「曖昧、B級映画、冥府の番犬」

 二人の曖昧な関係が打ち砕かれたのは、白亜が達樹を映画に誘ったときだった。いや、曖昧だと思っていたのは達樹の方だけで、白亜は最初からずっとそれが恋愛関係だと意識していたのだけれど。

 白亜が「懸賞で当たった」と称した試写会のチケット(実際にはヤフオクで買ったもの)は、三文B級映画だった。冥府の番犬が地上に現れて人間を襲うとかいう触れ込みのホラーだ。

 だが、二人にとって内容などはどうでもよいのである。お互いにお互いのことしか意識していなかったし、その結果必然として、映画の中に出てくる犬が明らかにただのそこらへんで飼われているような犬であること、それを安いCGで誤魔化して三つ首の地獄の番犬ケルベロスに見せかけていること、などもどうでもよかったのである。

 結果として、二人はその後普通に男女交際を始めるようになった。B級映画にも、それの存在する意味というのはちゃんとあるのだ。

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