「地球、田舎、化け物」

 きっとこの永遠は続かない。何故ならわたしは化け物だからだ。


 わたしは吸血鬼。私の名はハクア。寿命というものを持たず、不老だ。老いて病んで死ぬということがない。もっとも、だからといって不死なわけではない。怪我をすればいっちょ前に自分の身体からも血は出るし、人間よりは治りが早いとはいったところで、心臓に杭を打ち込まれてしまえばおしまいだ。


 わたしは追われている。わたしを追ってくるやつは、ひとりの人間だ。名はクロノという。生老病死からは逃れることのできない生身の存在だが、ただの人間か、というとそれは違う。かれは時間跳躍者だ。どのような手段によってそれを可能にしているのかはわたしも知らないのだが、たとえばわたしが百年間、どこかの田舎の古い教会の墓地に埋まって隠遁したとしても、わたしが目覚めるとあいつがどこからともなく現れて、またわたしを追い始める。


 基本的に、地球のどこに逃げても、あいつの追跡をかわすことはできない。なぜかというと、あいつはわたしの血をその身に受けたことがあり、それによってわたしとの間に霊的なつながりを持っているからだ。あいつは吸血鬼になってはいないが、言ってみれば私の半眷属ではあるというわけである。


「ハクア!」


 と、またクロノが現れた。顔を合わせるのは四十年ぶりくらいだったかな。久しぶりに長い間、目を覚ましたまま逃げ続けていたのだけど。というか、登場するたびに窓を破って入ってくるのはやめてほしい。ガシャーンと音がして、破片が散乱している。


「四十二年ぶりだな! 四十二年ぶりだから、もう一回言うぞ!」

「……うー」

「俺をお前の眷属にしてくれ! それで、一緒に永遠に暮らそう!」

「やだ。あと五百年くらいは独り身の自由を満喫したいって、四百九十年前にちゃんと言ったよね?」

「そろそろ五百年じゃないか」

「あと十年だよ」

「あと十年したら、眷属にしてくれるか?」

「そのとき考える」


 そう、きっとこの永遠は続かない。わたしは年貢を納めて、この男と一緒にならなければならないのだ。永遠なんて、きっとどこにもないのだから。

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