第17話 展開早くね!?
宿屋に帰宅した後、しばらくしたら身体は動かせるようになった。
闘気を限界まで使うとどうやら負担がかかって、しばらく動けなくなるようだ。
回復魔法を使っても痛みは弱まるが、動くのは厳しかった。最後の飛ぶ斬撃で予想以上に負担がかかったのかな?
ちなみに帰り途中、ダリルさんから聞いた話によると、闘気と魔法は相反するらしい。
闘気と魔法を別々に使う事は訓練次第で可能だが────同時に放出する事は出来ないらしい。
使えば──身体が爆発すると念押しされた。
きっと、過去にそんな人がいたのかもしれない。
まぁ使う事はないだろう……わざわざ死ぬような事をしたくない。
その時に九刃の事も聞いた。
九刃とは──元剣聖直々の弟子達の事を指すらしい。
過去にレンジと呼ばれている元剣聖とその弟子9人が国を相手取り、武力で封殺したそうだ……そこから────畏怖を込めて、ついた名が九刃だと言う。
エリーさんが産まれる前の話らしいが、国を相手にする無茶苦茶加減に俺は絶句した。
何をどうしたら国と戦う事になるのか聞きたくとも怖くて聞けなかった。
つまり、九刃とはヤバい意味で誰でも知っているぐらいの集団だという事になる。
この先、他の九刃と会わない事を願いたい……。
国を相手にするとか、どう考えても普通の思考回路じゃないしなっ!
とりあえず、今の俺は2日間の訓練で強くなれた実感がある。
これなら────カミラさんを悲しませる奴をぶん殴る事も出来るはずだ。
そういえば──ダリルさんに抱えられた時、一瞬だけだったが……記憶が流れ込んできたな。
触れるだけで相手の記憶が覗き込めるというのは新しい発見だ。
この力は────まだ俺の知らない事だらけだ。
トンットンッ
ノックをされ意識がそっちに向かう。
「どうぞ〜」
俺は入るように伝える。
「大丈夫?」
入って来たのはカミラさんだった。どうやら担ぎ込まれた俺を心配してくれているようだ。
「大丈夫ですよ。わざわざ心配して来てくれたんですか?」
「うん……」
俯き返事をするカミラさんの様子を見て俺はそうじゃないと判断する。
「どうしたんですか?」
「実は──明日に来るって書いた手紙が届いたの……」
来るって言うのは……きっと元彼だろう。
来るの早くないか?
俺が今日、訓練の成果が出せていなかったらヤバかったな。
だが、今は十分ぶん殴れるぐらい強くなっている。
「じゃあ、明日──ぶん殴りますねっ!」
俺は笑顔でそう言う。
「もうっ、そんな事したらダメよ? 私は大丈夫だから──大人しくしててね?」
何故か止められた。昨日は笑って応えてくれたのに──
──なんでだ?
「えっ? カミラさん腹立たないんですか? 俺は腹立ちますけど」
「私だって嫌だけど……関係ないコウキ君にそんな事をさせるのなんてダメよ……これは私の問題……だから──近くで見守っててね?」
カミラさんは俺の手を握り──そう言う。
「──!?」
「明日も仕事頑張ろうね……じゃあね……」
そう言い残し、俺の返事は聞かずに部屋を後にしたカミラさんは少し涙ぐんでいた。
俺は1人部屋に取り残される。
関係ないと言われてしまっては────仕方ないか……。
……あの時は特に否定しなかったのに何でだろ?
元気なカミラさんは魅力的だ。常に笑顔でいてほしいと本当に思う。
屋台のおっちゃんも──きっとカミラさんを知っている人達もそう思っているはずだ。
それに何でわざわざ俺にそんな事を言いに来たんだ?
見守ってほしい──そう言われた。
彼女は自分の気持ちに踏ん切りを付けたいからそう言ったのか?
後──俺が傷付かない為にそう言ってくれた?
わからない……。
でも──俺の出来る事は見守る事だけだ……。
手を握ってくれた時にカミラさんの記憶が入ってきたが……それは手紙を受け取った時の記憶──まるで死刑宣告を受けたような感情がなだれ込んで来た。
こんな気持ちなのに見守ってくれと言ってくれるカミラさんは優しい子なんだと思う……それだけに何も出来ない俺は胸が苦しい。
たった2日しか親しくしてないが、俺は確かにカミラさんに惹かれていたのかもしれない。
ティナとエリーさんからゴミを見るような目をされた俺は人を好きになるのは怖い……そう思っていた──
──けど、カミラさんの笑顔を見ていると自然と惹かれていたような気がする。
この気持ちに気づかせてくれたカミラさんの為に────何かをしてあげたい。
また笑顔を見せてほしい……。
部屋を出る時────確かに涙を流していた。
きっと辛いはずだ。
なんとかしたい────この際、別に俺の事を好きじゃなくてもいい……。
仮に──カミラさんと仲良くなって記憶がなくなる────そうだったとしても笑顔の為に出来る事はしたい。
彼女はきっと──明日我慢するだろう。
俺は見守った後、彼女を笑顔にする為に出来る事をしよう。
そして、最悪の場合──必ず──
俺の全てを使ってでも────守る!
そう決めて──俺は就寝する。
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