「おっぱい、深海魚、観葉植物」

 今日は、いいおっぱいの日だ。11月8日はいいおっぱいの日なのだ。


 しかし、いいおっぱいの日とは何だろう? それではまるで、いいおっぱいではないおっぱいがあるかのようではないか。おっぱいは、いいものだ。自明の事実として、いいものだ。


 いや、そうであるはずだ。赤ん坊の頃に母親のそれに触れていたという事実はあるはずで、そんなこと記憶しちゃいないが、中学生の僕が母親以外の女性のおっぱいに触ったことがあるのかと言えばそれはないのだが、しかし、いいものであるはずなんだ。それは、天が上にあり地が下にあるというのと同じくらい、自明な事実であるはずなんだ。


「というわけだから、白亜、おっぱい触らせて」


 と幼なじみのガールフレンドに言ったら拳で殴られた。


「ド阿呆。寝言は寝ていいや」


 白亜は関西出身で、7歳のときに僕の家の隣に引っ越してきたのだが、今でも関西弁で喋る。かわいい。おっぱいは、7歳の頃はもちろんさっぱりだったが、いま、中学2年生で14歳であるという事実を踏まえれば、かなり御立派に育ってらっしゃる。


「そないに手ぇワキワキさせても、あかんもんはあかんで。そこのサボテンでも揉んだらええんや、アホ」


 サボテンは僕が飼ってる観葉植物である。名前はタツキ君。タツキ君のことは白亜を好きなのとは別の意味でそれなりに好きだが、しかし白亜と違ってトゲトゲだから揉みたくはない。


「なんで駄目なんだ? こんな近くにあって、手を伸ばせば届くのに、僕はその手を伸ばすことができない。それは何故なんだ?」

「もっぱつ殴られたいんか?」

「ただ知りたいんだ。いいか、宇宙というものがある。宇宙の星には手を伸ばしても届かない。深海というものもある。深海は一説に宇宙より到達困難とも言われていて、深海魚に触るのは星に触るより難しいかもしれない。だが、白亜のおっぱいは手を伸ばせばそこにあるじゃないか。そこに手を伸ばすことができないのは何故なんだ?」

「法に触れるからや」

「ほう」

「つまらんわ」

「法に触れてもいい。法と白亜のおっぱいと、その双方に僕はこの両手を伸ばそう。いいおっぱいの日に我が両手を捧げるのだ」

「お前な。冗談も大概にせんと、大声出して人呼ぶで? おっぱいはダメや。せめて16歳になるまではダメや。でも」

「でも?」

「きょうはキスの日じゃないけど、キスならしてもええで。うちの初キスやけど。うちに大切なことちゃんと言ってくれるなら、してもええ。言うか?」

「……そうだな。好きだよ、白亜」

「ん。なら、奪ってええで。うちの大切な初キスなんやからな。有難く受け取るんやで」


 というわけで、僕は僕の初キスでもあるそれを、済ませた。背中に腕を回して、抱きしめた。


 白亜のおっぱいが僕の胸板にぎゅーと当たる。ああ、これはこれでいいなあ。今日は、いいおっぱいの日だ。

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