第52話 届かないか……

「行くぞっ!」


 俺は雷光を発動し──一気に加速する。


 俺の手元に剣はない。キマイラの首に刺さったままだ。


 拳を握りしめ──羊の胴体目掛けて当てるが鈍い音と共に弾かれる。


 ────硬い。


 それに──こいつ、俺を見ていない……まだ2人を諦めてないな……。


 俺は振り向くと、駆け出したはずの2人が途中で立ち止まっている姿が見えた。



 何してやがる──俺の魔力と闘気も底を着く前になんとかしたいのに────


「さっさと──行けぇぇぇぇっ!!!」


 俺は叫ぶ。


「「────!?」」


 2人は俺の声に反応して再度走り出す──



「グルルルルゥッ」


「行かせねーよっ!」


 俺は首元に抱きつくが──振り落とされそうになる。


 リリーさんから貰った記憶──


 ──闘気の二段階目の使用方法……闘気による物質化によりキマイラを動けないように闘気を物質化して壁のように妨害する。ゴブリンキングの時にもしたけど、ここまで広範囲なのはぶっつけ本番だが出来たようだ。


 追い討ちでクレアさんから記憶──


 ──風魔法で刃を作りキマイラを中心に四方から攻撃して勢いを殺す。



 トドメは────エリーさんから貰ったであろう雷魔法を全力で使う。


「落雷」


 目印は俺の────剣だっ!


 闘気と雷光を纏った状態なら──耐えれるだろう。



 空より────白雷が軌跡を描き────



 キマイラと雷を一緒に受ける。


 俺は口元を釣り上げて笑う。


「道連れだ────」


 自己犠牲なんて──らしくない……。


 だけど、これが俺の選択した道────これで2人が助かってくれるならそれでいいか────


 爆発音と共にキマイラに直撃する。



 あーくそっ、痛いな──体がバラバラになりそうだ……。


 目の前には焦げた臭いを放つキマイラと──


 ──全身が裂傷だらけになった俺が残った。


「倒せたか……俺も強くなってるんだな……早く戻ろう」



 キマイラの首に刺さっている剣を力を振り絞り────引き抜く。


「剣……ボロボロになっちゃったな……後でダリルさんに謝ろう……」


 いつもはこんな状態になっても誰かが治してくれていた気がする……誰だろう?


 とりあえず──今は休みたい……。



 シュンッ


「────ぐっ──な……に!?」


「シャーッ」


 蛇の尻尾が俺の首を締め付けて持ち上げ、蛇が顔前で威嚇する。


 苦しい……なんとか……しないと……。


「しつ……こいっ! ───がはっ────」


 手に持った剣で蛇を切断するが──


 ──キマイラの前足が俺を直撃し、吹っ飛ばされる。


「ガアァァァァァァァァァァァァアッ」


 キマイラは咆哮する。



 まだ生きてやがるのか……討伐ランクA──強すぎるだろ……。


 視線を周りに移す。2人は逃げれたようだな。


 クレアさんとリリーさんを逃がせたし────悔いはないかな……。


 魔力も闘気、両方とも尽きたのか上手く使えない……体も動かない……疲れた……眠りたい…………。


 俺は地面に大の字になり、そう思う。


 このまま──キマイラを倒せても、周りは魔物だらけだ……どうせ逃げれやしない。


 どこで間違えた?


 救出に向かった事か?

 ──いや、俺が決めた事だ。


 俺自身の記憶を対価に力を得たからか?

 ──これも違う。2人を救出する為には必要だった。


 2人の記憶を奪った事か?

 ──記憶を奪わないときっと逃げてくれなかった。それに2人の力は役に立った。


 修行が足りない?

 ──ダリルさん達と一緒に毎日頑張っていた。逃げようとはしたけど。


 キマイラを相手に油断していた?

 ──俺は全力だった。


 そして────追い詰めた。


 ────そうか……最後か……剣を引き抜いた時──


 ──キマイラは死んでいると思っていた。


 あの時────首を落とすべきだったんだろうな……。


 はっ……はははっ、結局は詰めが甘かっただけか。


 これは誰のせいでもない俺自身が招いた結果────


 ──迫る足音。


「さぁ……殺せ……」


 もう足掻く事すら叶わない。



「皆──ありがとう────」


 俺は覚悟する────



「諦めるんじゃねぇぇぇっ!」


 ダリルさんの声が聞こえる──


 ──おいしい所で来るな……。


 でも────その後ろ姿は頼もしい。


 いつか──肩を並べたい────そう思えるぐらい大きく逞しい。


 ────ダリルさん。

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