第2話
――そうさ You're my precious one 愛してるよ 魔法のない夜も越えて 今宵も君はCinderella♪ドレスも靴もいらない そのままの君で そばにいて♪――
「はぁぁ~ガイヤくんかっこいい~かわいい~キレイ~たまらん~」
マンションの自室で歌番組の録画を見ながら独り言を吐き続けている。
推しを愛でて、推しの尊さを言葉にする。
これが良いストレス発散になるのだ。
ガイヤくんは今年デビューしたアイドルグループ『レグルス』のセンター的存在で、国宝級イケメンと評されるほどのルックスと誰からも愛される天真爛漫な性格で今大人気の芸能人。
二次元をも超越するその見た目もあって、雑誌の表紙を飾れば即日完売、映画にドラマ、バラエティにも引っ張りだこの超超超売れっ子アイドルだ。
事務所もレグルスのプロモーションに力を入れていて、デビュー当時からメディア露出が激しかったので、見ているうちについついハマるファンが続出した。
もちろん私もその中の一人だ。
「同じ人間とは思えないわーマジで。キレイすぎん?何食べたらそうなるの?はぁー、もーキュン~、キュンが過ぎる~」
テレビに映るガイヤくんを見つつ、あたりめを食べながら、二本目の缶チューハイを開けようとした時だった。
ガシャン、グシャ。バターン。
「きゃああ!」思わず叫んでいた。
うわ私ってキャアとか叫ぶんだ、と謎に冷静に考えてしまって叫んだ自分が何故か恥ずかしくなった。
え?何?
窓割れてるし、鏡も割れてる……。
割れた鏡のそばに見知らぬスマホが落ちている。
「これが飛んできたってこと……?ここ二階なんだけど……」
窓に近づくのも怖かったので、どうしたらいいかも分からずしばらく固まったまま立ち尽くしてしまっていた。
ピンポーン。ピンポーン。
インターホンが鳴ったのでとりあえず出てみた。
こんな夜に誰だろうと更に不安になった。
映像は映らない旧式のインターホンなので、こういう時不便だ。
「はい……どちら様ですか……」
「あの……!すみません!夜分にすみません!」
酷く息の荒い男の人の声だった。
反射的に、怖い、と感じたけれど、もしかしてと思い聞いてみた。
「えっと、もしかしてスマホ……?」
「あっ……!!やっぱりそこに……?ご、ごめんなさい!すみません!それ、俺ので……!」
「……あぁ……じゃあ、……渡しに行きますね」
渡しに行くのも怖いけど、取りに来てもらうのも怖い、八方塞がりの末に出した結論だった。
まさか二階から放り投げる訳にもいかないし……。
念の為私のスマホも持っていこう。
防犯ブザーなんて無縁だと思ってたから持ってない。
話した感じ、悪い人ではなさそうだったし、きっと大丈夫なはず……!
「あっ!!すみません!すみません!スマホ投げたの俺です、すみません!本当にごめんなさい!」
手に持っていたスマホを見たのか、私が声を掛ける暇もなく素早く駆け寄ると、スマホを投げたらしい男の人は土下座する勢いで謝り続けた。
暗がりでよく顔は見えないが、まだだいぶ若そうな男の子だった。
大学生くらいだろうか。
謝罪の勢いが凄すぎて返事も出来ないでいると、スマホの人はこう続けた。
「窓、割れちゃいましたよね!?ガチャンて鳴ったし。あの、弁償しますので、申し訳ないのですが連絡先をお伺いしても……?」
「えっ?あっ!そうですね……助かります……」
よく分からない展開に、頭がついてきてない。
そうだー。部屋ぐちゃぐちゃじゃん……。片付けないと……。
連絡先を伝えると、「あの、お姉さんはおひとり暮らしですか……?」とスマホの人が聞いてきたので思わず身構えてしまった。
何か察したのか、すぐスマホの人がこう続けた。
「あっ違うんです!すみません!その……片付けと割れた窓のとりあえずの応急処置だけでもさせて貰えたらと思って……。でもおひとりの女性の部屋に上がるのも失礼かと思ってですね……!!」
慌てて弁明する様子を見てたら、なんだかとってもいい人みたいだなと思えてきた。
なぜスマホを投げたのかは気になるところだけれど。
聞いてもいいものか……?
「そうですね……実は、片付けるの億劫だなって思ってたので、手伝ってもらえると助かります……」
せっかくいい気分でレグルスを堪能してたのに、ぶち壊されたんだ。
片付けくらいしてもらって、少しでもスッキリした気持ちになりたいと思ったのだ。
「ここですー」
「すみません、お邪魔します」
というやりとりをして、部屋に招いてから気づいた。
スマホの人がイケメンだと言うことに。
背は百七十くらいで普通だが、とにかく顔がちっちゃい。
握りこぶしで顔のほとんどが隠れそうなほどだし、顔のパーツの整い方が芸術品のようでヤバい。
明るい茶系でつやつやの髪の毛、すらっとした鼻筋に綺麗な形の唇、キリッとした眉毛に、目なんて仔犬のようにクリクリしている。
すごく好み。
まるで推しのガイヤくんみたい。
……あれ?これガイヤくんじゃね?
――そうさ You're my precious one 愛してるよ 魔法のない夜も越えて 今宵も君はCinderella♪ドレスも靴もいらない そのままの君で そばにいて♪――
テレビからレグルスの歌が流れてきた。
そういえば、録画した番組を再生したままだった。
私もスマホの人も、つい音がしたテレビに目を向けたけれど、スマホの人がゆっくり向き直って気まずそうな顔でこちらを見てきた。
「えっ……ガイヤくん、ですか……?」
「あっ……ハイ……すみません……」
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