第13話
ドラマ、『愛と呼ぶには、
ヒロインである真里亞は、幼少期に強盗目的の男に両親と姉を惨殺され、現場を目撃したショックからそれまでの記憶を一切無くしていた。
記憶喪失ゆえ家族を亡くしている悲しみを実感できないという別の苦しみにも苛まれながらも明るく聡明に成長した大学一年生の女の子だ。
大学進学を機にできた友人の絵梨花と楽しいキャンパスライフを送る真里亞は、ある日、絵梨花から彼女のボーイフレンドである雅哉を紹介される。
お互い初対面だったが惹かれ合う何かを感じた二人。
飲み会の帰り、たまたま二人きりになった真里亞と雅哉は酒の勢いも手伝って、絵梨花を裏切る行為をしてしまう。
誤魔化しきれず、二人の裏切りは絵梨花の知るところとなり、真里亞は絵梨花からの熾烈な嫌がらせに遭うことになり精神的に追い詰められる。
それでも真里亞の心の中には雅哉がいた。
絵梨花の目を避け逢いにきた雅哉と気持ちを確かめ合い、再び結ばれる真里亞と雅哉。
だがそんな時、犯罪被害者の会の人と話す機会があった真里亞は予期せず自分の家族を殺害した犯人の息子と同じ大学に通っていたことを知る。
恐る恐るその息子の名前を確認する真里亞、許されざる加害者の息子、それは誰あろう愛する雅哉だった。
動揺した真里亞はつい雅哉を問い詰めてしまう。
出会ったその日から真里亞が被害者の子供だと知っていた、という雅哉の告白にショックを受け、それをきっかけに当時の記憶を全て取り戻してしまう真里亞。
優しかった父と母、意地悪だったけど結局は妹である真里亞を可愛がってくれた姉、全員の命を私欲のために無残に奪っていった犯人への怒り、そして今まで大切な家族を忘れていた自分への慙愧で真里亞は半狂乱状態になる。
真里亞のただならぬ様子と雅哉の隠された真実を知った絵梨花は「人殺しの子」と雅哉を恐れ罵り、二人の前から去っていった。
真里亞は、雅哉を愛する心と嫌悪する心が混然とし、彼女の自我はついに崩壊してしまう。
山中にある静かな施設。
自分のことすらわからなくなり言葉も感情も失った真里亞を抱きしめながら、雅哉は「愛しているよ」と囁き、涙を流すのだった。
……あらすじを読み終えて、サトダさんに聞いてみた。
「これ、私、誰を演るんですか……?」
「もちろん、主役の真里亞よ!雅哉はレグルスのガイヤくん、絵梨花はトキノ リラちゃん。二時間半ゴールデン特別枠で放送なのよ!」
キャーと嬉しそうに跳ねながら、サトダさんは言う。
確かにデビュー間もない新人がゴールデン枠で主役なんてすごい、けど……。
「難しくないですか、この役……。私、演劇経験なんてほぼないんです……」
「それも承知の上でのオファーなの。脚本のあのノイダ キンジ先生がアイラが演るならって書き下ろした本らしいのよ」
「あのノイダ ギンジさんがですか……?!」
ノイダ ギンジは現代社会の闇を独自の視点で描き、社会に多くの問題提起を投げかけ大ヒットを生み出してきた大物脚本家だ。
彼の書く物語は表現が過激で陰鬱なものも多く、PTAなどからは放送を控えるように苦情が入ることも少なくない、良い意味でも悪い意味でも常に話題になるドラマばかりなのだ。
かくいう私もノイダワールドに惹かれ、哀しみと非情渦巻く物語を涙しながらテレビにかじりついて見ていた視聴者の一人だ。
俄然、出演したくなった。
ノイダ先生のドラマは、それを見た人に思い出のような、苦い経験のような、とにかく特別な感情を呼び起こさせるのだ。
リラにまみえる心構えももう大丈夫。
リラになんて負けない。
リラに勝つ女優、タレントになる。
私は全てにおいてリラに勝るために今ここにいる。
リラ、貴女が特別だ、特別だと誇っているその世界から、“下の世界”に引き摺り下ろしてあげるわ、貴女が馬鹿にして見下して傷つけ放題してくれた、この私の手で。
「私、やります!」
強い口調でサトダさんに言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます