「蜂蜜、読書感想文、万引き」
魔王グランドノア、と名乗る小柄な幼女がおれの家に住み着いてから三ヶ月が経った。グランドノアは異世界からやってきたのだそうだ。なんでも、なんだとかいう自分の世界で勇者に討伐されて、転生して、この地球のこの日本にやってきたのだそうだが、単に角が生えてるだけならともかく魔法とかいろんな力を使うので、魔王かどうかは知らないが、彼女が人智の範疇を超えた何者かであるのは間違いない。
「おい、カイト。蜂蜜が切れておるぞ」
蜂蜜の入った容器をしゅこーしゅこーと鳴らしながら、グランドノアは不興そうにそう言った。
「お前が毎日毎日水でも飲むみたいに使いまくるからだろうが」
「わらわのおった世界では甘いものが貴重だったのじゃ。だから仕方がないのじゃ」
「仕方がないかなあ、それ……」
この日本に現れたばっかりの頃、コンビニで砂糖の袋を二つばかり失敬してきやがったこの小娘のために、俺は「そういうのをこの世界では万引きと言う」と説諭した上、代わりにコンビニの店員に平謝りする羽目になったりなんかしたのだが、まあ凄い力があって魔王などと称している割には世界を滅ぼそうとしたりすることがないだけマシだと思うべきなのかもしれない。学校にも真面目に通っているし。
「そういえば、明日は宿題の読書感想文の提出の日じゃった」
「えっ」
「わらわ日本語がまだ満足に読めんから、手伝ってくれ」
「えー……せめて三日前くらいに言ってくれよ……」
グランドノアは翻訳魔法を使えるが、会話を翻訳することはできても文字を自動翻訳する魔法なんてものは無いのである。
「この本にする」
「『2023年最新レポート ウクライナの現状と展望』」
「読んで」
「この本は読書感想文には向かないと思う」
「どうして」
「どうしても」
「ぶー」
俺は渋る魔王をなだめて、『しらゆきひめ』を読んでやった。
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