第12話 そんな真実知りたくなかった!
「うぅ……ん……」
「目が覚めたか!? 良かった良かった! 調子に乗りすぎたっ! すまんっ!」
目の覚めた俺の目の前にはダリルさんがいた……ただ顔が腫れ上がっており、青タンが所々出来上がっている。
何か強力な魔物でも出たのだろうか?
「ごめんなさいねぇ〜、ダリルはお仕置きしといたから安心してね。下手したら死ぬ所だったわ」
そういえば──意識が飛ぶ前に剣がお腹に突き刺さっていたな……よく生きてたな……。
それで目の前にいるテレサさんにお仕置きされてダリルさんがそんな顔になっているのか。
そういや、俺の傷は誰が治して────って、隣にいるエリーさんしかいないか。
「エリーさん、ありがとうございます」
「親の不始末を片付けただけよ……」
素っ気なく返事をするエリーさんだが、治してくれてるっていう事は──少しでも俺に対するイメージがマシになったのかな?
まぁ、でも……それより────
「ダリルさん……俺、剣使った事ないですから、振り方もわからなければ──そもそも持ち上げる事もできません」
「そうなのか!? てっきり隙を見つけて斬りかかってくるものだと……」
いや、そんなわけねーだろっ! どれだけ脳筋なんだよ!?
「だから、斬り合いは勘弁して下さい」
「そうか、今度はもっと手加減するからな」
いや、斬り合いは嫌だって言ってんじゃねーか!
「まずは剣の振り方を教えてもらって、使う事を慣れた方が俺的に嬉しいです」
「うむ、次はもっと浅く斬るようにするからなっ! 安心しろ──俺はなんたって九刃だからなっ!」
話聞けよっ! 安心出来る要素が皆無だよっ! それに九刃って何だよ!? 本当勘弁してくれっ!
「なら──闘気の使い方だけで良いです。剣は俺には向いていません」
よく考えたら逃げるだけなら闘気使えるだけで十分だよな?
うん、剣は諦めよう。
「闘気も剣も両方とも訓練するから安心しろっ! 明日から楽しみだなっ! 俺もエリー以外にちゃんと教えるのは初めてで嬉しくてなっ!」
衝撃の真実を言うなっ!
全然楽しみじゃねぇよっ!
命の危険しか感じねぇよっ!
「いや、本当に勘弁して下さいっ! 死にたくないんですっ! テレサさんも何か言ってあげて下さいっ!」
俺はテレサさんに助けを求める。
「ダリル? あんまりしつこいと────もぎるわよ?」
テレサさんは手で何かを潰す動作をする。
ダリルさんは一瞬で顔が青ざめ──頷く。
ちなみに俺も青ざめる。
何を? と野暮な事は聞かない──
──というか聞けない。
とりあえず、これで俺の安全は確保出来た────
「でも、このままじゃ、あのギルマスの餌食になるよね? 剣練習した方がいいんじゃない?」
エリーさんがぶっ込んできた……。
ダリルさんは神が降臨したような顔で娘を見詰める。
「そうだなっ! あのギルマスに対抗するには俺の剣技しかないなっ!」
んな事ないだろっ! 他にも手はあるだろ!?
「そうねぇ……あのギルマスから逃げるのは──至難かも……」
えっ!? まさかのテレサさんまで!?
「だろっ? あの変態って少年に対する追跡機能がヤバいからな……って事でコウキ──剣も極めろっ!」
「えっ……嫌なんですけど……そうだ! 俺旅に出ますね!」
即座に拒否して、俺は思った……街を出たらいいんじゃね? って。
「コウキ……大丈夫だ。教え子であるお前は──俺がいる間は必ず守ってやるっ! なんせ九刃だからなっ!」
もはや、話は通じていない。しかもいる間だけじゃ困るんだよ!
俺は闘気を纏う。
「旅に出ますっ!」
そして一気に走り出す────
「あめぇ……」
俺の数メートル先に既にダリルさんは移動していた。
「俺は──こんな所で終わらないっ!」
無意識に闘気を足に集中させ────一気に爆発させるように足から放つ!
先程よりも速度が早くなる────
これなら────逃げれる!
「だから──あめぇって!」
「がっ……」
襟元を後ろから引っ張られ、首が締まり呼吸が止まる。
「この土壇場で闘気の次の段階の技を使うとはやるじゃねぇか。やはり見込みはあるな」
「がはっ……ごほっごほっ……」
四つん這いになりながら呼吸を荒くする。
「まぁ、中々良かったが……あれじゃギルマスから逃げれないぞ?」
いや、今逃がしてくれよっ!
俺は声が出せないので目線で訴えいると──遠くの方からゴブリンらしき姿が見てた。
その数──約50匹ぐらいだろう。
多くないか? この異世界の魔物ってこれが普通なのだろうか?
「テレサっ」
ダリルさんの掛け声にテレサさんは反応する。
「わかってるわよ────業火──」
凄まじい炎が広範囲に渡り展開され──ゴブリンに襲いかかり────一瞬で消炭にし、戦闘が終わる。
おぉ……さすが爆裂姫……。
「さぁ、帰るか」
ダリルさんのその言葉が、辺り一面消炭になった荒野に木霊した。
──やっぱり平和で普通に暮らしたい……。
そう思った俺は帰りながら、逃げ出す計画を立てる事にした。
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