第43話 訓練は無駄じゃなかった!

 チラッと、後ろを振り向くと追いかけて来ているのは冒険者ばかり──


 ──俺は止まらない────絶対にだっ!


 最初の方は街の人達がひたすら追いかけ回していたんだが、闘気を纏った俺に追いつける人はいないのか、さっきから見なくなり、屈強そうな人達が俺を追い回している。


 だが──俺は昔の俺ではないっ!


 闘気を纏った状態ではBランクの強さがあると言われているんだっ! 絶対捕まらないぞ!


 高ランク冒険者はこんな、つまらない祭りごととかしないだろ!?




 ────そう思ってた時もありました……。




 俺の前に影が横から飛び出す。


「追い付いたにゃ……」


 そう言うのは子供だった……。


 子供が前に立ち塞がるとは……待ち伏せされてたのか?!


「にゃはは、私からは逃げれないにゃ〜。なんせAランクにゃ」


 こんな小さな子がAランクだと!? 世の中広いな……見た目12歳ぐらいにしか見えないんだが……。


 語尾がにゃって──獣人か!? 


 ──というか猫耳が────あったわ!


 待ち伏せされた可能性は──無いな……なんか凄く強そうな雰囲気出てるし。


「なぜ──Aランク冒険者がこんなのに参加してるんですかね?」


 俺は疑問に思った事を告げる。


「そんにゃもん決まってるにゃ! 狙った獲物は逃さないにゃ! お前格好良いにゃ〜番いにするにゃ〜」


 この世界の女性は本当にアグレッシブだな……。


「例え──Aランクであっても簡単には捕まりませんよ」


「大丈夫にゃ〜その程度なら余裕にゃん」


 ────!?


 少しカチンと来たな。


 絶対捕まってやらねーっ!


「やってみろっ!」


 俺は闘気量を増やし、足に集中させていつでも離脱出来るようにする。Aランクと戦うとか絶対避けたい!


 そして、ダリルさんの言葉通りに目にも闘気を込める。


 それと同時に目の前の女の子も闘気を纏う。


 ────!?


 こいつ──なんて淀みの無い闘気を纏ってやがる。


 しかも手足に込めてる闘気量が俺に比べて桁違いだ……。


 俺は驚愕の表情をしていると──


「ふーん、さすがレンジ様とダリル様の弟子にゃ……闘気の基礎は──既にベテランの域にゃ……」


 向こうは俺を褒めてくれるが、それより────いつの間にか弟子扱いされている事に驚愕した。


 確かに訓練は受けてはいるんだが──やっぱり弟子扱いなのか!? しかも、これ噂になってるのか?!


 そんな事より────今は目の前のこの子をなんとかしないと!


「闘気量は桁違い……けど──勝負はやってみないとわからないっ!」


「その通りにゃ〜、他の奴は手出し無用にゃ。出せば────殺す」


 殺気が俺を襲う──


 俺の体は微動だに動かない。周りの冒険者も全く動けないでいた。


 これが対人戦か……何気に真剣な対人戦は初めてだな。


 そういえば、ダリルさんは殺気をあまり出していなかったな。

 テレサさんとエリーさんが言い合いで殺気を出してる所を見たけど……。


 震えが出ないのがせめての救いか……記憶で散々嫌な目に合ってるし、ゴブリンキングにも殺されかけている。


 もちろんダリルさんやテレサさんからも……────こっちはほとんど死の覚悟の練習みたいな物だけどな!


 今までの訓練は無駄にはなっていないな……。


 後は体を動かすだけだっ!


「俺は必ず逃げるっ!」


 パシンッ


 俺は頬を叩いて気合いを入れる。


 俺の四肢に力が入っていく────これなら行ける!



「──!? ますます欲しいにゃ〜。行くにゃ!」


 ──速いっ!? 短剣を抜き放ち俺に迫る。


 だか、俺は目を逸らさない。闘気を込めている目は──しっかりと、猫耳娘の動きを捉えている。


 見えるっ!


 やはり、あの地獄のような訓練は無駄じゃなかった!



「──ここだっ!」


 ギンッ


「やるにゃ……こうじゃなきゃ面白くないにゃ」


 俺は全然面白くないけどな!!!


 今のもかなりギリギリだったんだぞ!?


 Aランクとやり合った感想────無理!


 やっぱり逃げないとダメだな……いつかやられる。


 その為には隙を見つけなければ……とりあえず会話で時間稼ぎだな。


「何で参加したんですか? 貴女と会った事がないはずなんですが」


「……串焼き買ったにゃ……あの時の笑顔で好きになったにゃ……覚えて……ないにゃ?」


 悲しそうな顔をして俺に言ってくる。


 うぅ、俺の心が痛い……。

 そういえばお子様が大量に買ってくれた記憶があるな……。


 というか、俺の笑顔は女性に対する必殺技か何かなのか!?


「……すいません。今思い出しました。串焼きを100本ぐらい買ってくれた人ですね?」


「そうにゃ! 覚えてるにゃ! これは運命にゃ! さっさと捕まって番いになるにゃ!」


 なんでそうなる!? しかも────これってこの間の大将が言っていた上級テクニックじゃないのか? これ絶対相手が欲しい言葉だろ!?


 ここで黙ってはダメだ、何か言わなければ────


「……貴女は素晴らしい女性だっ! まだ俺は貴女に釣り合わない! いつか──強くなって目の前に現れます! たぶんっ!」


 それに、俺はロリコンじゃない! もう少し成長してからにしてくれ!


「にゃ〜ん」


 体をくねくねして、めっちゃ照れている。


 今だっ────



「──どこ行ったにゃ!?」


 俺は照れてる間に物陰に入り──猛スピードでその場を後にした。



 Aランクがいるとか最悪だよ!


 日暮れまで後────5時間は余裕であるな……。

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