第48話 鐘の音

 現在────俺は大将見守りの元、頑張って串焼きを焼いている。


「さぁ、コウキよ──力不足はよくわかったであろう?」


「そうですね……Sランクは化け物ですね」


「そんなSランクはわしがぶっ飛ばしたがなっ!」


 うん、あの2人を相手にして勝ってる辺り────大将が1番の化け物だな。



 そんな、たわいもない会話し通常業務を行う。


 昼過ぎになって、やっとお客さんが少なくなって来た。午前は昨日の騒ぎで俺は有名になったみたいで長蛇の列が出来ていた。


 もちろん、クレアさん、リリーさんの2人も何食わぬ顔で並んでいた。



「それで、結局の所──俺が得たのは2回目のキスの効果ぐらいですね」


「まぁ、知らぬより良かろう。現実も見れたようだしのう」


 あのギルマスから逃げ切るのは無理だとよくわかったよ。


「修行してても無駄なんじゃないですかね?」


「まぁ……その為にも魔法使えるようになれ」


 魔法か……全く使える気がしないんだが……本当に全属性適性なんだろうか?


「テレサさんの攻撃を受けるとか無理ですよ……」


「耐えろ……」


「もっと良い言葉とかないんですかねぇ!?」


「では────元気の出る話をしよう」


 もしや!?


「お願いしますっ!」


「ふむ、今日は何の話をするかのう……時間もあまりないし──誘い方編にするか」


「誘い方ですか!?」


「うむ、別に誘い方だけではないがな。コウキ、わしを昼飯に誘う為に何か言ってみろ」


 いきなりだと難しいな……。


「大将、あそこの飯屋に行きませんか?」


「はい、アウトじゃな」


「なんで!? 至って普通じゃないですかね!?」


「だってわし行く気にならんかったし」


「……どないせいと……」


「コウキよ……誘う時はな……疑問形はダメじゃ。言い方一つで印象が大分変わる。飯屋に行きましょう! なら相手は断り辛くなるもんじゃ」


 確かに!


 もし、俺が疑問形で聞かれていたら考えてしまうな。行きましょう! なら勢いで行けそうな気がする。


「さすがです!」


「後、ストレート過ぎるのも減点じゃな」


 んな事言われても誘い方なんてそんなもんじゃないのか?!


「他に言い方なんてあるんですか?」


「まず、どうしても成功させたいなら──簡単な2つの方法がある。一つ目は、絶対無理な事を先に要求して、その次に本命のお願いをする。もう一つが簡単な要求を飲ませ続けて、本命のお願いをする──じゃな」


「どういう事ですか?」


「一つ目で言うなら────例えば、わしがコウキに一発変態ギルマスを殴って来いと言ったらどうする?」


「絶対に断りますね」


「じゃろうな。じゃあ、闘気を使って全力で地面殴れと言ったら?」


「殴りますね」


「そうなるじゃろ? それと同じじゃな。つまり要求するレベルが落ちて無意識にこれぐらいなら良いか──となるんじゃ」


 そんなやり方があるのか!? 凄いテクだっ!


「しかし、それ二つ目と逆じゃないですか?」


「コウキよ……これは二つ目は小さい要求から了承を得るのが大事なんじゃよ。──コウキ、そこの串焼き一本取ってくれんか?」


「はい」


 俺は串焼きを渡す。


「おーありがとさん。えーっと、なんじゃったかな……そうそう、少しずつ要求を大きくしていくのがコツじゃな。コウキ、後──その仕込んだ串をボチボチしまってくれ」


「はい。昼からは売らないんですか?」


「午前中で十分売れとるからのう。昼からはお前の様子を見に行くわい。ええか?」


「それは別に構いませんよ」


「とまぁ、こんな感じじゃな」


「ん?? まさか──今のやり取りが?!」


「そうじゃな。わしはコウキの修行を見に行くという目的を達成したわけじゃ。いきなりわしが見に行くと言ったら身構えて断るじゃろ?」


「──!?」


 確かに!


