第14話 強くなりたい!

「あのね……私……失恋したの……」


 カミラさんはなんとか言葉を紡ぎ出す。


 嫌な目というのは失恋した話のようだ。正直、俺が役に立てるとは思えない。


 なんせ、前世では恋愛経験などないし、今世では既に手痛い目にあっている。


 俺の知識なんて所詮はラノベとかネットとかの情報のみ……。


 女性は話を聞く事で楽になるというのを聞いた事がある。とりあえず聞く事に集中しよう。



「そうでしたか……」


 頷き返事する。


「幼馴染でね……小さい頃から結婚しようって言ってたの……だけど──最近────彼が浮気をして別れたの……」


 凄くカミラさんは辛そうに話す。


 この展開はおそらく────NTRではなかろうか?


 …………これは聞いてはいけない話だったのでは? 


 軽はずみに聞いた、少し前の俺をぶん殴りたい。


「カミラさんみたいな美人がいるのに浮気するなんて、酷い男もいるもんですね!」


 俺はカミラさんに自信を持ってもらう為に同調する事にする。


「彼ね……冒険者なの……」


 ふむふむ。冒険者なのか……。変態ギルマスしか思い付かないな……。


 カミラさんは話を続ける。


「それでね……彼の相手はなの……」


 俺の中で衝撃が走る────


 はっ?


 男?


 元彼の相手は女じゃなくて? 男??



「お……と……こ?」


 俺は聞き返す。


「そう……」


 俺の中で冒険者は変態しかいない認識に変わる。

 俺の会った数少ない冒険者の半分以上は変態みたいなもんだ。


 本当に少し前の俺をぶん殴りたい!


 それより──今はカミラさんだ!


 何か──何か言葉を発しなければっ!


「それは────辛い思いをされましたね……。そんな男は忘れるに限ります!」


「その彼はね……近い内に──うちの宿に来るの……」


 なんで来る!?


 カミラさんは続ける。


「私にその相手を紹介しに……」


 意味がわかんねーよ!


 本当に意味がわからねーよっ!


 大事な事だから心の中で二回言う。


「……ちなみに何をしに?」


「その相手が私に自慢したいんだと思う……挙式はもうしたって手紙が来たわ……」


 なんで男が男を寝とるんだよ! しかも挙式終わってるのかよ!? 


 異世界半端ねーな、おいっ! 


 NTRってラノベとかで読んでたけど────これは予想外だよ!


「よしっ! じゃぁ、そいつと元彼をぶん殴りましょうっ! 俺がぶん殴って正義の鉄槌を下します!」


「でも……その男──Cランクよ?」


 ……冒険者は強さによって──S 、A 、B、C、D、E、F、Gとランク分けされている。


 Cランクは上から4つ目────かなり強いと言うことになる……俺は成り立てなのでGランクだ。


「関係ありませんね! カミラさんを悲しませる奴は俺が鉄槌をっ!」


「ふふふ、ありがとう。でも怪我するかもしれないし大丈夫よ? 少し話せて楽になったわ……さぁ戻りましょう。仕事あるからね」


 辛そうな表情から少し笑顔になったカミラさんと宿屋に戻る。



 カミラさんは仕事に向かい、俺は1人部屋に戻って考える……。



 カミラさんやエリーさんに近くに寄られると嬉しいが────ティナの時みたいな胸の高鳴りは起こらない……。


 俺自身は恋人はほしい……だけど、心の奥底では恋人を作る事を諦めてしまっている────


 いや──怖いと言った方がいいのかもしれない。


 失恋は悲しい────俺もつい最近経験した所だ……。


 だからこそ、恋人と別れる辛さは俺もわかる。


 ……カミラさんは看板娘らしく笑っている方が似合う。



 それに────ぶん殴るって俺が言った時────ありがとうと言って、微かに笑ってくれた。


 有言実行するっ!


 その為には────あの地獄の訓練に耐えるしかないっ!



 目標はとりあえずCランクぐらいまで強くなる事だっ!


 なるべく早くにっ!



 ガチャ


 部屋の扉が開かれ──ダリルさんが入ってきた。


「おっ、いい顔になってるな──よく逃げなかったな」


「逃げようとしたらカミラさんに捕まりましたよ……だけど────目標が出来ました。明日からまたよろしくお願いします」


「逃げ出そうとしたのかよ!? まぁ、やる気になったなら何よりだ────とりあえず、剣を振れるようになれ。それまでは闘気をメインで訓練する」


「わかりました。ちなみに──今の俺の強さは冒険者ランクでどれぐらいですか?」


「コウキは闘気を使ってなんとか──Dランクに入るかどうかだな……闘気はそれだけのポテンシャルがある。だが、それはあくまでも──闘気を使っている間だけだ……闘気を使っていないコウキはそこらの一般人と何も変わらない。だから、技術を磨け。それだけでお前は一時的でも──Bランク相当になるはずだ」



 ────!? 



 真剣な眼差しのダリルさんの発言に嘘偽りはない事を物語っているように感じた。



 俺は必ず────カミラさんとの約束を実行するっ!


 これで、なんとかなる可能性が見出せた!



「ちなみに──俺と変態ギルマスはSランクだ」



 ダリルさんの次の言葉に──変態ギルマスから逃げる可能性が消えた現実を突き付けられた。

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