三題噺集

きょうじゅ

「犬、レバニラ、半額」

 まだ色のいいレバーが半額で売られていたので、レバニラにしよう、と思った。ニラは半額ではないが買う。なくちゃレバニラは始まらない。あと何を入れる? もやしという人もいるが、わたしとしてはそれは邪道だと思う。キッチンに、あと何がある? オイスターソースは買わないと。片栗粉はあるだろうか? ゴマ油も必要だ。牛乳……はなくてもいいか。

 これから行く先、これからレバニラを作る場所に、何があるかわたしは知らないのである。何故ってそこへ行くのは初めてで、そこはわたしの彼氏の部屋で、付き合って三カ月目で、そしてそこに入るのは初めてだから。同じことを二回言ったかもしれないが、これでも緊張しているのだ、ごはん作りに行くよなんて気安く言ったように聞こえたかもしれないし実際気安く聞こえるように言ったのだが、そのとき電話口で足は震えていた。

 「いらっしゃい」と彼は言った。彼の足も震えていた。犬がいた。座敷犬らしい。私がレバニラを作って、持っていくと、犬がレバニラに興味を示す。いけない、犬に、レバーはともかくニラは大敵なのだ。と、彼はちゃんと犬に「待て」をして、わたしの前で軽く、分かってる、と言いたげに微笑んで見せる。

 いけない。犬にはニラが大敵だが、わたしには彼のこういう仕草が大敵なのだった。

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