第41話 目的がすり替わってね!?

 魔法修行2日目だ……。


 今日は最初からエリーさんが一緒にいてくれる。


 とても心強い……。


 きっと、傷を負ってもなんとかしてくれるはずだろう。


「さぁ、レオン君行くわよっ!」


 なんで、テレサさんは──こんなにヤル気満々なんだろうか……。


「お手柔らかにお願いします」


「わかってるわよ! 避けたらダメよ? えいっ!」


 可愛らしい声で火球を放ってくるが──


 ────明らかに昨日の火球より大きいぞ?


 これ──殺しに来てね?


 けど、俺は動かないぞ!


 昨日それで殺されかけたからな!


「お母さんっ──!」


 エリーさんの叫び声でテレサさんは「あっ、やっちゃった……」と微かに言っているのが聞こえてきた。


 やっぱり、この火球はあかん奴ですやん!?


 轟音を放ちながら迫り来る火球に俺は──


 スッと俺は瞬時に闘気を纏って半身になり避ける。


 後ろから爆発音が聞こえ、衝撃波が後ろから俺を襲う。


 後ろを振り向いてみると──


 火球が当たったであろう木が消炭になっていた……。


 火球の威力じゃないだろこれ!?


「テレサさん……殺す気ですか?!」


「娘が見てる前だと緊張しちゃって──てへっ」


 見た目が若いから特に違和感を感じないが──エリーさんの年からしてけっこうな年齢────


「コウキ君? 次そんな顔したら──同じの撃つわよ?」


「すんません」


 俺は即座に謝った。


 そんなにわかりやすいのだろうか?


「じゃぁ、行くわよー。闘気解きなさい」


「はい……本当に頼みますよ」


 闘気を解くと同時に昨日と同じぐらいの火球が放たれる。


 この火球も正直、当たる場所によっては死ぬ気がする。


 しかし、早く覚えなければこの死刑執行からは解放されない……。


 俺は腕を十字にし、防御姿勢で火球を受け止める。


「────くっ……」


 俺はそのまま前に倒れ、既に瀕死の重症だ。


「コウキっ!」


 エリーさんは即座に駆け寄り回復魔法をかけてくれる。


「エリーどきなさい……敵は待ってくれないわ」


 いや、テレサさんは敵じゃないでしょ?! だから待ってくれませんかね?!


「やりすぎよっ!」


 2人で盛り上がってるところは済まないが……テレサさん──


 ──これ────実践訓練じゃなくて、魔法の習得を目的としてるはずだよな!?


 目的がすり替わってるじゃないか!


 俺は回復し、立ち上がる。


 これを続けるのか……昨日はまだ早めに切り上げたから大丈夫だったが……。


 今日──俺は死ぬかもしれない。


 目の前に再度────火球が迫る。



 誰か──いつか彼女になってくれる女性よっ!


 俺に力を────くれっ!



 俺は踏ん張り、衝撃に備える。



「見てられないっ!」


 スパッ


 ……ん?


 ……んん?


 ……んんん?


 ……火球が真っ二つになった?


 ダリルさんが助けに来て──くれてないな……。


 真っ二つにした張本人は──


 ──エリーさんだった。


 彼女は俺の腰にある剣を抜いて火球を斬り裂いたようだった。


 エリーさんって回復師とかの立ち位置だと思ってたんだけど!?


 なんで、そんな速く動けるの!?


「お母さん……その火力じゃ──コウキが死ぬわ」


「エリーどきなさい……これは訓練よ──殺さないわ」


 ──ってそこ! 少し落ち着いてくれっ! 親子の雰囲気じゃないよ!?


 それに殺さないわって────実際死にそうな威力なんですけど!?


 ────空気が震えている。


 すんごい殺気出てるんですけど!?


「2人ともストップ! エリーさん、俺は大丈夫だ。テレサさん、もう少し手加減して下さい!」


「コウキがそう言うなら……」


「コウキ君、次は大丈夫だからね」


 2人は俺の声で正気に戻る。


 テレサさんの大丈夫が信用ならないが、とりあえず目の前で殺気が飛び交う状況は打破出来た。


「そういえば──エリーさんって凄い速く動けるだね!?」


 そのまま少し空気を変えるためにエリーさんに問いかける。


「──だってお父さんの子供よ? あれぐらいは……」


「えっ!? あの地獄のような訓練したの!?」


 エリーさんも過酷な訓練を受けていたのか!?


 俺は驚愕の表情を浮かべる。


「私はあんな事してないわ……」


 うぉいっ! どういうこった!?


 あの地獄は俺専用なのか!?


 あれか!? 娘だからか!?


 なら俺にも同じような訓練にしてくれよな!?


「扱いの格差にめげそうだ……」


「正確にはお父さんの訓練は受けてないわね……レンジ様が手解きしてくれたのよ……」


 ですよね! ダリルさんの訓練を受けるとか正気じゃないしね!


 俺は受けてるけどさっ!


 やっぱり大将の方が教えるのに向いてるんじゃないか!


 俺は虚空を見つめ、そう思った。



 その後も、エリーさんに回復されながら手加減された火球を受け続けた。


 もちろん、数日経っても火魔法は習得出来なかった。


 そして──事件? いや、大将発案のイベントと言った方がいいのだろうか?


 それが起こる────

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