第51話 記憶を対価に逃がす!

「坊主は中で待ってろっ!」


 さっきから門の所で門番さんに足止めされていて、外に出してくれない。


 いい加減うんざりしてきた。


「どいて──下さいっ!」


 俺は雷を体から放出させ──威嚇する。


「コウキ君っ! 何故こんな所に!?」


 振り向くと──── クレアさんとよく屋台に来てくれた女性──紅の騎士団の人だ。


「クレアさんが外でキマイラと戦っています。外に出して下さい」


「──!? 隊長でも厳しいのに……コウキ君じゃキマイラには……」


「俺はクレアさんとリリーさんを助けて戻って来るだけです」


 俺は決意の籠った眼差しで見据える。


「決意は固いみたいね……門番──行かせなさい」


「しかし──行けば死ぬ。彼は低ランク冒険者。街の中を守り、住民を逃す役割がある!」


 言っている事は正しいと思う──だが!


 俺は引かないっ! 助けに必ず行くっ!


「俺は──九刃ダリル、剣聖レンジの弟子だっ! 外に出せっ!」


 放出した紫電は周りに衝突し爆発が起きる。


 時間が惜しい……強行突破する────



「行かせてあげなさぃん」


 この声は────


「────何故ここにいるんですかね? ギルドマスター……」


「ふふん、街の最終防衛ラインにいるのが私の役目よぉん。──昨日の顔と違って男の顔になったわねぇん。私が許可を出すから行きなさぃん」


「礼は言わないぞ?」


「いいわよぉん。その代わり──無事に帰って来いっ!」


 そこにいつもの変態は居なく────1人の漢が居た。


「あぁ」


「道は作ってやるっ! 男なら──魔物如き一匹でも多く蹴散らして来いっ! 開門せよぉぉぉぉっ!」


 ギルドマスターの大声で門が開いていく。


「────すぅぅ──目の前の奴らはどけぇぇぇぇぇっ!!! 奥義──【風撃掌波】────さぁ行けっ!」


 大きく息を吸ったギルドマスターは門が開くと同時に目の前に群がっている魔物をズタズタに切り裂きながら道を作っていく。


 この人も──Sランクだったな……。


 俺は振り向かずに手を振って応え──駆け出す。



 クレアさんとリリーさんがいるのは──向こうだな……。


 俺はエリーさんの雷魔法の使い方を記憶から引っ張り出す。


 ────なるほど……雷魔法を電気信号のように体の筋繊維を刺激し、活性化する事によって無理矢理強化しているのか。


 それならあの異常な速度も納得出来る。


 他に──魔力と闘気は同時に使えないが……魔法として発動した場合は闘気と合わせて使えるのか。


 これはありがたい情報だ。てっきり、魔法と闘気は相慣れないものだと思っていた。


 大将はこれを知っていたから魔法の習得を勧めたんだな。

 そういえば────闘気纏いながら回復魔法使っていたな……ダリルさんの猛襲を受けてる時に。



 ────俺は雷魔法を自身にかけて身体を活性化する。身体中から紫電が放出される。


 くっ──負荷が半端ない。


 技名は──


「【雷光】────」


 クレアさん達がいる場所に向かって足を蹴る────


「マジか……」


 俺は後ろを無理向くと闘気だけでは到底無理な距離を進んでいた。


 ギルドマスターは戦線に復帰し──かなり後方で魔物をちぎりながら蹴散らしている。


 ギルマス怖いな……捕まったらミンチになりそうだ。


 しかし、この速度なら直ぐに着くはず────


 キマイラのいた場所まで戻る為に全力で駆け抜ける。


 俺に襲いかかって来る魔物は全て首を切り落とす。


 記憶が俺に流入してくるが────何かがおかしい……。


 記憶が希薄というか……自我があまりない?


 こいつら──自分の意思で動いていない?



 今はそんな事はどうでもいい──俺は2人を助け出して街に戻るだけだ。



 しばらくして、キマイラが居た場所に到着する。


「ここのはずだが……」


 魔物はいるがキマイラがいない。


 まさか……間に合わなかったのか!?


