第31話 貴方はプロか!?

「いや、大将もいい大人なんで自分の心ぐらい自分でなんとかして下さい」


「いや、無理だな。わしはこの行き場のない気持ちをお前にぶつけると誓った。だから諦めろ……」


「いやいやいや……そうだっ! 今日は──恋愛のいろはを教えてくれないんですか? いや〜あれ楽しみなんですよね〜」


 あの手とは恋愛講座の事だ。俺は即座に話題を変える事にした。



「おっ? 聞きたいか? なら────今日はデート買い物編だな……」


 なんとか話題を変える事に成功したようだ!


 そして、この話も凄く気になるな。大将ノリノリな気がする。


「買い物ですか?? デートで買い物するのに何か必要な心得みたいなのがあるんですか?」


 大将は串焼きを焼きながら話し出す。


「ふむ、コウキよ……お前は服屋に女と行った事はあるか?」


「──ないですね……」


 あるわけがない。女友達すらいねーよ!


「では、仮にだ。お前が服屋に行った時……2つの服を持って来られた時、どう答える?」


「そりゃあ、似合う方を言いますよ」


「はぁ……。女がどっちがいいか聞いてくる時はな……だいたい答えが決まっとるんじゃ……。だから、女は自分の好きな服の後押しを待っている事が多い。もちろん純粋にどっちにするか迷っている時もあるがな……そんなのはもっと信頼関係が育ってからだ」


「しかし、初めから決まっている答えを──なんで聞いてくるんですか?」


「そりゃあな……自分と同じ価値観かを確かめてるんだよ……要は試されている。もしくは──同調してほしいとかそんなんだ」


「──!? そうなんですか!? じゃあ……答えを間違ったら────」


「もちろん、そこでコウキの評価は下がる……」


「二択ではあるものの……答えを見つけるのは至難では?」


「馬鹿野郎っ! それはお前が未熟だからだっ! お前に足りないのは観察力だっ!」


 俺は頭に金槌で殴られた衝撃が走る。


「なっ、なるほど! つまり、服を選ぶ前にヒントが隠されているんですね!?」


「……正解だ。まずは目線が重要だ……気に入った物を見る時ってのは他の物を見る時より──少し長めに見る。それはほんの少しの違いだが……それがわからないと、まず失敗する──だから見落とすな! そして迷ってる時は聞いてくる時もある! それもチェックが必要なわけだが──これも選択を間違えるとダメだ」


 なんと!? そんな方法が! そして聞かれても選択があるとは……奥が深いぜ……。


「どうするんですか?!」


「例えばだ……わしが剣を買おうと悩んでおるとしよう。────これとこれだ」


 大将は剣を二本取り出す。一本は普通の飾りのない実用的な剣、もう一本は宝石とかが埋め込まれた高級そうな剣だ。


 というか────どこから出したよ!?


「はい……」


 とりあえず、剣の事は無かった事にして返事をする。


「では、コウキ……わしはまず、この普通の剣を見て悩んでいるとしよう。お前は何と言う?」


「見た目普通ですが、切れ味が良さそうですねとしか言いようがないです」


「はい、失格。これが服の場合なら普段着だろう……しかし、女はこれをお前にどうかと聞いている時点で気になっておる。つまり、そんな適当な返事をしたら────わかるな?」


「なるほど……」


「わしが逆の立場になってコウキに言うなら──少し飾りが欲しいところじゃが、実用的な作りになっておるし、頑丈で長持ちしそうじゃ……長期戦でもメンテナンスさえしておれば乗り切れる。なによりお前の背丈に合っている──とまぁ、適当に言ったが、こんな感じだな。更に上級テクニックになると、自分の好みにしたい時は良い所を押しまくるといい」


 ────この人は恋愛のプロか何かか!?


 そんな風に言われたら、気に入っている前提であれば、俺は買ってしまうかもしれない!


「大将……貴方は素晴らしいっ! つまり、服を選ぶ時に聞かれても──ダメ出しや興味の無いような素振りは見せてはダメなんですね!」


「そうじゃ、そして──その時の反応も覚えておかねばならない……二択を迫られた時の判断材料になる」


「勉強になりますっ!」


「まぁ、たまにいる男っぽい女は単刀直入に感想を求めてくるがの……他にも惚れられておるなら、選んで欲しいって奴も中にはいるから見誤るなよ?」


 深い……なんて深いんだっ!!!


 たかが服を選ぶだけでどんなに思考しなければならないんだ!?


「大将……実際に二択を迫られた時──間違えないようにするにはどうしたら?」


「とりあえず一番簡単な答えは──褒める事だ。相手が聞いてきている時点で……それは相手の好きな物だ。それを否定する事は決して許される事では──ないっ!」


「さすがですっ! 俺──大将にもっと色々聞きたいですっ!」


「そうか、そうか〜。なら昼からの修行頑張らなくちゃなぁ〜。魔物狩りまくって、わしの気が向いたら続きじゃ……なぁ?」


 大将の悪そうな顔に俺は顔面蒼白になる。


 増し増しの件忘れてなかったのか……。


 大将の話を聞いてる間、お客さんは来ず──既に昼になっていた……。


 ダリルさんが少し離れた場所に見える……迎えに来たのか……。


 大将の恋愛のいろはは冥土の土産みたいになった上に────


 ────猶予すらなかった件について……。



 ダリルさんが死神の使者に見える……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る