女神様にはヤンデレの素質がある

「俺が絢音の家に来る必要あったのか?」


 朝ご飯を食べた後、管理人の元に訪れて家の鍵を開けてもらった。

 でも、何故か悠斗も連れて来られてしまったのだ。


「はい。お礼をしなければなりません」


 真面目な性格なので、悠斗が何を言ってもお礼をしてくるだろう。

 優那もここじゃ色々と出来ないし行ってきなよと言ってきたため、仕方なく絢音の家を訪れた。


「それにしてもあまり物がないんだな」

「無駄遣いはしない主義ですので」


 辺りを見回すと、テーブルソファー、テレビなど、リビングには最低限の物しか置かれていない印象だ。

 両親は旅行ということでおらず、今この家にはあり得ないほど整った容姿である絢音と二人きり。

 彼女を好きな男子からしたら血の涙が出てしまうほど羨ましい状況だろう。

 だけど悠斗にとっては大切な妹と一緒にいれる時間が減ってしまうため、早く帰りたい気持ちしかない。


「何のお礼をしてくれるんだ?」


 早くお礼をさせて、帰って優那と戯れたい。


「そうですね……無難なのは料理でしょうか」

「……作れるの?」

「何で疑っているかのような目をしているのですか? きちんと作れますからね。昨日は力が入らなかったから出前にしたたけで」

「そうか。料理だったらもらおうかな」


 女神様が料理を作れようがどうでもいいが、すぐに帰っても昼ご飯が用意されていなそうなので、悠斗は絢音の料理を食べることにした。

 食べてすぐに帰ればいい。


「じゃあ、着替えたら作ってきますので、悠くんは待っていてください」

「わかった」


 一度着替えに行った絢音は、白いワンピースの上にエプロンをしてキッチンで調理を始めた。


☆ ☆ ☆


「美味しいな」


 お昼ご飯であるカルボナーラを食べると、濃厚な味わいが口の中に広がる。

 優那が作るご飯より美味しい。

 恐らくピザが好きなのを知ってイタリアンにしてくれたのだろう。


「料理は毎日のように作ってますからね。この程度は朝飯前です」


 自慢するかのよう、絢音は鼻を高くする。

 ここまで美味しいのだし、自慢もしたくなるだろう。


「そうか。ならこれからお弁当を作ってくれ」

「……え?」


 一気に頬が紅潮した絢音は、持っていたフォークをテーブルに落としてしまう。


「だってこれからも関係続くんだろ? なら俺にもメリットがないとな」

「そうですね。お弁当くらいならついでですしいいですよ」


 呆気なく作ってくれることになった。

 今までは優那が作ってくれたが、これからは彼女に作ってもらいなよと言われそうだったから丁度良かったかもしれない。


「まいうー」


 美味しいカルボナーラを残さず食べた。


☆ ☆ ☆


「ふう……食べた食べた」


 カルボナーラを完食し、悠斗はソファーに横たわる。

 美味しすぎて食べ過ぎたため、すぐに動けそうにない。


「ふふ、食べてすぐ横になったら牛になってしまいますよ」

「余計なお世話」


 だらしない悠斗のことを見て、絢音は呆れるのではなく笑った。

 真面目なので怒るかと思ったらそんなことなく、こちらを見て笑ったのだ。

 脅してまで付き合ってもらっているのだし、この程度で怒ることもないと思ったのだろう。


「それで、その……まだ色々と試したいことがあるんですけど」

「やっぱするのか」

「もちろんです」


 二人きりの時に、何で力が抜けるか確かめたい絢音がやらないわけない。

 わかりきっていたことなので驚きはしないが、もし襲われたら? と考えないのだろうか。

 悠斗に触られたら一切抵抗が出来ないのだし、顔もスタイルもいい絢音のことを好きにし放題だ。

 発言からして経験なさそうなので、奪われる形で初体験を迎えたくないだろう。


「丁度横になっていますので、今回は膝枕をしましょう」

「はいよ」


 断ることが出来ないため、悠斗はすぐに了承する。

 「失礼します」と、絢音のソファーに座って自分の太ももを手でペシペシと軽く叩く。

 ワンピースの丈が長いから昨日のように綺麗な太ももは見えないが、それでも美少女の膝枕は魅力的だ。


「んじゃ遠慮なく」


 悠斗は絢音の太ももに頭を乗せる。

 細いのにプニって太ももが沈みこんでいくような柔らかさを覚えた。


「あうぅ、ダメです……」


 膝枕で力が抜けてしまうようで、絢音はソファーの背もたれに体を預ける。

 腕にすら全く力が入っていないようだ。


「止めるか?」

「それもっとダメです」


 一瞬にして力が抜けてしまったのだからもういいと思うのだが、絢音にとってはダメらしい。

 どうせ何を言っても無駄なのだし、このまましばらく付き合うことにした。


「優那にも膝枕してほしい」


 出来ることなら絢音と優那をチェンジしてほしいくらいだ。


「……本当に妹さんの話ばかりですね」

「そりゃあ可愛い、か、ら……」


 膝枕で蕩けた表情になっているものの、何故か絢音の瞳には光が宿っていなかった。

 そう──漫画などでたまに見るヤンデレキャラのように。


「可愛いのはわかります。でも、高校生になっても妹から離れられないのはどうかと思いますよ」


 背中に悪寒が走ったと思うくらいに低い声だった。

 冷房がついてないはずだが、何でか体が冷える。


「あや、ね?」

「悠くんは私といつでもイチャつける権利があるのですよ? それなのに妹の話ばかりじゃないですか。そんなに私と触れ合うのが嫌なんですか?」


 確かに確かめるという名目でイチャイチャすることは可能で、ほとんどの男子なら喜んでやるだろう。

 だけど妹第一の悠斗にとっては喜ぶことではない。


「嫌というか、優那と触れ合う時間が減るから」

「シスコン……」


 真面目なトーンで言われると少し恐怖を覚える。


「しょうがないので、私が悠くんを妹離れさせてあげます。私と特別な関係でいる限り、私だけを見てください」


 絢音にヤンデレの素質があったと思い知らされた瞬間だった。

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