第47話 2回目のキスの効果

「貴女は──誰ですか??」


 目の前に誰か知らない女性がいて俺にキスをしていた。


「────!? コウキ君っ! 私────」


 なんで──目の前の女性は涙を流しているのだろうか?


 俺はこの人を知っているのだろうか??


 何が何かわからない……。


「勝者は嬢ちゃんじゃっ!」


 大将の声が聞こえてきた。


 勝者? そういえば──俺にキスしたらいいとか大将が言って逃げていたような気がする……。


 キスをしたら相手の記憶を奪うはず──


 ────目の前の女性が勝者という事は俺にキスをした人という事になる。


 だが、相手の記憶ではなく──


 ────俺の記憶が曖昧になっている。少なくとも初回のキスじゃない。


 ──まさか────俺の力【ロストメモリー】は2回目のキスは俺の中から相手の記憶を消す?


 そうだとしたら────どれだけリスキーな能力なんだよ……。


 きっと目の前の女性の感じからして俺の事を知っている人なんだろう。なんせ2回目のキスだし。


 しかし、忘れるという事が──こんなに不安を感じるものだとは……。



 それより、なんで──この人はこんなに泣いてるのかわからない。


「大将──後で話があります……」


「うむ、コウキの反応からして────のだろう?」


「はい……」


「まずはこの場を収めるぞ」


「お願いします……」


「では、これにて祭りは終わりじゃぁぁぁっ!」


 鶴の一声で祭りは終わりを迎える。


 残念そうな声も聞こえてきたが、大将に逆らえる人はいないのだろう。





 俺は一足早く部屋に戻る。



 あの子の顔が焼き付いて離れない──


 嬉しそうな顔をした後──俺の言葉を聞いて涙を流した。


 傷付けてしまったのだろうか?


 いや、傷付いているに決まっている。あの感じ────あれは俺の事を思い出している。


 自分にある記憶が相手には無い。それだけで十分ショックだ……少なくとも俺は酷く落ち込んだ。



「入るぞ」


 大将が部屋にやって来た。


「大将……あの子は──誰なんですか?」


「ふむ、完全に記憶を失っておるな……2回目のキスは己の記憶を消す──いや、譲渡すると言った方がいいな……」


 やはり2回目か……譲渡??


「どういう事ですか?」


「先程、嬢ちゃんと話をして来たが──コウキの事は思い出していた……というか、それだけではなく──お前のカミラの嬢ちゃんの記憶が流れ込んだようだ……」


 なるほど、俺の記憶はさっきの女の子──カミラさんに譲渡されたというわけか……。


「なるほど……」


「嬢ちゃんは悲しんでおったな……何でコウキの事を忘れていたんだとな。あまりに見ておれん────お前が事情を話せ」


「はぁ? 意味がわか──っ!?」


 意味がわからないと言おうとすると、部屋にさっきの女の子────カミラさんが入って来た。


「コウキ君……君の事教えて……」


「──!? わかりました……」


「しばらく2人で話し合うといい……わしは──ギルマスとダリルをもう一度とっちめてくるわい」


 何気にあの2人に勝つ辺り────最強なんではないかと思ってしまうな。


 って、今はこの子の事だな……。


「えーっと……何を話せば良いんですかね?」


「コウキ君……貴方は記憶が消せるんだよね? 私の記憶が戻った時に──コウキ君がした事が流れ込んできたわ……」


「そう……ですか……。確かに──俺はキスをすると記憶を消せるみたいです。カミラさんでしたっけ? 貴女とは2回目のキスだったみたいです。どうやら2回目は俺の記憶が無くなり──相手には移るみたいですね」


「そうなんだね……じゃあ──コウキ君が私の笑顔が見たくてキスした事も覚えてないの? それにモヤがかかったみたいに思い出せない事もあるの……」


「え? そうなんですか? 申し訳ないです……全く覚えてないですね……」


 モヤがかかってる感じか……何だろう? 


 ────!? 思い出した! いや、思い出したというのは語弊があるな……カミラさんの事は思い出せていないが、誰かから記憶を奪った記憶がある。


 確か──誰かの元彼の記憶だったかな? その誰かがカミラさんなのだろう。別にこれは知らせなくていい事だろう。俺の中でも不快な記憶だ。


 今も思い出そうとしているのだが、カミラさんの部分だけがモヤがかかったようになっている。



「そう……なんだね……君は──こんな辛い事を経験してるんだね……」


 結局、逆の立場になっただけか……俺が覚えてないんじゃ────意味がない。


 何より、この体験させるのが俺も辛い……。


 2回目のキスはしたくないな……。


「カミラさんがそんなに悲しんでくれるぐらいの事を俺から感じ取ってくれた────それはきっと……貴女の事を大事に想っていたんだと思います。俺は記憶がありませんが、それだけは伝わって来ました。いつか──貴女が笑顔を浮かべてくれる事を祈ります」


「ええ、今度は私が──コウキ君の優しさに恩返しをするわ。私の処女をあげる……」


 いや、何を言ってるんですかね!? というか──カミラさんも処女なの!?


「えっと……もう少し自分を大切にした方がいいですよ?」


「レンジ様が言ってたわ……コウキ君……大声で──初めて同士が良いって……街中で叫んでたって……」


 うぉいっ! あんの馬鹿大将──何を言ってくれてんですかね!?


「いや、あれは危機を乗り切る為に言っただけですよ?」


「そう……でもコウキ君の為に残しておくね?」


 上目遣いで言われた俺はタジタジだ……。


「えーっと……「ちょっと待ったぁぁぁぁっ!」──この声は、エリーさん?」


「コウキは私のよっ! 私の処女をあげるんだからっ!」


 いや、エリーさんまで何言ってんのさ!?


 俺って、やっぱりモテるんだな……。


 変態にもモテてるけどな……。



 今日、実感した出来事は────散々追い回された挙句にSランクが化け物過ぎるのと、処女4人から言い寄られた事ぐらいか?


 後は2回目のキスの効果ぐらいか……2回目に俺の記憶が戻っている────それは、1回目のキスは相手の俺に関する記憶の封印という事なんだろうか?


 相手の記憶が完全に消えてないって事は────いつか俺の記憶も戻るのかな? 戻ると良いなぁ。



 しかし、俺にとっては何も良い事が無い1日だったな……。魔法とかの記憶とかも無かったしな……。


 そんな事を思いながら──エリーさんとカミラさんが目の前で言い合いをしてる姿を俺は眺めていた。

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