第17話
どうやら間違えて、ガイヤくんのスマホを私が持って帰って来てしまったらしい。
平謝りしてすぐ渡しに行く、と伝えると女性が夜出歩くのは危ないからとガイヤくんが届けてくれることになった。
玄関で土下座して謝って、スマホを返した。
寒空の下、わざわざ申し訳ないなと思ったので、せめてお茶でも飲んで帰って、と言ったところで自分の大胆さに驚いてしまった。
――いや、そんな意識することでもないんだろうか?でも夜遅くに男の人を家に上げるとか、はしたなくない?軽い女と思われただろうか?でも一緒にお茶くらい飲みたいなー。
思考の渦に溺れていると、ガイヤくんが「じゃあ」と言って家に上がってくれた。
「本当にゴメンなさい。粗茶ですがどうぞ……」
「ううん、気にしないで。スマホ見つかって良かった!!良く無くすんだよねー。また買い換えかと思ってたくらい」
笑ってそう言うガイヤくんが眩しい。
相変わらず癒しの化身だなー、ガイヤくんは……。
「あれ、このカップ……?」
ガイヤくんがコーヒーの入ったカップを見て、そう呟いた。
――しまった。
そのカップは、カタギリ ヒロエだった時にガイヤくんをもてなしたカップと同じものだった。
猫のカップ。
しかも既製品じゃない。
学生時代に作ったものだ。
ガイヤくんがカップを目線より上に掲げて、底を確認したので私は慌てて言った。
「それ、学生時代の友達から貰ったやつなの。底、名前が掘ってあるでしょ?」
「カタギリさんと友達なの?!」
驚いたように言うガイヤくんに、私も驚いた。
覚えててくれたの?!
思わずそう言いかけた。
「え……、う、うん。その、同級生で……」しどろもどろ答える。
「今、カタギリさんどうしてるの?連絡先とか知ってる?」
まずい。
どうしたらいいんだろう。
なんでガイヤくんこんなに必死なんだろう。
カタギリ ヒロエを覚えていてもらえた嬉しさと、今この場をどう誤魔化せばいいかで頭が混乱してしまう。
「な、なんで……?」やっと出た言葉だった。
「…………実は、カタギリさんとは一年くらい前に知り合う機会があって……、えと……その……気になってる人なんだ……」
――は?気になってる?キニナル?ってなんだっけ?
「えっと……?好き……みたいなこと……?」
「う、うん……」
恥じらうように頷くガイヤくんを見て、何も考えずつい言ってしまった。
「釣り合わなくない?」と。
失言だと気づいた時にはもう遅かった。
カタギリ ヒロエならまだともかく、エトウ アイラが言うべきではない言葉だった。
ガイヤくんの目が、どんどん厳しく、みるみる冷たくなる。
「エトウさん、カタギリさんの友達じゃないの?」
「あ……、え……」
ガイヤくんの声もすごく冷たくて、怒ってる感じで、私の混乱はますます加速して何も言えなくなってしまった。
「釣り合わないって、どういうこと?」
「……」
「……俺、帰るよ」
見損なわれた。
でも私のこと、好きって言ってくれた。
あんな私のこと、好きって……!
「待って!」
帰ろうとするガイヤくんを引き留めて、あの姿見の前に駆け寄った。
「ヒロエに会わせてあげるから」
言うと、カタギリ ヒロエのバックアップデータを開いて、ガイヤくんの目の前で私は元の私の姿に戻ってみせた――。
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