第4話 束の間の幸せ

 ティナにプロポーズした俺は了解を得た。


 だからと言って────その日の晩に愛し合ったりはしなかった。


 実は俺の体がポーションでは治りきっていなかったからだ。


 どうやら相当重傷だったようだ。今も所々痛い。


 その為、ここ数日間、俺は安静にしている。


 ティナは出会った時の印象とは大分違って、俺を凄く大事にしてくれる。


 優しい声をかけてくれたり、抱きしめてくれたり、添い寝をしてくれる。


 それに、この世界の事も色々と教えてくれたし、ティナ自身の事も話してくれた。


 彼女はアマゾネスの風習が気に入らなくて、村から旅立ったそうだ。そして、冒険者になって生計を立てていると聞いた。


 ここの小屋は森で暮らしていた頃が懐かしくて建てたそうだ。


 正直、家って建てられるもんなんだなぁと感心したが、お金を稼ぐ手段がないので紐だという事実が俺に突き刺さった。


 俺は結婚するんだっ!


 なんとかして稼がなければっ! 近いうちに冒険者になろうっ!



 そして現在は数日経っても俺の体が治らないので、今ティナは近くの街に効果の高いポーションを買いに出て行っている。


 俺はお留守番だっ!


 そして、今日は記念日になるっ!


 初夜だっ!


 めっちゃ楽しみっ!


 俺は大人になるんだっ!



 そう意気込んでいると────ティナが帰ってきた。


「帰ってきたぞー」


「おかえり〜」


「どうだった?」


「ほら、買ってきたぞ。これならちゃんと治るはずだっ! もうお預けは嫌だからなっ!」


 ティナはヤる気満々だな。


 まぁ、俺も楽しみなんだけどねっ!


 買ってきてもらったポーションを渡されたので、振りかけると全身の倦怠感や痛みが消えていく。


 ────どうやら治ったようだ。


「じゃぁヤる?」


「もちろんっ! 私の初めてを奪ってくれっ!」


「えっ!? 初めてなの??」


 なんだと!? じゃぁ、俺の初恋は実った上に初めて同士になるのか!?


「むぅ、別にいいじゃないか……初めては好きな人とが良かったんだよ……」


 ……男勝りな話し方だけど、行動とのギャップが可愛いっ! 


 もう最高だっ!


 俺達はベットに移動する────


 そして──見つめ合った後、目を瞑り──


 ──お互いの唇が触れ合い──



 ────キスをする。



 そして、目を開けると……ティナが俺を怒りの表情で睨み付けていた。


 何を怒っているんだろ?? キスが下手だった??


「どうした────がっ」


 俺は怒っている理由を聞こうと話しかけようとしたら頬を殴られ入り口付近まで飛ばされる。


「どうしたもこうしたもあるかっ! いきなりキスしやがってっ! どこのどいつだっ! いつ侵入してきたっ!」


 俺は殴られた頬に手を当てて、なんとか起き上がる。


 ……えっ? どういう事? 俺達さっきまで普通に話してたよね?


 なんで──なんで急に殴ったの??


 なんで────そんな目をするの??


 なんで??


 俺は何が起こったのか全くわからない。急にティナは他人事のような態度をする。


 それに発言から察するに────不法侵入して俺が襲ったという事になっている。


 それより、その目をやめてくれよ……久しぶりに行った学校で皆が「お前誰?」「こんな奴いたっけ?」とか言われた時の目と同じだ……。


 興味が無い────そんな目だ。


 俺は自然と涙が零れ落ちる。


「ひっく……どうして……俺、光輝だよ? 忘れたの? さっきまで……たくさん話もしてて……やっと愛し合えるって……言ってたのに……」


 俺は嗚咽をこらえて聞く。


「何を言ってやがるっ! お前なんか知るかっ! この強姦魔がっ!」


 再度、拳を握りしめ────腹部を殴りつけてくる。


 俺は声を上げる事も叶わず──なす術なく、その場に蹲る。


「ねぇ……忘れたの?? 結婚するって……言ってたじゃないか……」


「だからお前なんか知らないって言ってんだろっ」


 顔を上げて言う俺に、今度は下から蹴りが顎に向かって来て宙をまう。


 そして、浮いた俺の首元を掴み────歩いて────外に向けて投げる。


 ドサッ


 俺は体に力が入らず────そのまま地面に接触する。


「見た所────お前はまだ子供だ。子供を殺す趣味はない────さっさと失せろっ!」


 そう言い残し──家に戻るティナ。


 俺は体の痛みにより、全く動かない。

 そして────なにより、ティナから暴力を受けた事にかなりのショックを受けていた。


 あの優しいティナが──こんな事するはずがない────そう思った。


 何かの間違い──そう思いたかった。


 だけど、ティナは俺を見て誰かわからないようだった。


 いきなり記憶がなくなったのか? 

 じゃないと、こんな事が起こるなんて信じられない。


 なんで?


 もう一度会って確認しなければ────


 俺は顔とお腹の痛みを堪え────立ち上がり、家に向かって歩き出そうとする。


「ぐっ、痛い……」


 左上腕部に痛みが走る。視線を向けると、矢が突き刺さっていた。


 どこから矢が?


 顔を上げると──ティナが弓を持って、狙いを俺に定めていた。


「今すぐ立ち去るなら命は見逃してやる────立ち去らなければ殺すっ」


 殺気を込めて言い放たれる。


 俺は歩む足を止める。


 本気だ……本気で俺を殺そうとしている。


 ……俺の心は完全に折れてしまった。


 これ以上は無駄だろうと、俺は振り向いて歩き出す。


「ひっく……うぅ……うぅぅ……」


 涙が止まらない……。


 人生で初めて好きになった人から、殺されそうになった事実が俺の胸をえぐる……。


 物凄く悲しかった……。


 なんでこんな事に……さっきまで2人で楽しく話してたのに……。


 俺はボロボロになりながらも歩き出し、ティナの元を後にする。


 まだ昼間だというのに──目の前は真っ暗だ。


 ティナと住んでいた家からなんとか歩いて、森を抜け────道に出た所で俺は倒れる。


 殴られた顔、腹部はもう痛みすら感じない。刺さった矢の場所から今も血が流れ────意識が遠くなる。


 異世界に来てまで、あんな目をされるなんて……俺は必要のない人なのかな?


 このまま、ここで意識を失ったら────俺は魔物に食われて死ぬかもしれない。


 思い浮かんだのはティナの────笑顔と最後の表情が入り乱れる。


「なん……で……あんな……事に……」


 俺は全てを諦め────意識を手放す。



 こうして────俺とティナの幸せな時間は終わりを告げた。

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