「絶体絶命、恐怖症、ドラゴン」
僕は重い心の病を患っている。その名も、ドラゴン恐怖症だ。え、巨大で強大な力を持つ生物であるドラゴンが怖いのは当たり前じゃないかって?
それはある意味ではその通りなんだけど、ドラゴン恐怖症というのはそういうものではないんだ。例えば、真昼間、聖光石に守られていて外敵に襲われる心配などあるはずもない街の中にいるときでさえ、突然ドラゴンが怖い、ドラゴンに襲われるかもしれないという恐怖心にかられて、悲鳴を上げてしまうんだ。それをドラゴン恐怖症と言うのだ。
しかし、僕はドラゴン恐怖症を克服したいとは思っているので、一念発起した。怖いものなら、いっそ打ち倒してしまえばいい。そうすればドラゴン恐怖症を克服できるかもしれない。そう思ったのだ。
最初は冒険者ギルドに登録して、ドラゴン討伐の多人数向け依頼があったらそれに参加しようとか思っていたんだが、登録はしてみたものの、ドラゴン討伐の依頼などはどこからも出なかった。受付のお姉さんに訊いたら、頻度としてはドラゴン討伐は十年に一回あるかないかくらいだそうだ。それでは今依頼が出ていないのも仕方はない。
そこで僕は、ドラゴンが住むと言われる洞窟、イシュトヴァーン大鍾乳洞を自ら訪れることにした。この鍾乳洞のドラゴンは、人里を襲撃したりはしないということで有名だ。ドラゴンの多くは狂暴だが、ここのドラゴンは例外的な存在なのだ。そいつと会って、ドラゴンが近くにいることに慣れれば、ドラゴン恐怖症は治るかもしれない。
その洞窟の奥深くで、実際僕は真っ白な体のドラゴンに出くわした。名前は有名だ。彼女、そう、雌なのだ、彼女の名前はハクアという。
「わたくしに、何か御用ですか。小さき人よ」
「僕はドラゴンが怖いのです。それを克服したくて、あなたに会いに来ました」
「そう。じゃあ、この姿ではやはり恐ろしいかもしれませんわね。少し待ってくださいね。いま、人に化けますから」
と、言って、ハクアは変身した。十六歳くらいの人間の少女に似た姿で、頭には角があったが、他は人間そっくりで、それよりなにより、全裸だった。
「服を着てくれませんか?」
「わたくしはドラゴンですよ。気にしませんので別に結構です」
「こっちが気にするんですが……」
十六歳くらいの少女の姿のドラゴンは、ぽんと手を叩いた。
「ならあなたも服をお脱ぎなさい。それで問題はなくなるはずです」
何の解決にもならないと思うが、僕は言葉に従った。この場所は泉のほとりなので、二人で水浴をする。
「あなたの股ぐらの間には、不思議なものがあるのですね。それは何ですか?」
このドラゴン少女、本気で言っているのだろうか?
「ヒトの生殖器です」
「生殖器とは何でしょうか」
「雌雄対になっておりまして、相互に働かせることで子孫を繁栄させるのです」
「どのように働かせますの? 実演してみてくださらない?」
このドラゴン娘は本当に本気で言ってるのだろうか? あとで金を請求されたりしないだろうか?
「一人では働かせかねます。あなたも人型をしている以上、対となる器官があるようですから、その上でよければ実演できますが」
「構いませんわ。では、試してくださいまし。あ、あなたのお名前は?」
「クロノ」
というわけで、僕はそうした。なぜならドラゴン少女は美しかったからだ。で、事が済んで、彼女は嘆息した。
「ふう。契約完了ですわね」
「契約とは?」
「わたくしが本当に、雌雄の交わりについて何も知らないと思っておいででしたか? 人の子が人化したドラゴンと交わると、絶対服従の契約がかかります。あなたはもう、つまり今からわたくしのしもべです。これから死ぬまで、ずっと」
「具体的に何をさせられるんですか?」
「わたくしの伴侶となり、竜人を繁殖させるための種となるのです。死ぬまでね、ずっと。拒否権はありませんので、念のため」
なんか、僕割と絶体絶命らしい。やっぱりドラゴンは怖い。僕はそう思った。
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