第42話 これは息抜きじゃなくね!?

 俺は串焼きを焼きながらお客さんに笑顔をふりまいている。あの例の魔法訓練を行なって一週間経つ。


「なんか日に日に覇気が無くなっとるぞ?」


 後ろから大将が話しかけてくる。


「いや、さすがに1週間もあの訓練を受けてたらなくなりますって……」


 毎日毎日────火球受けてたらそりゃ、覇気も無くなるだろ! しかも魔法覚えられないし!


「ふむ、そんなコウキに息抜きじゃ」


「息抜き?」


 なんだろ? 恋愛講座だろうか?


「うむ、ただ逃げるだけじゃ」


 違った……ゲームみたいな物だろうか?


「何からですか?」


 大将から逃げる? まさかギルマスじゃないだろうな!?


「それは──これから募集する」


 募集?!


「ん? どういう事ですか??」


 俺の問い掛けを無視して大将が声を出す。


「聞けぇい、皆の者っ! これより祭りを始めるっ! 内容は──ここにおるコウキにキスをする事じゃっ! 街を破壊する行為は禁止、不正はわしが見守っておるから不可能っ! 参加者はわしの所に並べっ! 参加費は銀貨1枚じゃっ! 達成者には────金貨10枚っ!」


 大将の大声で周りが鎮まり────息抜きの内容が告げられる。


 俺は一瞬何が起こったのかわからなくて放心状態になる。


 これって──まさか俺をダシに使ったイベントか?!


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」


 各所で雄叫びが上がり──大将の元に参加者が並び出す。


 いやいやいやいや! 俺今聞かされたんだけど!?



「レンジ様っ! 領主様に許可は!?」

「わしがやる事に口出しはさせぬわっ!」


 なにその暴君!? しかも聞いてる人納得してるし!


「レンジ様っ! 街の者でも良いのですか?」

「誰でも参加可能じゃ!」


 って、お客さんじゃないか!? 見た事あるぞ!? それに大将の名前知ってる人多くね!?


「レンジ様っ! 武器の使用は!?」

「何でも有りじゃっ! コウキ、街の住人には攻撃してならんぞ?」


 はぁぁぁっ!? 街の人は何でも有りなのに俺はダメなのか!?

 それ冒険者とかなら迎撃していいんだよな!?


「レンジ様っ! 男でもいいんですか!?」

「良いっ!」


 良くねぇよ!

 お前の目は変態の目だろ! 俺を見詰めるな!


「レンジ様っ! お持ち帰りもいいんですか!?」

「──かまわぬっ!」


 うぉいっ! 大将っ! 何言ってくれてんの!?


 せめて、女性ならお持ち帰りされてもいいが────男は絶対嫌だ!


 俺の血の気が引いていく。


 後半、発言しているのは冒険者共だ……変態率高くてびっくりだよ!



 しばらく、大将の前で質問がされつつ、お金のやり取りがされる。


 時間にして1時間ぐらいだ。


 参加者が膨大な人だ……。これ逃げ切れるのか?


「た、大将……何でやるんですか?」


 俺はぎごちなく大将に聞く。


「わし暇だし? 後、お前を捕まえられる者なら何かしら得る物があるじゃろ? 魔法とかな?」


 そう言う大将は悪そうな顔だった……。

 発言内容は一応、俺の事を考えている感じだが────心の準備が全く出来ていない俺は焦っている。


「本音は?」


 何か裏があるかもしれないと一応聞いてみる。


「ちょっと顔が良いからって、客かっさらってる姿が腹立ったんじゃ。少しぐらい金儲けして意地悪しても良いじゃろ」


 完全に私怨だった。


 その時の大将の顔は嫉妬に狂っていた。


 鬼っ!


 絶対逃げ切ってやるっ!



「期限は日が暮れるまでじゃっ! 故意に怪我させた奴とかはわしが──お仕置きじゃ。では────開始っ!」


 俺の視線を盛大に無視して、開始の合図をする。


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」」


 雄叫びが響き渡ると同時に俺は駆け出す。


 追いかけてくる人の目は獲物を捕まえる狩人のそれだ。


 街の人はまだいい……だが、冒険者は手加減は出来ない。これが金目的であるならまだいいが──いや、男の時点でかなり嫌なんだが──


 ──変態共に捕まったら……持ち帰りを許可しているだけに────キスだけで終わる気がしないっ!


 あの顔は捕まえた後にナニをするか想像してやがった!


 事故に見せかけて再起不能にしたいぐらいだ!


「はぁ……」


 俺は溜息を吐く。



 こうして、俺は獲物になり────『コウキ争奪戦』が始まった。




 という事があって、俺は街の中をひたすら逃げている──


「「「「待ちやがれっ!」」」」


「コウキく〜ん、こっちおいでぇ〜」


「お姉さんの所へいらっしゃいっ」


 男女問わず────色々な人が俺に叫びながら追いかけて来る。


「嫌だっ!」


 俺は追い掛けて来る人達を拒絶する。



 大将の嫉妬のせいで俺は絶賛ピンチ中だ。


 絶対見返してやるっ!

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