第16話 剣聖とか目指さないしっ!

「なぜ断る?!」


「なぜって──また昨日みたいに模擬戦みたいな事するんでしょ?」


「そうだっ!」


 そうだっ! じゃねぇよっ!


「テレサさんに報告しときます。すり潰されて下さい」


「それはダメだっ!」


 そんな必死になるまで拒否する癖に、なぜやろうとする!?


「なら普通に型とか教えて下さいよ」


「そんなもんは──ないっ!」


「はっ?」


「だからないっ!」


「なぜ?」


 ダリルさんは──我流?


「俺は型なんぞ覚える気が元々なかったから──元剣聖の親父にこうやって何度も殺されかけた……」


 遠い目で答えるダリルを見て、きっと俺が今からされようとしている事を思い出しているのだろう。だからと言って俺にして良い事ではないと思う。


 というか──型覚えておけよっ!


 そしたら俺は普通の訓練出来たんじゃね!?


 それと──元剣聖の子供って凄いな……。


「元剣聖の子供なんですか?」


「そうだ。元々、俺は孤児だったところを拾われたんだ。そして──コウキを俺達に預けたのが親父だな……」


「そうなんですね」


 意外な所で話が繋がってるぞ?! つまり、レンジ様と言われていた人はダリルさんの親父さんで、元剣聖なんだな。


「現剣聖はダリルさんじゃないんですか?」


「いや、現剣聖は不在だな────親父ぶっ倒せる奴いねぇしな」


「ん? その親父さんは元剣聖って事は引退してるんですよね? なら誰かがなってもいいんじゃないですか? それとも前任者の指名制ですか?」


「そうだ……もしくは親父を殺すしかないな。勝手に剣聖を名乗るのは構わないが────名乗ったら──「どれどれ、強さをみてやろう」──とか言いながら親父がぶちのめしに来るんだよ……そもそも、「剣聖めんどくさいのぅ。わし辞めるわ」とか言ってただけで、周りからは剣聖として周知されてるからな〜」


「…………」


 元剣聖怖っ! やっぱり異世界は物騒だなっ!

 それに自分で辞めたって言ってるだけじゃ意味なくね!?


 俺は剣聖なんぞなりたくないなっ! 厄介事の臭いしかしないっ! まぁ今の強さじゃなれないけどなっ!


「あー、そうだな。お前が強くなったら親父に挑んでみらどうだ?」


「いや、全力で遠慮いたすっ!」


 やらねーしっ!


「さぁ、剣聖目指して頑張ろうぜっ!」


「話、聞けよっ!」


「さぁ──模擬戦だっ! 闘気の放出をそれだけ抑えられるなら、剣ぐらいは振れるはずだ。ちゃんと手加減してやるから安心してかかってこい! 俺は親父みたいに無茶苦茶じゃないっ!」


 昨日、無茶苦茶に切り刻んだ奴が何を言う……。


「本当に手加減して下さいよ? 俺まだ死にたくないんですから……」


「なぁに、大丈夫だっ! 昨日死んでないからなっ!」


 説得力皆無だな。それに昨日はエリーさんが回復してくれなかったらヤバかったらしいじゃないか……。


 もう何を言っても、目の前の怪物は聞く耳を持ってくれない……仕方ない……。


 俺は集中し────闘気を薄く纏う。


 剣を握り、片手ですんなり持ち上げる事に成功する。


 これなら──振れる。


「昨日の仕返しをっ!」


 俺はそう声を出して──斬りかかり、鍔競り合いになる。


「その意気や良しっ!」


 ダリルさんはそう言い、バックステップで一旦下がり────仕切り直す。


 今の俺が何処まで通用するかはわからないが──


 ──今は昨日の仕返しをする事しか頭にないっ!


 絶対に一太刀浴びせるっ!


 両足に闘気を集中させ──一気に間合いに踏み込む。


 一瞬驚いた顔をしたダリルさんだが、俺の横薙ぎに振った剣は弾かれる。


 その時、態勢を崩された俺は──お返しと言わんばかりに鋭い一撃が俺の肩を掠る。


「ちっ」


 俺は舌打ちをし────連撃を繰り出す。


 たまに闘気に強弱をつけて両手に込めているので、捌き辛いはずだ。


「中々上手いじゃないか! こっちから行くぞ〜」


 その瞬間、無数の斬撃が迫る──


 ──これは同時に放たれてはいない────高速の為、そう見えるだけだ。


 1番最初に接触するであろう斬撃を予測し──剣を合わせる──


 ──のはわかっているが、そんなもんわかるかっ!



 剣が迫ろうとした時、両足に闘気を込めて一気に下がる。


 そして剣を後ろに引き、両手に闘気を込めながら────遠当ての要領でそれを放つ!



 ──飛ぶ斬撃だっ!

 遠当てが出来るならと思ったが、ちゃんと出来た!


 これならどうだ!?


 ダリルさんは剣を左手で持ち、初めて闘気を使い──右手を斬撃に向かって殴りつける。


 渾身の一撃はダリルさんの拳一発で相殺される。


 闘気を使うのが限界になった俺は、その場に膝を付く。


「俺に傷を与えるとは──やるな……やはりお前には戦闘のセンスがある」


「はぁ……はぁ……はぁ……擦り傷ですがね……」


 俺は荒い呼吸をしながら返事をする。


 手加減したダリルさんと闘気を纏った俺で互角か……。


「いや、大したもんだ。俺は相殺するつもりだったが──力を読み違えて相殺出来なかった……2日目ではあるが、先が楽しみだよ……」


「程々にして下さい……これならCランクの冒険者なら倒せますか?」


「勝負に絶対はないが──今の感じだと、瞬間的には Bランク相当の強さはある……だが、スタミナが圧倒的に足りない。長引けば────わかるな? お前が何でCランクに拘っているのかはわからんが、Cランクは冒険者として一人前の証だ。つまりそれだけ経験を積んでいると言う事だ」


「ありがとうございます……近いうちに──Cランクの冒険者をボコる予定なんです。だから早く強くなりたいんです……」


「そうか……相手が誰かはわからんが──負ける事は許さん。目標があるなら────明日からはもう少し厳しくする」


「本当に程々にお願いしますね?」


 俺は苦笑しながら──言葉を発する──


 そして、訓練の成果が出せた俺は満足そうに大の字になり──意識を手放した。


 その後、意識を取り戻した俺は体が全く動かず、ダリルさんに抱えられて宿屋に帰宅した。


 帰りにオークが20匹ぐらいいたが、ダリルさんの「ストレス発散」の言葉と共に即座に斬殺されていた。


 至近距離で豚の鳴き声が響き渡り、血肉が飛び交う中、俺はグロ過ぎる光景に吐き気がヤバかった……。


 俺は冒険者に向いてない気がする。平和な日本での記憶が俺の邪魔をする。


 これが、この世界の普通……そう思うように吐き気を抑え込んだが……。


 ────訓練2日目は死ぬ事なく乗り越えられたな……。


 あぁ、癒しが欲しい……。

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