第21話 給料の行方は!?
俺は宿屋に帰った早々に女将さんに話しかける。
「すいません、仕事やめますっ!」
「あら、どうしてだい? カミラと喧嘩でもしたのかい?」
「──まぁ、そんなところです」
「全く……あの子は……昼間はありがとうね。まさかあそこまで騒ぎになるなんてね……デートしてたって聞いたけど──上手くいかなかったんだね……」
「そう……ですね。世の中上手く行く事の方が少ないですね」
「仕事を辞められると、うちとしては困るんだがねぇ。最近あんたのお陰で朝と昼の女性客が中心に増えたからねぇ〜」
そうだったんだ……実は俺人気者だったのか!?
中心にという事は────まぁ、あっち系の男も増えてたんだろうな……。
「まぁ、一時の事ですよ。俺も残念ですけど、これも仕方ない事かなと……」
「またやりたくなったら言いな」
「はい、ありがとうございます」
女将さんとの話は終わり、今度は外に出てしばらく歩いた先にある屋台に到着する。
「おっちゃん、明日からよろしくなっ!」
「おうっ! 坊主、女に振られたってなっ! わしが恋愛のいろはを教えてやるわいっ! 恋人が欲しいなら────わしに任せいっ!」
「ははっ、期待してますね。じゃぁ明日の午前中お願いします」
俺は去り際に思った……。
……俺が振られたってどこで聞いたんだ!?
噂になっているのか? それより──おっちゃんが恋愛のいろはを知ってるのか気になるんだが!?
宿屋に戻り、寝ようとベットに横になっても全く寝付けないでいた。
後悔はしてないけど────やっぱり、胸にポカンと穴が空いたような感じだ……。
俺は飲み物を貰いに行こうと部屋を出る。
しばらく歩くとカミラさんがいた。
俺は会釈する。
彼女も会釈をしてくれた。
まるで──お客さんを相手にするように。
これは俺の能力不足で力に頼った結果────そう思い、横を通り過ぎる時に昼間のお礼を言おうと話しかける。
「あの──」
「何か御用でしょうか?」
「いえ、昼間はありがとうございました」
「いえいえ、大丈夫そうで良かったです」
「では──」
やっぱり──わかっていた事だけど、辛いものは辛い。
「コウキどうしたの?」
エリーさんが声をかけてきた。
「飲み物を飲みに……エリーさんは何でここに?」
「コウキが部屋を出たから気になって──」
「また覗きですか?」
俺は揶揄うように言う。
「──違うわよ! 全く可愛げがないわね!」
「冗談ですよ……一緒に飲み物飲みます?」
「……そうね……慰めてあげるわ……」
「気を使ってくれるんですね? どうしたんですか?」
「コウキ……辛い時は強がらなくていいわ……一緒にお酒でも飲んで紛らわせましょ?」
「強がっていませんよ……ただ、お酒飲むなら奢って下さいね? 俺一文無しなんで」
「ふふっ、別にいいわよ。さぁ行きましょう」
俺達は2人で席に着き、エリーさんが注文したカクテルみたいなお酒を一口飲む。味は甘いお酒だった。
「ごめんね……」
「何がですか?」
「この間……ビンタして……」
「あぁ、もういいですよ……気にしてませんし」
「今日ね……コウキがその力を使った時──凄く悲しい顔してたわ……私がした行為は許される行為じゃないって気付いたの……」
「俺が許しますよ……だから気にしなくていいです……」
「自分の記憶が相手から無くなる──その様子をさっき見た時──思ったの……あんなに親しくしていたのに他人行儀みたいになってしまうなんてあんまりだって……コウキはあの子の為にやったのに報われないって……」
「そうですかね? 俺は後悔はしてませんよ? カミラさんに忘れられてしまったのは寂しいですが、それ以上に恩がありますからね」
「恩って?」
「恋人に振られた後に、エリーさんに罵声を浴びせられて俺は人を愛する事に恐怖しました────けど、カミラさんはそんな俺を笑顔で接してくれて──人を好きになるという事を思い出させてくれました。それだけでも十分なんです」
「思い出させてくれたって事は──その子の事を好きになったんじゃないの?」
「そうですね。確かに惹かれていました」
「なら何で使ったのよ!?」
「回復してくれた時にも言いましたが……昨日の訓練の時にたまたま気付いたんですけどね……触れると記憶がわかるんです……カミラさんは元恋人を依存してしまうぐらい好きでした。その彼に殺されかけたという事実が彼女を壊してしまったんです……。そして──俺に対しても確かに恋愛感情に近い物はありました。だからこそ使いました」
「意味がわからないわ……何でコウキの事を好きなのに力を使う必要があったのよ!?」
「俺に対する気持ちなんて元恋人と比べたら、とても小さいんです。それが大きければ────彼女は自殺しようなんて考えなかったでしょう……だから使いました……」
「それって──」
「以上が力を使った理由ですかね? もういいじゃないですか……カミラさんは記憶がなくなり、心が救われた────それだけでいいんですよ……」
「……コウキってお人好しね……」
「そう……ですかね?」
「そうよ。だって──恋人でもないのにそんな辛い事しようなんて思わないわ」
「好きになったらすると思いますよ? それが恋愛感情であればね……男に関しては絶対にしたくありませんがね!」
「ぷっ、うふふふっ。そりゃそうよね。男同士でキスとか最悪だもんね」
「でしょ? 俺は絶対に変態ギルマスから逃げ切ります!」
「なら、お父さんの訓練頑張ってね?」
「はいっ!」
「コウキ……本当に辛くない?」
「辛いですよ? それに寂しいです。だけど、こうやって話を聞いてくれてるお陰で──少し救われました。一度は地獄に叩き落とされましたけどね?」
「だから、ごめんって! そっか……少しでも気が楽になったなら良かった……」
「冗談ですよ。気にかけてくれてありがとうございます」
「また私が話ぐらい聞いてあげるわ……今日はここまでね……」
ふと、周りを見るとダリルさんとテレサさんがいた。
「おっ、コウキとエリーこんな所で何してんだ? 仲直りしたのか?」
「あらあら、付き合うのかしら?」
2人が俺達に気付いて声をかけてくる。
「エリーさんが俺を慰めてくれてるんですよ」
「────揶揄うなっ!」
エリーさんがムスッとした顔で返事をして、俺達は笑い合う。
そんな時間がとても俺の心を温めてくれる。
こういうのもいいな……そう思えた……。
そういえば2日分の給料貰ってないと思ったら、会計時に女将さんから「あんたの給料から払っとくよ」と言われた。
俺の給料って一回の飲み代にしかならないのかと思ったが、それ以上に──
結局俺の奢りになっていて苦笑してしまった。
さぁ、明日からも頑張って働こうっ!
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