第32話 逝ってきますっ!

 ダリルさんに連れられ、俺は外にいる。今日はテレサさんとエリーさんも合流している。どうやら見学するようだ。


「ダリルさん、どうするんですか?」


「とりあえず、闘気の練習からだな……その後は軽く模擬戦してから────討伐だ」


「…………本当に討伐するんですか?」


「やらなきゃ、あのクソ親父が直接やってきて指導する事になるな……」


 逃げ道は既に塞がれていたか……。


「はぁ……とりあえず始めます……」


 俺は闘気を薄く放出し、強弱をつける。


 暇を見つけてやっているせいか、とてもスムーズに行える。


「……コウキ……闘気の使い方はもういいだろう。闘気は一部に集中すると威力が上がるし、防御力も上がる──今度はそれの密度を変えろ……そうすれば例えば────普通の剣なら素手で弾き返す事が出来る」


 ────マジか!? 剣弾けるって闘気やべぇな。


「やってみます……」


 俺は凝縮するように闘気を集中させる。


 すると──オーラが薄い白から少し濃い白色に変わる。


 これは──成功なんじゃないかな?


 俺は地面を殴りつけてみる事にする。



 ドズンッ



「…………」


 俺の足元は1m程のクレーターが出来る。



「ほぅ、中々のもんだな……これなら──実戦でも十分だな」


「これって人に向けて撃ったら……」


「間違いなく破裂するな」


 段々、人の領域から遠ざかっている気がする……。


「……平和に生きたいですね……」


「無理だろ……既に変態に目をつけられてるしな……」


 そっちの意味じゃないっ! 確かにそっちも平和にいきたいけどさっ!


 変態に目を付けられる率が高い俺は呪われているんじゃないんだろうか?




 しばらく、闘気の使い方を学んで練習した後、模擬戦に移る。


「コウキ、俺の攻撃が捌けるまで──この訓練はずっと続く」


「はぁっ?! つまり次のステップはこれをクリアしないと行かないと?」


「そうだ。と相対して──攻撃が見えない時点でと戦闘にすらならん。そして、お前はに捕まる」


 変態ばっかり強調して連呼しないでくれますかね!?


 言われてみればそうなんだが……悪意のように感じるぞ?!


 確かに動きが見えないという事は──戦闘では死を意味する。ダリルさんもなんやかんやで色々考えてくれてるんだろう……。


「──わかりました。────では行きますっ!」


 俺は闘気を出し──構える。



「恐るな、目を瞑るな、相手の攻撃、目線、体捌き────全てを観察して次の動作を読め……行くぞっ!」


 さすがだ……大将とダリルさんはやっぱり親子であり師弟だな。言っている事が似ている。


 洞察力、観察力──それらは俺に足りない物だ。


 気配が変わり──


 ダリルさんの無数の刺突が俺に襲いかかる──


 見える──今日は見えているっ! これなら──


「ガハッ……」


 いきなり肩を突き刺された……。


 ……うん、見えるのと避けるのは違うな!


 見えてても反応できねぇよっ!


 せめて、反応出来る速度で攻撃してくれませんかね!?



「今のは良かったぞ! 微かに視線は俺の剣を捉えていた。さぁ傷を治してもう一度だっ!」


「もう少し手加減を……」


「お前に立ち塞がる変態は──少なくとも────これより速いっ! 最低でもこれぐらい避けれるようになれっ!」


 本当、あの変態ギルマスどんだけ強いんだよ……変態の癖に!


 だが、ダリルさん……基礎的な物を吹っ飛ばしてやるなんて理不尽だ……。


 この怒りは絶対、あの変態と対峙したらぶつけてやる……。



 そう奮起し、闘気が尽きる寸前までダリルさんの斬撃の嵐を喰らい続け休憩していると──



「さぁ、休むのは終わりだ──向こうから敵だ……行ってこい」


 ダリルさんの視線の先を見るとゴブリンがいた。


 ……ついにこの時がやってきた。


 魔物を狩るようだ……。


 俺は魔物を狩った記憶が蘇り──冷や汗を流す。



 本当にやらないとダメなのかな?


 殺す事は覚悟があるから──まだいい……。


 しかし────殺した後の記憶の流入が嫌だ……。


「ダリルさん……何匹狩るんですか?」


 目の前には2匹いる。


「お前を迎えに行った時に親父からの伝言で10匹以上と言われている……本当は1匹にしようとしたんだがな……」


「なら1匹にしません?」


「バレたら後が怖いぞ?」


「なぁに、大将は屋台にいます。バレませんて! ねっ? そうしましょうよ!」


「……コウキ……お前の右側に大きな木が一本あるだろ?」


 ダリルさんは俺に話しながら、首をクイっと動かして場所を確認させる。


 確かにでかい木があるな。


「ありますね。それがどうかしたんですか?」


「……あのクソ親父はあそこにいる……既に手遅れだ……」


 なんだとぉぉぉっ!?


「嘘でしょ!?」


「本当だ……テレサ──探知魔法を使ってくれ……」


「わかったわ────っ!? 阻害された!? 私の探知を!?」


「……という事だ……テレサの探知魔法を阻害する化け物なんて────この街にいるのはクソ親父ぐらいだろ……」


 ────終わった……逃げ場無しか……。


「コウキ、元気出して! 私が後で慰めてあげるから……」


 エリーさんが優しい……。


「天使がいる……」


「──!?!? 何言ってんのよ! 早く行って来なさいっ!」


「……頑張る……」


 後で慰めてくれるらしいから頑張ろう……。


「さっさと逝って来いっ!」


 ダリルさん……少しぐらい覚悟を決める時間をくれ……。


 そして────言葉の意味が違う! 絶対違うっ!



「……はい……」


 とりあえず返事をし、闘気を纏い──剣を構える。



 敵は──2匹か……またゴブリン……。



「逝って来ますっ!」



 俺は──ゴブリンに向かい走り出す────

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