女神様と名前で呼び合う

「……何か凄い、です」


 一時間ほど抱き締めて離れたら、絢音は頬を赤らめて蕩けたような表情でソファーにもたれかかる。

 離れた今でも力が入らないらしく、触れてる時間が長いと起き上がれるようになるまで時間がかかるらしい。

 確かめたいと言っていたので、何で力が入らなくなるか解明されるまでやることになるのだろう。

 非常に面倒だが、付き合わないと妹に襲われそうになったと言われるのでやらざるを得ない。


「付き合ったお礼に何かご飯を作ってくれ。お腹空いた」

「力が入らない私に作れとか宮野くんって鬼畜ですね」


 未だにぐったりとしている絢音は、ご飯を作る元気もないようだ。

 そもそもご飯を作れるのかも知らないので、悠斗は適当に言っただけ。


「何かご飯あるかな」


 キッチンの方に行き、食べれそうな物を探す。

 基本的に妹の優那がご飯を作ってくれるが、今日はいないので自分で作らないといけない。


「キッチンが燃えるかもしれないけど何か作るか」


 悠斗が苦手としていることは料理だ。

 中学の調理実習でボヤ騒ぎを起こしたほどで、それから一切の料理が禁止となった。

 ボヤ騒ぎを起こしたことで学校から両親に連絡がいったようで、凄い怒られてしまったのだ。

 でも今日は作れる人がいない。


「ちょっと待ってくだい」


 声が聞こえたのか、絢音が静止を求めてきた。


「今、キッチンが燃えるかもしれないと聞こえましたが?」

「おう。燃えるかもしれんな」

「流石に料理させることは出来ませんよ。私はあまり力が入らなくて料理出来ませんし出前にしましょう。それくらいなら私も手持ちはありますし」


 どうしても料理を作ってほしくないらしい。

 燃えるかもしれないと聞いたら、誰だって止めるだろう。

 悠斗だって絢音がキッチン燃やす可能性があると知れば作らせない。


「出前何があるかな」


 リビングに戻り、スマホで出前が出来る店を探す。

 お寿司、ピザ、蕎麦やうどんなど色々あるが、悠斗はピザを選んだ。

 単に好きだからという理由で、今日は望んでもいない絢音とイチャついたからご褒美として頼んでいいだろう。

 悠斗の独断で勝手に注文したが、お世話になっている絢音に文句は言わせない。


☆ ☆ ☆


「ピザ美味しいですね」


 力が入るようになった絢音は、出前で頼んだピザを食べている。

 男と違って一口が小さく、見ていて何となく小動物みたいだと思った。


「そうだな。もっと安ければ毎日食べれるのに」


 ピザ大好き人間である悠斗は、毎日食べたいと考えている。


「毎日だと太りますよ」

「若い頃は食べて寝れば全部筋肉になるだろ」

「ダイエットしてる人を敵に回す言葉ですね。筋肉になると言った割にはお姫様抱っこして凄い疲れていたようですが?」

「黒井は重かった。それだけだ」

「私も敵に回すのですか?」


 重くないですよ、と言いたそうに絢音は「むうー……」頬を膨らます。


「敵になれば抱きつかなくていいのか?」

「それはもっとダメです」


 腕をクロスして罰マークを作っているので、これからも絢音に付き合わされることが確定した瞬間だった。


「宮野くん」

「何?」


 美味しいマルゲリータを食べていると、絢音が頬を赤くして話しかけてくる。


「私たちはこれから特別な関係になるわけです」

「脅し、脅されな関係な」

「黙っててください」


 事実なのに何故か一蹴されてしまった。


「特別な関係になったのですし、これからは名前で、呼び合いませんか?」

「やだ」


 今度は悠斗が腕をクロスして罰マークを作る。

 学校の男子に絶大な人気を誇っている絢音と名前で呼び合っていることがバレてしまえば、何か言われることは間違いなしだ。


「何でですか?」

「俺を名前で呼んでいいのは妹だけだ」

「本当にシスコンを拗らせてますね。明日には大切な妹さんに嫌われてるかもしれませんね」


 「ふふふ」と不敵な笑みを絢音は見せる。


「絢音って性格悪いと言われない?」

「ほえ?」


 いきなり耳まで真っ赤にし、絢音は手に持っているピザで顔を隠す。

 もうほとんど食べてしまっていて隠しきれていない。


「どうした?」

「な、何でもないです。それと私は性格悪くありませんから」


 脅してまで力が抜けた原因を確かめようとしたのだし、性格が悪いと思わずにはいられない。

 いや、性格が悪いというよりかは、何としても原因を確かめたいので、不本意だけど脅しを使っているのだろう。

 そこまでする絢音の意思は凄い。


「私は悠くんって呼びますね」

「どうでもいい」


 何故か絢音は「悠くん、悠くん」連呼してニヤけていた。

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