第18話 これは──予行練習だっ!

 俺は朝早くに起きて、闘気循環と強弱の調整を行う。気合いは十分だ。


 さぁ──もうすぐ、仕事の時間だ。


 今日の訓練は辞退している。ダリルさんは残念そうにしていたが、元彼がいつ来るかわからない以上はカミラさんの側を離れるつもりはない。



 俺は食事処に向かう。



「おはようございます」


「今日もよろしくね!」


 カミラさんに挨拶をすると、昨日みたいな感じではなかったが、あの記憶を見た後だと──空元気のように思ってしまう……。


「訓練は休みましたので、今日は近くで見守ってますね? 昨日の約束守りますよ」


「──うんっ、ありがと! じゃぁ1日一緒だね!」


 花が咲いたような笑顔を見せてくれるカミラさんに俺も笑顔で頷き返す。



 午前中は昨日、一昨日と変わらない感じで仕事をこなしていく。


 話しかけられるのも慣れてきた。あしらい方も分かってきたような気がする。


 カミラさんのサポート無しでもやれている事実に成長を実感した。前世ではアルバイトすらした事がなかった俺だが仕事が楽しく感じる。


 そして、3日目の仕事なんだけど──人が増えている気がする。特に女性客が多くて、頻繁に声をかけられる。



 そんな感じで午前の仕事は終わりを迎え、賄いを食べている時に────その時が来た。




「なんだ、お前がこいつの元恋人か? 俺が今後もこいつを可愛がってやるから安心しろや。不細工ちゃん? がっはっはっはっ」


 俺は大声が聞こえて来た場所まで移動する。


 そこには大柄な男が、元彼であろう男を抱き寄せてカミラさんに言い寄っていた。


「そう言う事だから──僕の事は忘れてくれ。俺は真実の愛がやっとわかった。カミラ、君では僕に相応しくない」


 寝取った男に抱き寄せられながら、カミラさんに追撃するように言う元彼。


 少し離れた場所からでもカミラさんが震えているのがわかる。


 俺は拳に力を入れて耐える。

 俺は見守ると約束した。殴ってはダメだ。


「どうして……わざわざ言いに来たの?」


 カミラさんは震える声で元彼に問う。



「そんなもん、決まってるじゃないか。自慢しにだよ? カミラといる時より幸せな姿を見せに来たに決まっているだろ? 彼は夜も凄いんだよ? それはもう────「黙れっ」──はっ?」


 カミラさんは元彼の言葉に涙を零し始め────見ていられなくなった俺が制止する。


 というか──夜の話なんか聞きたくないわっ!


「もう黙れと言っている……聞いてるだけで胸糞悪い。それにわざわざ、そんな事を言いに来る神経がどうかしてる────だから帰ってくれないか? 飯が不味くなる」


 カミラさんは俺を涙を流しながら見つめてくる。



「君は誰だい? これは俺とカミラの問題だ。君は関係ないだろう?」


「確かに関係ないな。だが──女の子が泣いている……それだけで俺には動く価値が十分あるっ! 周りを見てみろよ? お前らの言動に腹立ってる奴らばっかりだろ? 俺はそいつらの代表でここにいるんだよ! このカスがっ! さっさと帰れっ!」


「口の聞き方を知らない坊やだね……お仕置きするよ? 僕はDランクの冒険者だ。彼はCランク──謝るなら許してあげるよ?」


 眉をピクピク動かしながら答える元彼。


「はっ、糞食らえだって言ってんだろうがっ! そうやって脅せば何でも出来ると思うなよ? このゴミがっ!」


「おいおい、俺の可愛い子に何て言い方しやがる……ってお前──可愛いな……お仕置きが必要だなぁ」


 寝取った男が横にから入ってくる。

 ──そういえば変態が相手だったな……。


 俺は鳥肌が立つが、逃げる気は全くない。ダリルさんは戦う事が必要な時もあると言っていた。今がその時だ!


 カミラさんからどう思われても、嫌われたとしても────これは俺には見過ごす事は出来ないっ!


 それに──変態ギルマスに比べるなら何倍もマシだっ! これは言い寄ってくる変態討伐の予行練習だっ!



「もう、やめて下さい。彼は関係ないでしょ! 私に自慢もしたんだから用は済んだでしょ! もう帰ってっ! ──きゃっ」


 元恋人がカミラさんの顔面を殴り付ける。


 俺は殴られたカミラさんを受け止める。


「カミラさん……約束守れなくてすいません。でも──俺は許せません……」


「ダメだよ……Cランクの冒険者だよ? コウキ君殺されちゃうよ……」


 俺は泣きながら心配してくれるカミラさんに回復魔法を殴られた頬にかける。


「大丈夫ですよ。俺はダリルさんの教え子ですよ? と言っても2日しか訓練してませんがね? カミラさんの笑顔──素敵です。いつも笑っていてほしいです。だから──俺はその為に必要だと判断して────ぶん殴りますね?」


 俺は気持ち良いぐらいの笑顔で話しかける。


「なんで──そんなに私なんかに優しくしてくれるの?」


「何ででしょうね? 笑顔が見たいからじゃないですかね?」


 今度は悪戯な笑みを浮かべて答える。



「意地悪っ……でも……ありがとうね……無理しないでね?」


「任せて下さい。これでもダリルさんからはお墨付きですよ?」


「おらぁっ! 何いちゃついてやがるっ! お前は絶対に連れ去って、後で可愛がってやるからなぁっ!」


「煩いっ! さぁ──表に出ろっ!」



 カミラが傷付いた分も俺が倍返しにしてやるっ!


 ────もちろん物理でだっ!!!

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