第233話-呪いの中へ……

 思わずうつむくと、爽やかな青空のような魔石が目に入りました。

 空の魔石です。そうです、ブランが出発の時に話してくれました。

『もし、先に進めないとか、困ったことがあったら石に触ってごらん』

『きっとどこかに想いがつながる』

 黒ドラちゃんは空の魔石に触れてみました。すーっと心が軽くなります。もう一度ブランの言葉がよみがえります。そう、今はまだ見つからないけど、きっとどこかで解決できる道につながっているずなんです。

「あきらめちゃ、ダメ」

 黒ドラちゃんがつぶやきました。つながる道がきっとある――

 その時、リュングが「魔伝が消えました!」と叫びました。見れば、リュングの手元にあった魔伝の紙がきれいさっぱり消えています。

「飛んで行ったの?」

 ドンちゃんがリュングにたずねますが、リュングにもわからないようです。

「それが、本当に急に消えてしまって。……呪いで消えてしまったんでしょうか?」

「きっと違うよ、ちゃんとつながったんだよ」

「つながった?」

 黒ドラちゃんの明るい声に、リュングが不思議そうに聞き返しました。

「空の魔石がつないでくれたんだよ。あたし、信じてる!」

 黒ドラちゃんの若葉色の瞳が、明るく輝きます。それを見ていたリュングがつぶやきました。

「そうですね、私も、私も信じます。つながったんだって、信じます!」

 そして空を見上げました。ドンちゃんも食いしん坊さんも、みんなで一緒になって、祈るような気持ちで青い空を見上げました。






 魔伝が消えてから、何か起きないかとを待っていましたが、何もないまま日は傾いてきました。

「どうしよう、黒ドラちゃん」

 ドンちゃんの声が震えています。ルカ王を怒らせてしまったことに責任を感じているようです。

「大丈夫だよ、ドンちゃん。あたし絶対に信じてる。この国を出るのは、みんなで呪いを解いてからだよ」

 もう黒ドラちゃんに迷いはありませんでした。確かに今は何も変わっていないような気がします。相変わらずケロールたちは歌えないし、虹も出ないし花も咲いていません。でも、確かにルカ王は揺らいでいました。何も変わっていないはずは、無いんです。


「信じてる。あたし、信じてるよ!」

 黒ドラちゃんの若葉色の瞳は、相変わらず明るく輝いています。いつしかドンちゃんも、不安を口にするのをやめていました。

 その時、みんなのそばで黙りこんで夕日を浴びていたミラジさんが、ゆっくりと動き出しました。

「ミラジさん?」

「大池に参ります。きっと王は今もあそこに座っておいででしょう」

「あれだけ怒っていたのに、戻ってるかな?」

 ドンちゃんが不安そうに聞き返しましたが、ミラジさんは迷うそぶりもなく進んでいきます。その様子に、黒ドラちゃんたちも一緒に大池に向かうことにしました。


 大池に着くと、ミラジさんの言う通り、ルカ王子が戻っていました。テーブルの上には、割れたはずの茶器がきれいに並べられています。

「おや、まだいらっしゃったのですか?てっきりもうお帰りになったかと思っていましたよ」

 ルカ王子が黒ドラちゃんたちに微笑みかけます。その顔にはもう怒りはありませんでした。


「あたしたち、まだ帰れません」

 黒ドラちゃんがきっぱり言いました。けれど、ルカ王子は何も気にしていないように「そうですか」と返すだけでした。穏やかそうな横顔は、初めの時よりも、もっともっと深くこもってしまっているようです。呪いの中へ、自分の作った世界の中へと……

 黒ドラちゃんが、何か言わなくちゃ!と意気込んだ時、リュングが「あれはっ?!」と小さく叫びました。

 指さす方を見れば、南の空が真っ暗になっています。ものすごい勢いで黒い雲が広がってきているのです。やがて、その雲はフラック王国を覆いつくし、辺りに稲光が走り出しました。


「まさか」

 リュングがつぶやいたのが先か、激しく空が光ったのが先だったのか――轟音とともに大池の上に鮮やかな夕陽色の竜が一匹現れました。

「陽竜様!」

 リュングが嬉しそうに叫びました。背中に乗っていた美しい人が、ひらりと宙に舞いました。稲光を身に纏い、大池の上で神々しく輝いています。

「さて、我の先触れが世話になったな」


フラック王国で奮闘する黒ドラちゃんたちに、ようやく味方が現れました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る