おまけ-アラクネさんのひとりごと

さて、東風に乗って吟遊詩人のアラクネさんが登場です。おまけのお話なので、本編とはかなり雰囲気が違います。

それでも良いよ~という方、ちょっと長めのひとりごとですが どうぞお付き合いください。


*****



皆様、本日はわたくしの「ひとりごと」にお集まりいただきありがとうございます

まだ、場所には充分余裕がございます

後から来たお客様もご安心ください

あ、そこのあなた、前の方が空いておりますよ、どうぞ、どうぞ


それでは、改めてごあいさつを

わたくし、物語紡ぎの吟遊詩人こと、蜘蛛妖精のアラクネでございます

はじめましての方も、毎度ごひいきのお客様も、よろしくお見知りおきください



本日皆様にお話しするのは、

幻のフカフカ谷なる金色の谷に暮らすという

ダンゴロムシ妖精の勇者の話『ジミーの大冒険!』を――

え?それはもう他所で聞いた?

それに主人公の名前が違う?

あらあら、失礼いたしました

わたくしとしたことが

ふふっ、ちょっと色々なお話がこんがらがってしまったようですね


ええと、それでは妖精からも人間からも大人気

『輝きのスズロと妖精の王女カモミラ』を――

え?それは5回以上聞いた?


あらあらそうですかぁ

どういたしましょう?今日お集まりの皆様は耳が肥えておいでのようですね

ええと、ああそう!あれ!

あれががありました!


皆様は運がよろしいですわ

きっとこの森には日ごろの行いが良い方ばかりいらっしゃるのですね


さて、これからお話する物語は、まだ誰も知らないお話

そう、他の吟遊詩人では語れない話


なぜならこれはわたくしがつい先日実際に関わったお話なのです

そう、アラクネオリジナルですよ、オリジナル!

ステキな響きでしょう?


舞台はあのカエル妖精ケロールの国、フラック王国から始まります

え、ご存知ない?それは残念ですね 

とても美しい国なんですよ


この森からだとバルデーシュを挟んでちょうど反対側でしょうか

そう、東のオースン川のすぐ手前にある草原がそうです

昔は雨の季節になるとあの国に観光に訪れる者もとても多かったのです

今はどうかって?

それはこのお話を聞いてからのお楽しみで




さて、古くからあるケロールの国、フラック王国

けれどかつての大嵐の影響で国は滅びかけました

その後、国に入れるのはわずかな生き物だけになってしまったのです


そう、王をむしばむ恐ろしい『呪い』に影響しないような生き物でもない限りは、入れないように


呪いだなんてゾクゾクしちゃいますね?

怖い話は夏場にしてくれって?

まあ、そうおっしゃらずにおつきあいくださいな


わたくしはあの国で、ジミーの大冒険……じゃなかった、勇者ダンゴローの冒険譚を語ってまいりました

そりゃもうみんなかぶりつきですよ

だって外からの情報が何も入らないのですもの

わたくしの話がそのまま流行の最先端!

地味でも大冒険なお話に、ケロール達は夢中になりました


その中でも、特に真剣に耳を傾けてくださったのが、茶砂トカゲのミラじいさんとかいうおじいちゃんで

ほら、茶砂トカゲって小さい頃は砂漠の宝石と呼ばれるほど美しいでしょ?

それで、あの光りモノ大好きのカーラスにさらわれたところを、ケロールの歌声で救われたとか


ミラじいさんはわたくしに何度も何度も恵みの雨の女神様のお話をせがんでこられて

もちろん、語るのが仕事ですからね、何度も話して差し上げましたとも

まあ、ちょっとずつ内容が変わっていたかもしれませんけどね、その辺はご愛嬌


で、このミラじいさんが女神様に会いに行くって言い出したんです

そりゃ驚きますよ

だって、恵みの雨の女神様は、本来は激しいカミナリを司るって噂でしたしね

それとなく「やめておいた方が……」って止めたんですよ?


