第10話 俺イケメンなんです!

「ふぁ〜、眠いな……」


 俺は宿屋の一室で目覚める。


 あの後、女将さんとダリルさんを交えて俺の働く時間を決めた。


 その結果、俺は宿の食事処で昼過ぎまでウェイターをする事になった。


 ダリルさんが訓練後は必ず動けなくなると言ってきたからだ。


「「殺したらダメよ?」」


 テレサさんとエリーさんの言葉に俺は絶句した。


 どれだけの訓練をするだよ! と内心不安になった……そんな地獄かもしれない訓練は昼からだ。


 とりあえず、朝から昼までウェイター業務をする為に女将さんに会いに行く。


「おはようございます」


「あら、おはよう。早起きだねぇ〜、仕事は娘が教えるから聞いておくれ。ほら、あそこにいる──私に似た子がいるだろ? あの子だね。頑張ってきなっ!」


 挨拶をすると、女将さんの娘が仕事を教えてくれるみたいで、いる場所を指差す。


 そこにいるのは、胸の大きい17歳ぐらいの女の子。


 どう考えても────女将さんに似てないな!


 まず、太ってない……それだけで十分別人に見える。髪型も違うから雰囲気も違うように思う。


 女将さんはショートヘア。娘さんはセミロングで後ろでくくっている。


 髪の毛の色は────まぁ同じ茶色か……似てるのは──後は胸が大きいぐらい? 


 女将さんは胸と腹が同じぐらいなんだが……。


「……わかりました。では昼までよろしくお願いします」


 俺はこれ深く考えないようにし、女将さんの娘さんの場所まで行く。

 女将さんの顔が少し怖かったからな……。


「すいませーん、女将さんから仕事を教えてもらうように言われました。本日からよろしくお願いします。名前はコウキと言います」


 俺は女将さんの娘さんの所まで行き、挨拶を行う。


「あー、新人さんって貴方ね? 私はカミラよ。よろしくね」


 笑顔が眩しいな……看板娘という奴だろうな。


「昼までですがよろしくお願いします」


 こうして、俺のアルバイト生活が始まった……。


 仕事内容は主にオーダーを聞き、料理を運ぶだけ。


 けっこう流行っている宿みたいで、次々と宿泊している人が殺到した。


 俺は淡々と仕事をこなしながら思った……。


 俺も食いたいと……。


 朝飯食ってないよ……。


 そして、昼前になり、朝のピークが過ぎた頃に休憩になった。


 一息ついた所で賄いが俺の前に出される。


 俺はやっと食事が取れる事に感無量だ。隣にはカミラさんがいる。


「コウキ君、凄いね! 大人気じゃないっ! 女性から! 可愛いもんね!」


 テンションが凄く高いカミラさんは俺に話しかける。


 確かに女性客から俺は優しくされていたし、よく話しかけられた。その度にカミラさんがサポートしてくれていた。


 そして────可愛いか……まだ幼い感じなのだなと再認識した。


 俺は正直、目の前のご飯が食べたい……だが無視はさすがにダメだと返事する。


「カミラさんも凄い人気じゃないですか。男性客の皆さん釘付けでしたよ?」


 カミラも男性客から常に声をかけられていた。視線は主に胸に行っていたが。


 慣れているのか捌くのが上手かった。


「えへへぇ〜、褒められちゃった! お姉さんがコウキ君に何でも教えてあげるよぉ?」


 凄い可愛い────けど、平常心だっ!


 それにしても……俺の好感度が高いな……そういえば顔をちゃんと確認した事ないな。


「じゃぁ、鏡みたいのあります? 自分の顔ってちゃんと見た事なくて……」


 金髪なのはチラチラ見える前髪でわかっているが……。


「ちょっと待っててね。私の持ってくるわ」


 しばらくして手鏡を持ってきてくれた。


「はい、コウキ君は自分の顔見た事ないの?」


「あんまりないですね。さすがに今日、異常な程に声をかけられたので気になりました」


 俺は手鏡に自分を写す。


 そこには────


 こいつ誰? 本当に俺?? 


 となるぐらいの可愛らしいイケメンの男の子が写っていた。少年から青年に変わろうとする時期じゃないだろうか?


「なんで、そんなに驚いてるの? まさか自分に見惚れてるのかな?」


 カミラは俺を茶化してくる。


 俺は固まったままだ。


 …………そりゃ、モテるはずだわ……。これだけのイケメンなら王子様って言われても違和感ないぞ?


 剣神様は良い仕事をしてくれたようだ。


 しかし、同時にあの変態ギルマスが目の色を変えるのもわかった気がする。


 ──これは────確かに死活問題だ……。


 訓練頑張ろう……。


「俺──強くなりますね」


 俺は覚悟を決めて呟く。


「ん? なんで?」


「冒険者ギルドのギルマスに目を付けられてるみたいなんです……」


「あぁ……なんて事……コウキ君に何かあったらお姉さんが癒してあげるからねっ!」


 そんな絶望した顔しないでくれますかね!?


 癒してくれるのは嬉しいけど、何かあったらって──


 ──それ事件発生した後の事言ってないですかね!?


「あっ、はい……ありがとうございます」


 凄く哀れんだ目に、そう応えるのが限界だった。


「あの人────狙った獲物を逃さないらしいわ……」


 トドメを刺された気がした。


「絶対に逃げれるぐらい強くなりますっ!」


 そして、食事が終わり────昼の仕事を再開する。


 昼からも、やたらと声をかけられてチヤホヤさせてもらった。


 可愛い、格好良いとか色々と言われて気分は上々っ!


 だが────男の野太い声で行ってくる人もいたので…… 。


 俺は再度、訓練は真剣にやろうと思った……。


 絶対に変態から逃げる力を手に入れるっ!

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