第8話 勇気の出る言葉をくれっ!

 冒険者の登録が終わり──俺とダリルさんは夜道を歩く。


「なぁ、コウキは闘気を使えるのか?」


「みたいですね」


「なんでそんな他人行儀な言い方なんだ?」


「…………」


「エリーとキスした後──回復魔法使ったよな?」


「──そうですね。使いましたね」


「あの時──初めて使ったように見えた……まるで急に使えるようになった感じだったな──キスした後に」


 キスしたと二回言われた。大事な事だからか? 

 まぁ当たってるんだが……正直に言った方がいいのだろうか?


「俺は──エリーさんにキスされた時……何故か自分で回復魔法が使えるような気になりました。そして試しに使ったら────出来ました……ただそれだけですね。闘気も振られた女性とキスした時に……ただ────副作用って言うんですかね? キスしたら相手が俺の事を忘れてしまうみたいなんです。それもエリーさんの時に確信しました」


「──!? 珍しい能力だな……代償がエゲツないが……じゃあ────コウキが振られた理由って、エリーと同じような感じなのか?」


 珍しい? 他にもこんな人がいるんだろうか?


 振られた時を思い出しながら何とか返事をする。


「…………そう……ですね……」


「すまん、思い出させたな。その能力を使えば────最強になれるんじゃないのか?」


「無理ですね。そんなに都合の良い能力じゃないです……闘気にしても回復魔法にしても────せいぜい初心者に毛が生えたレベルだと思います」


 この世界にゲームやラノベの異世界みたいにスキルがあるかどうかわからないが────あれば、おそらくレベル1で表記されるだろうな。


 確かに──出来ない事が出来るのは凄い事だと思うが──


 ────好きになった人の記憶を無くして得る物がレベル1のスキルや魔法。


 彼女がほしい俺からしたらデメリットしかない。


 仮に──1人で生きて行こうとして、スキルを得る為にキスをしたとしよう……。


 その先にあるのは器用貧乏という結果だけ……しかも実戦で使えるか怪しい。現にあのギルマスに手も足も出なかったしな……。


「そうか……そんな上手い話はないか……。それに──記憶を失わさせるのも問題だな」


 そんなんだよな……彼女ほしいぜ……このままだと一生独り身のような気がする。


「問題ですよ……」


「うむ、なんとか強くなってもらわんとなぁ〜、とりあえずキスしまくって、1人でも生きて行けるようにするか!」


 ん?


 俺は別に強くなりたくないぞ?


 何故俺が強くなる方向性で話が進んでいるんだ??


 それに彼女ほしいのに何でキスしなきゃならん!


「えっ、嫌ですよ。俺は彼女作って人並みの生活送りたいだけですし」


「コウキ……お前──このままだと……あのギルマスに襲われるぞ?」


 ────!?


「それは死活問題ですねっ! ただキスはしたくないので、別の方法でお願いしますっ!」


 あのギルマスに──もう一度襲われるとか悪夢だな。なんとか回避せねば。

 けど、この能力だけは使いたくないからなぁ……。


 そんな事を考えているとダリルさんが言葉を発する。


「なら──訓練するか? 闘気使えるならそこそこ強くはなれるぞ? 使いこなせればギルマスから逃げられるかもしれないしな……」


 闘気を使いこなしたとしても、あのギルマスから確実に逃げる事が可能と言われなかった俺は──


 ──あいつどれだけ強いんだよ! と思ってしまった。


 そして同時に──やっぱり地道に強くなるしかないんだなと認識した。


「わかりました……とりあえずは逃げる事が出来たら十分です。よろしくお願いします」


 俺はとりあえず今の心境的に無双とかよりも────彼女がほしいっ!


 その目的だけは変わらないっ!


 出来れば、ラノベとかであるようなスローライフがしたいっ!


 彼女とキャッキャッして、ラブラブして────平和な感じが1番だっ!


 だいたい──何が悲しくてオカマに襲われなければならないんだっ!


 冒険者ギルドに怖くて1人で行けねぇよっ!


 そんな事を思いつつ、エリーさんにビンタを頂戴した宿屋に戻った。


 エリーさんと顔合わすの気まずいなぁ……またビンタされたらどうしよう……。


 俺は不安げな顔で宿屋を見る──


「何辛気臭い顔してやがるっ! 男なら覚悟を決めろっ!」


 もっと気の利いた事を言ってほしい……ダリルさんは事情を伝えたからわかっているが、エリーさんは知らない。


「エリーさんにまた殴られたりしませんかね??」


「ん? あぁ……たぶん、大丈夫だ……たぶんな」


 なんて勇気の湧かない返事だ。


「またあんな感じになったら──女性不信になりそうです……」


「たぶん──テレサがちゃんとなだめてくれているはずだ……たぶん」


 たぶんがやたらと多いな……不安すぎる。


 勇気を振り絞り────扉を開けようと手を前に出す。


 ギィイ


 俺が開ける前に中から人が出てきた。


 俺は邪魔になると思い、横に避けようと目の前の人物を確認すると────


 その人はエリーさんだった。


 俺は固まり、エリーさんは鋭い目付きをする。


「がはっ──」


 俺の視界にエリーさんが入り──さっきの出来事を思い出し脈拍が上がった瞬間にエリーさんの拳が腹部にめり込み激痛が襲い──


 ──その場に四つん這いになる。



「おいっ!? 大丈夫か!?」


 ダリルさんが声をかけてくれるが、俺はそれどころじゃない。


「あんた──何しに来たのよっ!」


「────ごはっ」


 俺の顔面はエリーさんの蹴り上げにより──四つん這いから大の字に態勢が変わる。


 今日はよく意識が無くなる日だな────そう思いながら意識を手放していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る