 いや────近くで金属音が響いている。


 ────まだ2人は生きているっ!


 魔物を蹴散らせながら、音のする方へ移動すると────


 クレアさんがリリーさんを庇っている姿が見えた。


「はぁ……はぁ……これまでか…………」


「ごめんにゃ……足手まといになったにゃ……」


 クレアさんは既に満身創痍で至る所に傷が出来ており、動くのもやっとの状態で、後ろにいるリリーさんは既に動けないようだった。


 キマイラも所々に傷を負っている。2人の力が通用しないわけじゃない。


 ただ──問題は2人を抱えて離脱出来るかどうかだが……討伐ランクAはそんなに甘い相手ではない。さっき、俺もいつの間にかやられていたぐらいだ。


 俺は直ぐに離脱は無理だと判断する。


 なら────一か八か不意打ちで討伐するしかないっ!



 魔法も闘気と使い方は同じ────


 雷光の出力を高め──剣にも雷魔法を付与すると黄色に近い白になった。


 闘気を同時に込め──両方合わせた力をキマイラに向けて放つ────


「【雷鳴】──」


 ダリルさんがギルマスに使った技だ。


 魔力と闘気がごっそり消耗してしまった────


 ダリルさんと比べると数段威力は落ちるが────必殺の一撃として申し分ない威力がある。


 それをキマイラの羊の胴体向けて放ち──雷光を纏ったまま一瞬にして接近する。


「グルアアァァォァッ」


 雷鳴が直撃し──獅子の頭部から絶叫する。目は俺を捉えている。


「死ねっ──」


 俺はクレア達とキマイラの合間に入り──剣を下から突き上げて首目掛けて刺す──


 今度は悲鳴が聞こえて来なかった……。


 キマイラに視線を移すと────


 口に魔力を込め────俺に向かい火を吐いてくる。


「あっついだろがぁぁぁっ!」


 俺は手を剣からは離して、獅子の顔面目掛けて拳に闘気を集中させて横殴りにし──炎の軌道を逸らしてダメージを軽減させる。


「ガルルルルルッ」


 俺はバックステップでクレアさん達のいる場所まで下がる。


「コウキ君?」


「コウキにゃ?」


 一瞥すると、俺に気付いたは2人は名前を呼んで来る。


 シチュエーションはピンチに駆けつける王子様だとは思うけど──


 ──絶賛ピンチに変わりはない。


 颯爽と切り抜けたい……。


 剣はキマイラの首に刺さっているし、魔力、闘気共に1/3ぐらいしかな残っていない。ここで使い切ると逃げれなくなる。


 不思議と周りの魔物は攻撃して来ない……今なら逃げられるか?


 いや──無理か……キマイラは俺達を殺意の篭った目で見ている。逃す気はなさそうだな。


 不意打ちで殺せなかったのが悔やまれる。



 エリーさん、カミラさん……2回目のキスをした2人との約束は守れそうにないかもしれない。


 


「クレアさん、リリーさん……」


「なぁに?」


「なんにゃ?」


「俺は足掻きます────どんな手を使っても────2人を逃します。それが好意を俺にくれた2人へのお礼です」


「なっ!? ──ん……」


「何してるにゃ!? ──にゃ……」


 俺は2人にキスをする。これで俺に関する記憶は無くなる……。


 ボケーっとしている2人に俺は寂しく切ない笑顔を向ける。


 これで2人の俺に関する記憶は無くなったはず。



「さぁ、2人共逃げて下さい」


「君1人じゃキマイラは無理だっ!」


「そうにゃ!」


「大丈夫ですよ……救援がが直ぐに来ます──2人は早く避難して傷の手当てをっ!」


「────少年──死ぬなよ」


「わかったにゃ……後で会った時に礼はするにゃ」


 2人は雑魚を蹴散らすぐらいの余力はあるだろう。無事に逃げ切る事を祈る。


 忘れられる悲しみはより────今は2人の避難が最優先だ。


 きっと────記憶の残った状態じゃ……逃げてくれなかっただろう。


「さぁ──始めよう」


「ガルルルルルッ」


 相手は格上────


 ────せめて時間稼ぎぐらいしてやる!

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