第16話
そうこうしているうちに、映画の出演オファーが来た。
ガイヤくんと以前共演したドラマが好評だったらしく、その組み合わせで少女漫画原作の映画を作ることが決まったらしい。
前のノイダ作品と違って、ラブコメディだったので私もリラックスして撮影に臨むことができた。
撮影は順調だったけど、その日は新人スタッフさんが段取りを勘違いしてしまったらしく、私とガイヤくんの二人が入り時間を三時間早く伝えられていたので、待ちぼうけすることになった。
私もガイヤくんもビックリはしたものの「あ、そうなんだ」くらいだったけれど、スタッフの偉い人たちがその新人スタッフさんを全員の前で激しく怒鳴りつけ出した。
私たちタレントの顔も立てつつ、二つの大手事務所側との不要なトラブルを避けるためのパフォーマンスの意味合いもあったのだろうけど、新人スタッフさんが涙目になっていたので止めるために割り込もうとした時だった。
「まぁまぁ、もうそのへんで……」ガイヤくんに先を越された。
「僕ら全然平気だし、僕とか朝弱いんで早く入れて逆に助かっちゃいましたよ!ほら、この映画、コメディなんだし、明るくしなくちゃ!ねっ」
努めて明るい声で話し続けるガイヤくんのおかげで、張り詰めていた空気の緊張がふっと解けるようだった。
「そ、そうそう、そうです、そうですー!私、実はあそこの木のブランコが気になってたんで遊んでてもいいですかねー?ハハハー」
私もガイヤくんに便乗しようとして、良く分からない発言をしてしまった。
いい歳してブランコて。
でも、周りの皆が笑ってくれたので、良しとしよう。
主演二人がそう言うならと、もう誰も何も言い出すことはなく一件落着となった。
ホッと胸を撫で下ろしているとガイヤくんとはたと目が合って、アイコンタクトされたような気がした。
私もフォローに入ったから、お礼のような感じだろうか。
うんうん、と頷いて笑って応えた。
ガイヤくんが先に仲裁に入ってくれて、助かったのは私の方だったけれど。
男の人が怒鳴っているところに割り込むのは、かなり勇気がいることだったので本当に助かった。
もしかして、それも見越してくれたのだろうか……?
なんとなく、その真意を問い質すことはなく、準備が整うまで本当に二人でブランコで遊んで撮影シーンの相談をしたりして過ごした。
ガイヤくんは、やっぱりいつも穏やかで、誰にも分け隔てなく優しくて、そしてかっこよくて。
一緒の時間を過ごす度に、どんどん好きが積もっていくようだった。
楽しかった撮影もいよいよクランクアップを迎えて、あとは公開を待つばかりだ。
打ち上げの飲み会が終わって、自宅に着いて一息入れていると、スマホが鳴った。
が、私のカバンの中で鳴っているそのスマホは、見知らぬスマホだった。
えっと思い、ジャケットのポケットを確認すると、そこには私のスマホがあった……。
慌てて鳴っているスマホに出ると、ガイヤくんの声がした――。
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