根が親切ですからね、このアラクネは

いえいえ、面白がってネタ扱いなどと、そんなことありませんって


で、あまり真剣に話されるものですから、親身になってちょっとアドバイスしたんです

黒い竜になればひょっとして会えるんじゃないかって

ええ、ダンゴロー英雄譚に出てくるでしょ

あの竜のマネをしてみたらって

いやだわ、だからネタにしようなんて気持ちはございませんでしたってば


まあ、でもアドバイスしたんだし、ちょーっとくらい行く末を見守ったって罰は当たらないでしょ?

それで、もう少しだけアドバイスさせていただいたんです

ミラじいさんが体の色を変えて羽でもつければ竜っぽいですよって

ええ、ええ、そりゃあトカゲと竜はどう見たって大違いですよ

けど、その方が面白、じゃなかった少しでも会える可能性が上がるかもしれないでしょ?


でね、知り合いの妖精から聞いたキャラバンの一行を紹介してあげたんですよ

ほら、ここ最近バルデーシュとナゴーンとで正式な貿易が始まって、色々と人やら物やら流れているじゃないですか

あれでね、なんでも色々な舞台衣装や飾りなんかを作れる人間がいるって聞いたんですよ

そう、ナゴーンのナントカ伯爵の劇場で働いているって聞きましたね

見聞を広げるための制作修行の旅だって

その人に頼んであげたんですよ

ネ、いえ『困っているおじいちゃんがいます』って


親切な若者でね、竜がらみって言ったらすぐ応じてくれて

ミラじいさんの頼みを聞いて竜の翼をつくってくれました


まあでもその場しのぎの材料で間に合わせたので

ちょっと濡れたらおしまいだよ?なんて言ってましたけど

でも、とりあえず竜っぽい感じにはなったんですよ


さあ、さあ、そこから茶砂トカゲのミラじいが一世一代の大芝居!


え、語りが急にわざとらしいって?

だってこう盛り上げでもしなくちゃ、後ろの方のお客さんなんて居眠りし始めてるし……

お気楽そうに見えてもね、吟遊詩人の世界もなかなか厳しいんですよ

昔は糸を出すだけでも喜んでもらえたもんですけどねえ……


あっと、ぼんやりしちゃってごめんなさいね

で、ミラじいさんは黒い竜の格好で恵みの雨の女神様に会いに行ったんです

フラック王国から出たことが無いものだから、ちょっと世間知らずなところがあってねえ

いきなり砦で大声で名乗ったものだから女神様に睨まれてキュッと首根っこつかまれましてね

いえいえ、比喩とかじゃなく、本当にキュッと

で、あわやってところで登場したのがお祭り竜こと陽竜様ですよ!


『やや!待たれい、恵みの雨の女神よ、そなたには慈悲というものが無いのか?』っておっしゃられて

ぶぶいん

え、陽竜様はそんなキャラじゃない?

あら、これはこれは!

またずいぶんと大きな蜜蜂さんね?

この森の蜂さんじゃないわね

はい?陽竜様のお知り合い?

あ~ら、そうですかあ

でも、ちょーっと静かに聞いてて下さるとありがたいわ

(お願い、ね?あとで美味しい蜜のある花畑をご紹介しますからね)


さてと、どこまで話したかしら?

そうそう、陽竜様が恵みの雨の女神様を諭されて

女神様も『よよよ、わたくしが悪うございました、お許しください』って

ぶ~んぶいん!?

(し、静かにね、蜜蜂さん、質問コーナーは後で設けますからね)


さあ、ミラじいさんは本物の黒い竜を従えてフラック王国へ乗り込むことになりました!

ところがどっこい、ここからモフモフ&ふわふわのノラウサギ夫婦の大活躍!

え、ミラじいさんはどうしたって?

そりゃあ居ますよ

居ますけどゴツゴツした茶砂トカゲのおじいさんが話の主役じゃパッとしないでしょ?

フワフワのウサギちゃんたちの方が可愛いし映(ば)えるし


そんなわけで、ノラウサギの愛くるしい若夫婦は、ミラじいさんの切なる願いを叶えるために、魔法のノラウサギダンスをご披露です!

ぶぶいん

(ちょ、静かにっ、お願い、ここ良いところだから)


大池の周りにノラウサギの魔法がキラキラと広がり、大池のハスの花があともう少しで開くという時に

ああ、なんということでしょう!?

どこからか不気味な重低音の羽音が!

