「歯ブラシ、生ハムメロン、握力計」

 いつだったかオードブルに生ハムメロンを作ったら、本場南地中海の生ハムメロンはカンタロープっていう甘くない品種のメロンを使うんだよ、生ハムももっと塩気の効いたものでね、なんて蘊蓄を傾ける、あなたのそんなところがわたしは苦手だった。

 蘊蓄を傾けるようなタイプだということから細身のインテリタイプを連想する人もあるかもしれないが、わたしの前カレは大柄で筋肉質、ベタな言い方をすればマッチョであった。インテリマッチョだ。マッチョが嫌いなわけではないのだが、インテリとマッチョの組み合わせはわたしにはダメだったようだ。一緒に暮らしたが、半年しか続かなかった。生ハムとメロンの組み合わせは数百年に渡って南地中海地方で愛されているというのに。

 彼の私物を片付ける。必要であろうものや価値があるであろうものは持ち去られた後だから、残ってるのはガラクタ、要するに捨ててもいいものばかりだ。たとえば、握力計。安物だ。彼自身が愛用していたのはもっと高価なやつで、これは百円ショップで売られていた安物。わたしが測定してみたら20キロしか出なかった。ちなみに、成人女性の平均は29キロだそうだ。

 歯ブラシも二本残っている。二本並んだ歯ブラシも、一本捨ててしまおう、そう決意したわたしは、彼が使っていたほうの歯ブラシをへし折ることにした。だが、握力20キロである。折れない。なかなか折れない。しかしとうとう、バキーンと音がして、派手に破片が飛び散った。

 まるで、彼と私の破局を象徴するように、プラスチックの破片がくるくると宙を舞って、落ちた。そうじしなきゃ。

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