第20話 ロストメモリー
串焼きを手に持って広場に到着した。
「一ついい?」
「なんですか?」
「お金無いって言ってたよね? なんで串焼き買えるの?」
あまり聞かれたく無い事を聞かれてしまった……。
「実は──串焼き代の代わりに後日、働くと交渉しました」
「ぷっ、私が払ってあげたのに」
カミラさんは俺の答えに笑う。
「まぁ、こうやって笑顔が見れただけでも損はないですよ……理由がバレて格好悪いとは思いますがね……」
俺は苦笑いしながら答える。
「ありがとう……コウキ君があの時助けてくれて良かった……でも……本当に彼が好き……だったの……」
「そうですか……」
涙を流しながら話すカミラさんに俺は返事をする事しか出来ない。
「まだ彼を信じていたかったのかもしれない……でも最後は殺されそうになった時に……私はいらない子……なんだって思ったの……もう生きるのが辛い……うぅ……」
大粒の涙を流しながらすすり泣くカミラさん……。
俺はそっと抱き寄せる。その時──元恋人の記憶が俺に流れてきた。
試してみる価値はある……。
やってみる価値はある────
だけど──いや、やるしかない……彼女を俺が言葉だけで慰めるのは不可能だ……読み取った記憶では────この後、彼女は自殺するかもしれない。
それだけの絶望感が俺に入ってくる……正直────俺も辛い。
「カミラさん……俺とキスしませんか?」
「……何で?」
「そうですね……俺がしたいからですかね?」
「何で疑問形なのよ……いいわよ……コウキ君が忘れさせてくれる?」
「えぇ……忘れさせてあげます……さぁ目を瞑って下さい……」
「何でそんな辛そうな顔をするの?」
「そんな顔して……ます?」
「してるよ? 何で、そんなに涙を流しているの?」
「さぁ……なんで……で……しょうかね? 早く……目を瞑って下さいよ」
「嫌な予感がするから嫌よ……」
「そう……ですか……じゃぁ、無理矢理しますね?」
「ちょっ待っ──んっ──」
肩を掴み、無理矢理キスをする。
カミラさんの記憶が流れ込んで来る────元恋人との記憶、それと料理に関する記憶。
元恋人の記憶────それはカミラが幸せと不幸な時の記憶の両方だ。
ティナの時に俺が感じた記憶と被る────あれだけ幸せだった頃が、一瞬にして壊れてしまう。辛い──辛い記憶。
俺にも微かに惹かれてくれているようだった……それだけに寂しい……選んだ記憶と俺の記憶を消し去ってしまう事が……。
昨日、ダリルさんに担がれてる時に記憶が俺に流れ込んで来た時があった────その時、直感でその記憶を消す事が出来る事を感じた……。
それは──俺だけの記憶を消すだけじゃない────そう俺は感じ取れた。
人の記憶を消す事が出来る──それはある意味禁忌のような気がする。出来ればしたくなかった……。
けど────これしか手はない。
カミラさんが俺を見詰めている事に気付く。
成功しているはず────次の言葉を聞く覚悟は出来ている。
「貴方誰?」
大丈夫────
「俺は──貴方と一緒に働いている同僚です」
生きるのが嫌な記憶と俺に関する記憶は消えた……。
「見た事ないわ……」
これから先────カミラさんは前を向いて生きてくれるはず。
「そうです……か……殴らないんですか? キスされたらビンタの一つぐらいしてもいいと思いますよ?」
そこに俺はいなくても構わない……彼女が笑顔でいてくれるだけで──それだけでいい。
「えぇ、何故か叩いたらダメな気がするの……貴方……辛い事あったの? 涙が出てるけど……」
それが、人を好きになるって事を思い出させてくれた彼女に対する恩返しだ……。
「カミラさんの優しさに感動してるんですよ……貴女で良かった……本当に良かった……」
涙を流し続ける俺をカミラさんがそっと抱きしめてくれる。
ありがとう……カミラさん……。
この力が憎くなくなったよ……こうやって力を使って君を救えたんだから……。
記憶がなくった以上、また最初からやり直しだけど──カミラさんの優しさに俺も救われた……。
また──記憶を失う前みたいに普通に話をしたりするぐらいになりたい。
けど、きっとその時は──カミラさんは俺に違う印象を持っているはずだ……。
それがどうしようもなく寂しいけど────後悔はない。
「……ぐっ……うぅ────」
俺はカミラさんに抱きしめられている途中に急激な頭痛が襲い──その場で蹲る──
「どうしたの?! 誰か呼ばないと──そうだっ! うちの宿屋に回復魔法使える人がいたはずっ! ちょっと待ってて」