そう、悪名高い乱暴者のクマ蜂がハスの花に取り付いて花を枯らそうとしたのです


!? ぶ!!ぶぶぶぶぶぶぶぶ!ぶいん!!


(ちょ、ちょっとお客さん暴れるのは止めて、あんまり騒ぐと糸でぐるぐるにしますよ?)


悪辣なクマ蜂が暴れていると、どこからともなく激しい雷が鳴り響き、恵みの雨の女神様を従えた陽竜様が現れました!


『これこれ、乱暴者のクマ蜂よ、控えよ。ここは僕の愛する美しきケロールの国であるぞ』

陽竜様のひと声で、さすがの乱暴者のクマ蜂もどこかへ飛び去ってしまいます

ぶぶぶぶぶぶぶ!

(はいはい、後でねー、ぐーるぐるっと)


さあ、恵みの雨の女神様の出番です!

やさしくルカ王に寄り添うと、雨の恵みについて語りだしました

やがて、優しい女神様の声に促されるように、ルカ王の瞳から大粒の涙と共に氷の欠片が!

ぶぶいん?

(シッ、大丈夫、良いの、氷の欠片が目からポロリ!は、おやくそくだからね)


涙とともに氷の欠片をこぼしたルカ王は、自分が国を呪っていたことを知り大いに嘆きます

すると、そこに美しい少女に姿を変えた竜の女の子が現れました

ルカ王はその女の子に恋をして美しい歌声を取り戻します!

ぶぶぶいん!?

(もうちょっとだから、ね?さらにぐるりーんこ)


ああ、けれど何ということでしょう!?

その少女は実は陽竜様と相思相愛だったのです!


ぶぶいん!

キーッ!

(あら、いつの間にか糸を切っちゃったの?お仲間がいた?まとめてぐーるぐるっと)


哀れ一瞬で失恋してしまったルカ王を、ミラじいさんが砂漠の宝石となって慰めます

えっ、どうして変身したかって?

うーん、呪い……かしら?

そうっ呪いの後発的な影響ですね、たぶん

とにかく、虹色の柔らかボディの砂漠の宝石になっちゃいました

映(ば)えポイントですね


こうして砂漠の宝石に変えられた茶砂トカゲのミラじいの大冒険が幕を開けたのでした!

続きはまた次回に!

乞うご期待!!


さあて、次なるお話は――

あら、ちょっと皆様、どこへ?

なんで散って行っちゃうのかしら、まだこの他にも色々お話はありましてよー?





はあ、昔はもっと人気だったのにねえ

ここの王子様だって小さい頃は目を輝かせてわたくしの糸芝居を見てくれたのよね

もう一度お会いしたくて、思い切って足を延ばしてみたけれど

お忙しいのねきっと

はあっ


ぶぶいん!

キキーッ!


あらっ!ごめんなさいね

あなたたちのことすっかり忘れてたわ

はい、はい、糸を外しますからねー

ちょっと待ってちょうだいね

反対巻きにぐーるぐる♪っと

しゅるんっ

はいっ、取れた


ぶいん!

キー♪


え、アズール王子とも知り合い?

すごい蜜蜂さんね、大きいだけじゃないのね

そちらのコーモリさんは?

会員No1?

なんの会員……

え、わたくしも入れてください!


はいっはいっ、悪辣な蜜蜂の出てくる話はもういたしません!

可愛らしい妖精のような大きな蜜蜂さんの登場するお話を考えます!

ええ、もちろん、ケロールの国のお話も脚色し過ぎないようにいたします!


キーッ♪

ぶぶいん♪


まあ、これが会員バッチですか?

えっ、アズール王子の手作り?

うそっ!?

本当に本当?


ああ、東から西までがんばって風に乗って飛んできたかいがあったわー!

あ、待ってください

No.1さん、No.2さん、お二方の分まで糸を紡ぎます!

首飾りにしましょうよ

おそろです、トリオでおそろ♪






さあて、お集まりの皆様方!

これが、蜘蛛妖精の吟遊詩人アラクネの紡ぐ最新作

『かけがえのない友情と輝くバッチを手に入れたお話』でございます


最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました

またのお越しをお待ちしております


はいっ、反対巻きにぐーるぐるっと♪

しゅるんっ




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