第30話 増し増し!?

 次の日がやってきた……夜はなんやかんやで大将やダリルさん達のお陰で気が紛れたのか多少は眠れた。


 例の夢は少しだけで済んだが────今日訪れるであろう恐怖心の方が勝っているようだ……。



 俺は大将の元へ行く。



「おっ、逃げずに来たか!」


「……逃げても無駄なんでしょ?」


「ダリルに聞いたかっ! そりゃそうだ、わしから逃げれる奴はおらんっ!」


「はぁ……それで、串焼き売ったらいいんですよね?」


「そうだ。だが──売り上げが一昨日より落ちてたら────修行は増し増しな?」


 ────!? なんだと!?


「何故!?」


「昨日休んだからだな。お前に期待している。わしはちょっくら出てくるから──売り上げが落ちてたら魔物狩りのノルマ増やすからな」


 そう言い残して大将は去っていった……。


 鬼っ!!! 

 怖くて声に出せないけど、俺は確かにそう思った。



 俺は大将がいなくなった後は串焼きを焼き始める……。


 料理なんてあんまりした事がなかったけど──カミラさんからの記憶のお陰で手際良く出来ている。


 しばらくすると、お客さんが来る。


「あらっ、今日はちゃんとやってるのね」


 一昨日のお友達を連れて大量買いしてくれたお姉さんが来てくれた。


 少し眠そうにしている。きっと夜の仕事が終わったんだろう。


「らっしゃいっ! お姉さんまた来てくれたんですね!? とても嬉しいですっ!」


 俺は素直に思った事を声に出す。


 本当に嬉しい……お客さん来てくれなかったら──俺の地獄の蓋が開かれる所だからな……。


「あら、嬉しい事言ってくれるわねぇ〜。お姉さん奮発しちゃうわよ? とりあえずそこにある串焼き頂戴な」


「…………全部ですか??」


 俺は視線を落とす。これ────この間と同じパターン?!


「そうよ?」


「軽く50本は超えてますけど……」


「わかってるわ。見て言ったから」


 マジか……この人────マジもんの女神様だっ!


「少々お待ちをっ!」


 俺は串焼きを焼きながら思う……この人どんだけ食うんだろうかと……。


 そんな俺の内心を悟ったのか──


「私1人じゃ食べないわよ?」


 と言われた。そんなに俺って、わかりやすいんだろうか?



「ですよね!」


 どこかに差し入れでもするのかな?

 というか……この人……俺をガン見してくるんだけど……。


「君、名前は?」


「えっ、あぁ……俺はコウキです」


「そう……後でまた友達連れてくるわ……」


 マジか! 大将の地獄の蓋は回避出来るかもしれない!


「お願いしますっ! へいっ、お待ち!!!」


 俺は63本の串焼きを焼いてお姉さんに渡す。手際が良くなった為か、大分早くなった気がする。



「ありがと。また後でね」


 お姉さんは去っていく。


 俺──大将に教わらなくてもモテるんじゃないだろうか?


「おっと、仕込みしとかないと……」


 俺は来たるお姉さん達の為に材料全てを仕込み始める。


 ────しばらくするとお姉さん達がやって来た。


 しかし、……このお姉さん、知り合い多すぎじゃないだろうか??


「来たわよ〜」


「へいっ、らっしゃい! たくさん連れて来てくれたんですね! ありがとうございますっ! 助かりますっ!」


「いいのよ。この子達も貴方に会いたいって言ってたから……」


「そうなんですね! ありがとうございますっ! 皆さんもありがとうございますっ!」


 俺はハニカミながら来てくれた女性達にそう言うと──笑顔で応えてくれる。


 ──とても良い……最近は色々な出来事で俺の魂は擦り切れている!


 こういうのを待ってたんだっ!


 これなら売り切れて地獄の蓋は開かれないなっ!



 俺は次々と己の最速で串焼きを焼き上げていく。

 途中、何故か──握手を求められた。それを皮切りに次々と希望され、串焼きと硬貨を交換する際に握手をする事になった。



 そして、あっという間に仕込んだ材料を全て焼き切り、商品がなくなったので、お店は閉店になる。

 手元には大量の硬貨がある。



「おうっ! 調子はどうだ──ってコウキ……まさか……あの量の材料分売り切ったのか!?」


「あっ、大将。売り切りましたよ? これで修行は増し増しではないですよね?」


「…………正直ここまでやるとは思っておらんかったな……。さすが孫弟子! 材料はわしが持っているから続きはわしがやる。コウキは休んでおけっ!」


「はーい」


 俺は屋台の隅っこで座る事にした。



「へいっ、らっしゃいっ!」


 おっ、大将が焼き始めたらお客さんが来たようだ。


「あら? あの若い子は?」


「今休憩中ですね!」


「なら、いいわ。あの子のいる時にまた来る事にするわ。よろしく言っといてね」


「…………」


 どうやら、俺に会いに来てくれたお客さんのようだ……。大将が固まっている。


 なんか──大将からヤバい雰囲気出てる気がする……。


「…………コウキ……」


 大将は振り向かずに声をかけてくる。


「はい、どうしました?」


「修行は増し増しだ」


「えっ!? いっぱい売ったのに!?」


「わしの心が割れそうだ……だから修復するには──コウキを──いじめ──いや、強い男にする事が必要だ……」


 今、虐めって言った! 絶対言った! 横暴だっ!


 八つ当たりで修行増し増しとか勘弁してくれっ!


 何か──何か手は無いか!?


 そうだ! あれしかないっ!

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