「うさぎ、つづら折り、バケットホイールエクスカベーター」

 大きな、大きな穴だった。それは、広く、また深かった。それは古くは「賢者の海」と呼ばれていたが、今その名で呼ぶものは歴史の研究者くらいなものだ。今、ここは「地球軍月面第十八ルナニウム採掘場」と呼ばれている。

 わたしの乗ったモーターヴィークルは、その深い穴の底を目指して、つづら折りの坂道を下っていく。最深部はまだだいぶ先であるが、そこでルナニウムの掘削を行っている巨大機械、バケットホイールエクスカベーターの雄姿はここからでも見える。

 2099年。埋蔵化石資源の枯渇に喘ぐ地球人類は月に眠る埋蔵エネルギー資源「ルナニウム」を発見し、それまで各国が順守してきた天体条約を破棄、月の開発に乗り出した。人類の存亡をかけて。

 だが、それに待ったをかけたのが月の先住民族であるウサギたちだった。月にはウサギなんかいないというのが近世から21世紀初頭にかけての常識だったが、ところがどっこいいたのである。いたものはいたんだからしょうがない。いないっていうのか? いないっていうならいないって言う奴が証明してみせろよコラ。はいすみません取り乱しました。

 月資源ルナニウムを巡る地球人類と月ウサギとの対立はついに戦争を勃発させた。圧倒的な科学力を持つ人類は優勢であるかに思われたが、月ウサギもまたルナツー落とし、コロニー落とし、だるま落とし、ししおどしなどの戦術・兵器を駆使して果敢に人類に立ち向かった。そして、戦いは今も続いている。

 そしてわたし、月ウサギ軍第一師団諜報部隊所属のスパイウサギであるこのわたしは、いま背中に巨大な爆弾をくくりつけ、腰には月見団子を装備し、地球人類の月面採掘基地に自爆テロを仕掛けにいくところである。とめてくれるなおっかさん。

 地球軍月面第十八ルナニウム採掘場の底では、多くの月ウサギたちが奴隷にされ、地球軍のために働かされていた。その中に潜り込めば作戦成功はたやすい、かに思われたが、わたしはあっけなく捕まってしまった。そして奴隷の一人にされる。

 毎日の仕事は、ここで働いている地球人たち、具体的にはバケットホイールエクスカベーターの操縦士とか、のためにおもちをつくことだった。ぺったんぺったん。

 戦線は遠い。奴隷の身とは言うものの、ここで人類と一緒になって暮らしていると、戦争のことなど不思議と忘れてしまえるかのようであった。おもちをつきましょ、ぺったんぺったん。

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