「蛇口、うさぎ、光速」
「蛇口がなんでヘビの口って書くか、知ってる?」
「知らない」
「あれね、昔は竜頭って言ったんだって。水道の栓が龍のかたちに作られてたから。だけどいつからか、その姿は蛇と間違えられるようになって、竜頭は蛇口になったの」
「ふーん」
「まるで、あなたみたいだね。ね、竜崎さん」
「人聞きが悪いな」
「だって。そんな名前の癖に、あなたに愛されていると、まるで蛇に呑まれるみたいな感じなんだもの」
「……そういう君だって」
「あたしは蛇じゃないよ。蛇に襲われるウサギの方だよ」
ウサギはウサギかもしれないが、蛇に襲われるウサギっていうか、ウサギは哺乳類屈指の性欲の強い動物だって言われているからそれの方だろうと男は思ったが、その男はそれを口にしない程度の冷静さも持ち合わせていた。
「そういえばさ。土用の丑の日にウのつく食べ物を食べるといいって言うけど」
「うん」
「ウェディングケーキってどんな味がするの?」
「文脈を光のような速さで千切りながら会話を進めるのやめない?」
「だって。呼んでくれなかったじゃん」
「呼べるかよ……」
「ま、そりゃそうだけどね。わっるい男だもんねー、ねぇ、竜崎先生?」
「だまれ」
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