そう言い、宿屋に向かい走り出すカミラさん。
おそらく──エリーさんを呼びに行ったんだろう。今日は確かゆっくりすると言っていた。
それにしても──頭が痛い……これは動けそうもない……。
「ちょっと、大丈夫なの?!」
「──!? エリーさん……来るの早くないですか?」
「それは覗いて──ってそれどころじゃないでしょ!? ちょっと待ってて──今、回復魔法使うわ」
覗いてたのか……。
まぁ、今は回復魔法使ってくれる事に感謝だ……。
時間と共に少しずつ痛みが緩和する。
「ありがとうございます……」
だが、完全には痛みは引いていない……だがマシにはなっている。俺はお礼を告げて自分で回復魔法を使う。
「何で──キスしたの? あの感じだと、彼女──貴方の事忘れてるじゃない……好きだったんじゃないの?」
俯きながら俺に問いかけるエリーさん。
「さっき出来て確信に変わったんですが……どうやら──俺に関する記憶以外も消せるみたいなんです……ただ──副作用なんですかね? 今みたいに激痛が襲ってしまうみたいですが……」
「答えになってないわっ! 何でそんな事したの!?」
「何でって──カミラさんの辛い記憶を消したいから?」
「だからって────なんでそんな辛い事を選んだのっ!」
「それが────1番の最善だったからですかね?」
「それはあの子にとっての最善でしょ! コウキにとっては辛い選択だったはずっ!」
「確かに──辛いですよ? だけどね……カミラさんは本当に優しい子なんです……なんたって記憶を無くしても俺を殴りませんでしたからね? やる価値はあったでしょ?」
俺は笑いながらエリーさんに問いかける。
「………………」
エリーさんは俺を殴った事を思い出したようで、黙り込む。
「別にエリーさんを責めてませんよ……ただ────カミラさんは俺に大事な事を思い出させてくれたんです。だから、そのお礼です……」
「そんな辛そうな顔で言われても説得力ないわよ……」
「そう……ですね……。でも気遣ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」
「もうっ! 知らないわっ!」
「明日からは串焼きの屋台でアルバイトします……」
「はぁぁぁっ、何でそんな事になってんのよ!?」
「串焼き代金を働いて返すと言いました。ですのでダリルさんにも伝えておいて下さい」
「はぁ……わかったわよ……もう大丈夫そうだし行くわね」
「はい、ありがとうございました」
俺はエリーさんを見送った後、その場でまた座り込む。
宿屋のアルバイトも潮時か……。
割り切ったとはいえ──カミラさんと顔合わすのが辛い……。
宿屋に戻ったら女将さんに言おう。そして明日からは屋台デビューだっ!
俺は空を見上げる……。
夕暮れか……。
エリーさんにぶん殴られた時を思い出す。
あの時も、夕暮れだったな……。
俺は苦笑する。
ただ、あの時は──この力に気付いた。
今回は──この力を使ってカミラさんを救えた。
記憶を消す事が本当に救いに繋がるかは俺にはわからない────だけど、生きる意味を失うぐらいの記憶は無い方がいい……。
だって、それが原因で死ぬかもしれないなら────リセットしてやり直してほしいと思う。
せめて──俺が好きになった人には前を向いて歩いて行ってほしい。
自分のエゴだってわかっている……。
同じような事になったらきっと──また同じ事を繰り返すかもしれない……。
それがわかっていたとしても────俺はきっと自己満足でやるだろう。
その人が前を向いて行ける事を願って────
カミラさんが幸せになる事を祈って────
俺は歩み出す────
途中で、カミラさんと出会った。
「君大丈夫だったの?? 回復魔法使える人がいなかったら戻ってきたんだけど……」
エリーさんはカミラさんに呼ばれたのではないと断定出来る発言を聞いてしまった……ガチで覗いてたのか……。
「えぇ、大丈夫になりました。ご心配をおかけしてすいません。宿屋に戻りましょう」
俺達は宿屋に向かって歩き出す。
【ロストメモリー】それが俺の力────この先、力を使うと、きっと後悔の連続かもしれない……だけど今回みたいな結果が出るのなら────それも悪くない……。
記憶を失っても────また一から作って行けばいい。
それを今回、学んだ……俺は自分の信じた道を進んで行く────
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