女神様とイチャイチャごっこ

「何で?」


 絢音の驚きの言葉からフリーズして十秒ほどたち、悠斗はようやく言葉を発した。

 確かめてみませんか? ということは、絢音とイチャイチャするのと同義だ。

 もしかしたらもっと触れ合うことになるかもしれず、異性とイチャイチャしたことがない悠斗には慣れていない。


「気になったことがあると確かめずにいられない性分だからです」

「あ、そう……でも面倒、妹以外の人と触れ合いたくない」


 家には半ば強引に入れたが、イチャつくためではない。

 お姫様抱っこした影響で特に腕が疲れてしまい、出来ることならもう休みたいのだ。


「本当にシスコンなのですね」

「失礼な。兄が妹を愛でるのは世界共通だろ?」

「違いますよ。そんなんだから妹さんに友達の家に行かれてしまうんですよ」


 呆れたように絢音がため息をつくが、何でか悠斗にはわからない。


「もしかして彼氏の家に行ってたりして?」

「それはあり得ない。中学三年生で彼氏なんてお兄ちゃんが認めません」

「重度のシスコンじゃないですか。だから頼んだんですけど。他の人だと勘違いや変な気にさせてしまいそうですし」


 つまり絢音は他の異性と触れ合う気はないということだ。

 気になったら確かめないといけない性分といえ、異性と触れ合うことに抵抗はないのだろうか。


「ちょっと待って。妹に電話して彼氏いるか確かめるから」


 スマホを取り出し、妹である優那ゆなに電話をかける。


「シスコン過ぎますね……」

「静かにして」


 絢音の唇に指を当てて黙らす。

 理由があるとはいえ、妹に彼氏が出来ることを許さないのだし、自分が女の子を家に連れ込んでいるなんて知られたくない。


「あう……力が……」


 頬を赤くした絢音は、力が抜けたようにこちらに体重を預けてきた。

 指一本触れただけでも力が入らなくなるらしい。

 流石にこのままでは悪いので、絢音の唇から指を離す。


『お兄ちゃん、何の用?』


 数秒のコールの後、優那は電話に出てくれた。


「お兄ちゃんは彼氏なんて認めません」

『いきなり何?』


 とても驚いたような声で、電話越しで表情はわからないが、優那は困惑しているだろう。

 だけどどんなに迷惑だと思われようが、彼氏の有無を確かめるまで電話を切るわけにはいかない。


「彼氏なんて認めないんだからね」

『何でツンデレ風? お兄ちゃんが心配しなくても彼氏なんていないから。女の子の友達と一緒にいるし』

「本当か?」

『うん。私はお兄ちゃんが一番だから』

「ふにゃあ」


 妹に一番と言われて天にも昇るような気持ちだ。


「本当にシスコン……」

『むむ……女の人の声が聞こえたよ』


 絢音が声を発したせいで、優那に聞こえてしまったらしい。

 本当に黙っていてほしくて、絢音の頬を引っ張る。


「いひゃいれす」

『やっぱり女の人の声がするよ。私がいない間に女の人を連れ込むなんてお兄ちゃんは隅に置けないね』

「連れ込んだことは認めるが、優那が思っているような関係ではないぞ」

『認めるんだね。これから彼氏彼女の関係になるのかな? 手が早いんだね』


 ニヤニヤしている優那の顔が目に浮かぶ。


「ならないな」

『またまたあ。シスコンお兄ちゃんでも彼女がほしいと思うんだね』

「俺はシスコンではない」

「いや、絶対にシスコンですよ」

「お前ちょっと黙って」


 横槍を入れてきたため、絢音の脇腹をくすぐる。

 やっていることはセクハラかもしれないが、黙らせるためには仕方ない。


「ひゃ……そんなとこ、触らない……やん」


 くすぐったいのを我慢しているためか、絢音の口から甘い声が漏れている。

 何とも色っぽい声だが、今は出さないでほしい。


『お兄ちゃん、いくら我慢出来なくなったからといっても、私と電話中なのに彼女さんとしちゃダメだよ』

「違う。くすぐっているだけだ」

『くすぐり趣味があるの? 彼女さん大変そう……』


 完全に勘違いしているようで、悠斗は苦笑するしかなかった。

 もちろんくすぐり趣味なんてあるわけでもないし、これからも趣味にするつもりはない。


『それじゃあ、お兄ちゃんは彼女さんと楽しんでね。お兄ちゃんに彼女が出来ても、私はお兄ちゃんが一番だよ』

「あ、ちょ……まだ話は……」


 電話を切られてしまったため、明日説明しなければならないだろう。

 何度説明しても勘違いされそうではあるが。


「黒井のせいで勘違いされたじゃないか」

「それは、私のせいではないと、思います」


 くすぐられたせいか、絢音はこちらに寄りかかってぐったりとしていた。

 ほぼ全体重がかけられているため、女性特有に柔らかい感触や甘い匂いが襲ってくる。

 華奢な体躯なのにここまで柔らかいのは本当に不思議だ。


「それより、どれくらいで力が抜けるのか確かめまましょう」

「本当にやるの?」


 正直面倒くさい気持ちがあり、触れ合いたくない。


「もちろんです。もし、してくれなかったら、妹さんに襲われそうになったと言いますよ」

「今すぐにしようか」


 優那に嫌われてしまっては、これから生きていく糧がなくなってしまう。

 だから襲われたなど言わせるわけにはいかない。


「じゃあまずは手を握るとこからですね」


 頬を赤く染めている絢音が手を差し出してきたため、優しく握ってみる。

 先ほどは唇に指が一本触れただけで力が抜けてしまったようだが、今回はどうなるのだろうか。


「手を繋ぐのは大丈夫みたいですね。次はこうです」


 指を絡め合う、いわゆる恋人繋ぎをしてきた。

 恥ずかしそうな表情をしているから慣れていないのだろうが、いきなり難易度が高いのではないか? と思ってしまう。


「恋人繋ぎも大丈夫ですね。次は私を抱き締めてください」

「何で俺がそんなことを?」

「あからさまに嫌な顔ですね さっきは私をお姫様抱っこしたくせに」

「それは黒井が頑固だったからだろ」


 女の子一人で一晩共有スペースにいさすわけにもいかないので、無理矢理連れて行くしかなかった。

 監視カメラがあるとはいえ、変なことをしようとする輩はいるのだ。


「頑固じゃありませんよ。してくれないのであれば、妹さんに言いますからね」

「わかったよ」


 拒否権がなくなり、悠斗は仕方なく絢音を抱き締める。

 するとすぐに力が抜けたのか、絢音は体重を預けるように寄りかかってきた。


「何で力が抜けてしまうのですか?」

「知らないよ。もういいか?」

「ダメです。しばらくしていてください。断ったらどうなるか、わかっているんですよね?」


 何で試しにしているだけなのに嬉しそうな表情をしているのだろうかと気になったが、今は面倒なので口にしない。

 脅されては拒否しようがないため、悠斗は絢音のことを抱き締めているしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る