女神様との朝

「……んん」


 カーテンの隙間から漏れ出る朝日、鳥の鳴き声、後は何故か視線を感じたために、悠斗は目を覚ました。

 瞼を開ければ、隣には抱き締められてし幸せそうな顔で眠っている絢音の姿。


「お兄ちゃん、おはよう」

「おはよ……って何で優那が俺の部屋に?」


 友達の家に泊まっているはずの優那がこちらを見ている。

 まだ眠気があって視界がハッキリとしないが、少し長めの黒髪をツインテール調に纏めていて、ライトブラウンの瞳は間違いなく優那だ。

 そもそも兄が妹のことを間違えるわけがない。


「お兄ちゃんの彼女さんがどんな人か気になって帰ってきちゃった」


 付き合っているわけじゃないと電話で説明したはずだが、一緒のベッドで寝ているから勘違いしているようだ。


「まさかこんなに綺麗な人がお兄ちゃんの彼女なんて。前に私が話してみたいと言ってた人だよね?」

「そうだな」


 脅されて寝ているだけで、実際には彼女ではない。

 だけど本当に優那が話してみたいと言っていたため、その部分だけ肯定した。


「どこぞの馬の骨だったら一蹴していたけど、こんなにも美少女さんなら私は認めてもいいかな」


 出来ることなら認めないでほしかったが、優那は今すぐにでも絢音と話してみたい気持ちでいっぱいのようだ。

 キラキラとした瞳で見ていてはダメだとは言えない。


「絢音、そろそろ起きろ」


 肩を揺らして起こそうとしたが、絢音は「うーん……」と薄い反応をするだけで起きる気配はない。

 確信は持てないが、朝に弱い低血圧なタイプなのだろう。

 だけど今は自分の家ではないため、無理矢理にでも起こす。


「うーん……悠、くん?」


 半目の状態であるが、起きてくれた。


「おはよう。早くベッドから出てくれ」

「無理です。昨日は悠くんに激しく抱かれたから動けません」


 まだ寝ぼけているようで、とんでもないことを絢音は言う。


「お兄ちゃん、彼女さんの足腰がイカれるまでしちゃったの? 物凄い可愛いからいっぱいしちゃうのもわかるけど自重しようよ。お母さんたちがいるのに」


 絢音の一言により、完全に優那は誤解してしまっているようだ。

 激しく抱かれたからなんて言われたら、誰だって誤解するだろう。


「おい、きちんと目を覚まして説明しろ」


 勘違いされたままでは嫌なので、寝ぼけ眼の絢音の頬を引っ張る。

 いつもこんなに寝坊助なのかはわからなかいが、今日は抱き締められて寝たというのが大きいのかもしれない。

 悠斗に触られると力が抜けてしまうため、いつも以上に気持ちよく寝れてもっと寝たいと体が求めているような感じだ。

 なので離れればきちんと目が覚めるかもしれない。


「はっ……ここは?」


 思っていた通り、離れたらすぐに絢音は目を覚ました。

 普段と見慣れない部屋だからか、目をぱちくりとしながら辺りを見回している。

 どうやら寝ている時に長時間抱き締めても、起きて比較的すぐに離れれば早くに動けるようになるらしい。


「あ、悠くんおはようございます」


 すぐに状況を理解出来たようだ。

 ただ、挨拶と同時に絢音の頬が紅潮していく。

 抱き締められて寝たことと、自分の格好を思い出したのだろう。

 男と寝るのは初めてだと言っていたし、今の格好は付き合ってもいない異性に見れるものではない。

 服に関してはしょうがないのだが。


「俺は顔とか洗ってくるから着替えちゃいな」


 部屋の隅にはちきんと畳まれた女子制服がある。


「はい」


 恥ずかしそうにしている絢音を残し、悠斗は優那を連れて部屋を出た。


☆ ☆ ☆


「そういえば由美さんたちと朝ご飯を食べないのですか?」


 朝食であるトーストを食べている時、絢音が尋ねてきた。

 リビングのテーブルには悠斗、絢音、優那の三人しかいないから不思議に思ったのだろう。


「母さんたち休みの日は昼前まで寝てる」

「そうなんですね。帰ってくるの遅かったですし、しょうがないかもしれませんね」


 そう言うと、絢音はモグモグと可愛らしくパンを食べていく。


「あ、悠くんの妹さんですよね? 自己紹介が遅くなってすいません。私は悠くんのクラスメイトの黒井絢音です」

「ご丁寧にどうも。悠くんの妹の宮野優那です」


 何故か優那までも悠くんと呼んでくるが、お互いに自己紹介を済ませた。


「見た目からして外国人かと思ったんですけど違うんですね」

「祖母がそうですよ。私はクォーターです」


 優那の質問に、絢音が答える。

 噂通りに絢音はクォーターだった。


「そうなんですね。それでお兄ちゃんとどういう経緯で付き合うようになったんですか?」


 思春期の女の子は恋愛に興味津々らしく、瞳を輝かしている。

 どうして女の子は他人の恋愛について聞きたがるんだろうか? と疑問に思うが、悠斗と絢音は別に付き合っているわけではない。

 面白い話など聞けないだろう。


「付き合っているわけではありませんよ。私のドジで鍵をなくして困っているところに、悠くんが声をかけてくれたんです。優しい兄を持って優那ちゃんは幸せだと思います。私には……兄妹がいませんので」


 少し寂しそうな表情をする絢音は、心底兄弟がいて羨ましいと思っていそうな顔だった。


「お兄ちゃんが優しいのはいつものことですよ。シスコン過ぎるのが問題ですけど」

「俺はシスコンではない」

「いやいやシスコンでしょ。私としては嬉しいけどね。頭を撫でられるとふにゃあってなっちゃう」


 撫でられるとこを想像したのか、優那がだらしない顔になる。

 結構撫でられるのだが、確かに今のように優那はだらしない。


「なるほど……力を入らなくさせる才能はあるわけですね」

「何意味不明なことを言ってるんだよ?」

「な、何でもありません」


 今の発言は、まるで悠斗のせいのように聞こえる。

 女の子触れたら力を抜けさせる能力などない。


「それで、絢音さんは鍵をなくしたって設定で泊まったんですか?」

「……はい?」


 昨日の由美と同じような発言に、絢音が驚いたような顔になる。


「だって今時鍵をなくすドジっ子なんていませんよ。優しいお兄ちゃんにアタックするために嘘をついたのかと思ったんですけど」


 流石は母娘といったとこで、考え方が同じだ。


「確かに悠くんは優しいですけど……」


 ドジっ子というのは否定しないらしい。

 そして何故かアタックということも否定しなかったことに少しだけ疑問を覚えた。

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