 昨日の件があるだけに何を企んでやがるってなるな!


 これが大将のテクか!? 凄いぜっ!


「少しずつ本命のお願いに近付けて行くんじゃ。理由付けがあると更に良い。そうすれば了承を続けている流れでそのまま本命も了承される事がある」


「さすがです!」


「まぁ、これも日々使っておらんと中々難しいもんじゃ。常に心掛けよ」


「はいっ!」


「さぁ、ボチボチ時間じゃな……昼からコウキのやられっぷりを見ながら酒でも飲むかのう」


 ────大将はやっぱり、大将か!?




 そして──テレサさんとの訓練後────



「コウキよ……お前──いつもあれを受けとるのか?」


「…………そうです……」


 あれとはテレサさんの魔法だ。


 大将はこいつら阿保じゃね? と不思議そうな顔をしている。


「いや、さすがにあの威力はないじゃろう……今まで、よく死ななかったのう……貼り付けにされてないだけで──前は冗談で言ったが────間違いなく罪人に行う死刑執行じゃな……」


 大将──もっと早くに気付いてほしかった……というか止めてほしかった。


 俺は現在、エリーさんの回復魔法を受けている。


 テレサさんは「手加減して疲れたわ」と言って、近くに魔物を狩りに行っている。


 それと、何故か近くにクレアさんとリリーさんもいるという謎……君達仕事どうしたの?


「コウキ……もうあれはやらん方がええぞ? ダリルはどうしたんじゃ? こんなもんあやつなら止めるじゃろ……」


 俺もそう思うよっ! けどなっ! ダリルさんはテレサさんから強く言われてて来てないんだよ!


「コウキ君……私の為に強くなるなんて──なんて健気な子……」


 クレアさんや……何でヒロインみたいな事言ってるんですか!?


「コウキ、早く私の部屋で休むにゃ……」


 リリーさんはリリーさん、でお持ち帰りしようとするなよ!?


「コウキは私と寝るのよ! 女狐はさっさと失せなさい!」


 エリーさんや……リリーさんは猫だ……いや虎か……。



「大将……断ると極大魔法放たれるんじゃなかったんですか? クレアさんとリリーさんは仕事しなくて大丈夫なんですか? それとエリー……寝ないから」


「頑張れコウキ……街の平和はお前にかかっておる……かつて、ダリルに浮気の疑惑が出た時は国の首都の半分が壊滅したからのう……騎士団なんか未だにテレサを見ると震え上がるぞ?」


 諦めるの早すぎませんかね?!

 そして、まさかのテレサさん前科持ち!? 騎士団に恐怖植え付けるとかヤバすぎるだろ!


 ってか、最悪の場合は大将が対応してくれたら良くね!?


「私はいつも寝てて仕事してないからいいの……」


 クレアさんはクレアさんで堂々と仕事サボってるし!


「リリーはソロ冒険者にゃ。今日は休みにゃ」


 こっちはまともな返答だし!


「むぅ……私の事嫌い?」


 エリーさんや……いつの間に俺の好感がそんな上がる事があったんだよ!?


「大将……なんとか助けて下さい。俺一応弟子ですよね? クレアさんは仕事して来て下さい。リリーさんは──その辺で寝てて下さい。エリー……嫌いではないけど……────!?」


 エリーに話しかけている時に街からが聞こえて来た。


 続いて空に魔法が放たれ、激しい爆裂音がしてきた。



「ついに来たか──戻るぞっ」


「仕事か……」


「腕が鳴るにゃ」


「コウキ立てる? 後で返事聞かせてね?」


 先程までと違い──皆、真剣な顔付き……いったい何が起こってるんだ?!


「いったい何が!?」


「コウキ──街が襲われておる。おそらく魔物の氾濫じゃ」


「────!? なら直ぐに戻らないと!」


「では行くぞ──」


 俺達全員は街に戻る為────駆け出す。

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