「読書、マグロ、不平等条約」

 20××年、マグロは絶滅に瀕していた。「海のルビー」ともいわれるその希少性ゆえに、そしてその美味なるが故に、ヒトが乱獲に乱獲を重ねた末のことであった。

 国際会議は紛糾し、日本にだけ強大な漁獲割り当て制限を課す条約が決定された。日本人は「不平等条約だ」と怒ったが、日本人が喰いまくったおかげでマグロは絶滅に瀕しているのだからして万やむを得ぬ。だが、日本人は万策を尽くしてそれでもマグロを食おうとした具体的には、密漁と密輸入である。日本人以外は獲ってもよいのだから、それを日本人に横流しするマフィアが現れるのは時間の問題であった。

 結局、最終的にはマグロを絶滅危惧種に指定し、全面的な漁獲の禁止が決定された。だが、当然のことながらそれでも密漁はやまなかったし、日本人はトロを食べた。

 そして22世紀を待たずして、マグロはついに絶滅したと言われている。だから、それ以降の人々がマグロについて知ることができるのは、ただ本の世界の中においてのみ、読書の場においてのみなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る