────これで無くなったな……。


 俺の視界も白くなっていく────



 ……


 …………


 ……………………



 どれぐらい時間が経ったんだろう?


 結構経った気がするが────まだ死んでないようだ。


 視界は白いまんまだけど、何か声が聞こえてくる────


「────────」


「────────」


「「────!?」」


「────────!」


「────」



 唇が温かい────誰かキスを……した?


 喉に何か流し込まれる。



 ──体が熱い────



 ────痛みがなくなっていく……傷が治って……いる?



 俺の視界に色が戻る。


 目の前には赤い髪の毛の美人のお姉さんがいた。


「貴女は──誰ですか?」


「コウキ────ごめん……忘れててごめん……」


「何で泣いてるんですか? 美人な顔がもったいないですよ? そういえば──死にかけてたような気が……」


 俺は自分の体を見る。


 内臓も出ていないし──骨も曲がっていないし、貫通もしていない。


 治っているな……何でだ?


「コウキ──間一髪じゃった……間に合って本当に良かったわい……」


 顔を上げると大将がいた。


「大将!? 俺──確か重症だったはず……あの傷をどうやって治したんですか?」


「エリクサーを使った」


 エリクサーって何でも治せる的なあれ? 異世界半端ないなっ!

 そんな物を持っていた大将にもビックリなんだが……。


「高価な物をありがとうございます」


「またわしの為に稼げば良い────今はとりあえず生き残った事を喜べ。そしてわざわざお前に飲ませる為に口付けをした赤髪鬼に礼を言っておけ」


 俺は苦笑して返す。


 大将はやっぱり大将だな。


 それと────やはりキスされていたのか。


 赤髪の子はさっきから────ずっと泣いているな……きっと、この子が赤髪鬼って呼ばれてる人かな?


 俺の事を知っている感じだ……だが俺は誰かわからない──つまり2回目のキスという事だろう。ここの所──2回目のキスが多いな……。


「すいません、薬飲ませて頂いたみたいでありがとうございます。お名前聞いてもいいですか?」


「ティナ……貴方の妻よ……」


 ────マジか……俺嫁さんいたんだ!?


 こんな美人さんが嫁さんとか俺異世界に来て本当に良かったな。


 そういえば……エリーさんも未来の妻とか言ってなかったか?


 これって────まさかハーレム?


 いやいやいや、それはないな……。


 覚えてないせいか──全く信じられん……。


 良し、とりあえず棚上げだな。


 俺はダリルさんに向き合う。


「そういえば、クレアさんとリリーさんは助かりましたか?」


「あぁ、ちゃんと俺が街まで連れて来たからな。他の場所で治療してると思うぞ?」


「ダリルさん、ありがとうございます」


「なぁに……これぐらいなんて事はない」


「それと──魔物はどうなったんですか??」


「…………強敵は俺や親父が狩って────残りの雑魚はテレサが一掃したから、もう終わったぞ?」


 マジか────テレサさん、めちゃ怖いな……。


 とりあえず一掃されたならあの記憶の事はいいかな?



 とりあえず────考えるのも疲れた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る