第10章-了 つながってる

「ぶぶいん!?」

 あたし?とモッチが驚いています。


「これ、どうしたの?誰が描いたの!?」

 黒ドラちゃんがたずねると、ゲルードがひざまずいたまま教えてくれました。

「そちらは、この間の作戦に秘かに立ち会わせていた宮廷画家が描きました」

「きゅうていがか?」

「はい。城の廊下に飾られているスズロ王子とカモミラ王女の肖像画などを手掛けた画家です」


 なんだかすごい人が描いてくれたみたいです。


「それで、これあたしにプレゼントなの?」

 黒ドラちゃんが首をかしげながらたずねると、ゲルードが申し訳なさそうに首を横に振りました。

「そちらは王が下書きとして描かせたもので、一応持ち帰ることになっております」

「下書き?」

「はい。これを基に完成させた絵を額に入れて城に飾るおつもりなのです」

「モッチとダンゴローさんの絵をお城に!?」

「はい。なんでも、幻の妖精ダンゴロムシに力を貸した証として、後世に残したいとか」

「ぶぶい~~ん」

「ええ、それでモッチ殿と古竜様に確認していただこうと」

「かくにん……」

「はい。絵の描写に誤りがないか、確かめていただきたいとのことです。」


 黒ドラちゃんが絵を広げてじっくり見つめます。モッチも黒ドラちゃんの頭の上で同じように見つめます。と、そこへラキ様に追いかけられていたラウザーがひょっこり顔を出しました。

「あれ、これってダンゴローとモッチじゃんか。はははっ!このモッチってば美化し過ぎじゃないか~!?」

「ぶいんっ!」

 モッチがラウザーを睨みつけます。けれど、それも一瞬でした。ラキ様の落したカミナリを受けて、ラウザーが飛び上がって空へ逃げ出したからです。


「ええと、モッチ殿、いかがいたしましょう?」

「ぶぶいん」

「はい、モッチ殿の描写は問題なし、と」

「ぶぶ、ぶいん、ぶいん」

「なるほど、ダンゴロムシの背中の輝きが今一つ、と」

「ぶいん、ぶぶい~~ん」

「はい、もっとこう光を反射する感じですかな」

「ぶいん。ぶぶい~ん」

 モッチが余すことなくダンゴローさんの背中の美しさについて語っています。ゲルードが一生懸命メモを取りながらうなずいていました。やがて完璧にダンゴローさんの背中の魅力を語り終えて、満足そうにモッチがゲルードを解放しました。

「そ、それでは、これで画家に完成させます」

「ぶいん!」

「完成した暁にはお披露目をいたしますので、ぜひ古竜様と一緒にモッチ殿もお越しください」

「ぶぶいん!?」

「ええ、もちろんお城にご招待です」

「ぶ……ぶ、いん?」

「スズロ王子ですか?もちろんご臨席賜るでしょう」

「♪ぶいーーーーーん!」

 モッチが嬉しそうにクルクルとその場を飛び回りました。



 それから、黒ドラちゃんは金のスコップの不思議な力についてみんなに話しました。実は、お城のそばにもブランの北の山にも、他にもあちこち顔を出したこと。それに、フカフカ谷の小さなダンゴロムシさんたちの話や、栗コケのロールケーキの話をしたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎてゆきました。


 いつの間にか、夕暮れが近づいています。


 ゲルードはマグノラさんやみんなに挨拶をしてお城へ帰って行きました。ブランもゲルードの後からお城へと飛んで行きました。ラキ様も、さんざん雷でラウザーを追いかけまわしていましたが、結局背中に乗って南の砦に戻りました。

 黒ドラちゃんもマグノラさんにお別れを言い、ドンちゃんとモッチと一緒に古の森へ帰ることにしました。黒ドラちゃんの背中にドンちゃんが、その頭の上にはモッチが乗っています。


 古の森を夕焼けが美しく染めていました。


『美しいですね、古竜様の古の森は本当に美しい』


 ダンゴローさんのつぶやきを思い出します。黒ドラちゃんは、ちょぴりさびしい気持ちになって、お鼻をスンと鳴らしました。

「ぶぶい~~ん」

 モッチは白い布を取り出してしんみりと眺めています。


 

 古の森へ着くと、ドンちゃんを巣穴へ送って行きました。モッチは帰らずに黒ドラちゃんの頭に乗りました。

「モッチ、まだ帰らなくて良いの?」

 黒ドラちゃんがたずねてもモッチは返事をしません。どうしちゃったんでしょうね。


 湖のそばの洞の前に着きました。黒ドラちゃんの頭に止まっていたモッチが、地面近くに降りていきました。


「ぶい~ん?」


「ぶぶい~ん?」


「ぶぶん?」

 その辺に落ちている葉っぱを一枚一枚ひっくり返しては、地面に穴が無いかを確かめています。

「モッチ……」

 やがてモッチはあきらめたようでした。切り株の上に力なく降り立ちます。

 黒ドラちゃんはモッチと並んで切り株のそばに座りました。


 夕陽が、森と湖と二匹を染めています。


 ふと見ると、夕日に照らされて周りの落ち葉が黄金色に輝いているように見えました。


「ねえ、モッチ、ここの落ち葉ってさ」

「ぶん?」

「まるでフカフカ谷の落ち葉みたいに見えるね」

「……ぶん」

 モッチも落ち葉を眺めます。ダンゴローさんが言っていました。地上とつながりながら、けれども全く違った世界。それがダンゴロムシさんの世界――


 モッチが、ふわっと飛びあがりました。


「モッチ、どうしたの?」

 黒ドラちゃんが話しかけると、モッチは「ぶ」と一度だけ羽を鳴らしました。静かにって、ことみたいです。ゆっくりと落ち葉の上に降り立ちます。そして、目の前の一枚の落ち葉を、そっと持ちあげました。


 そこには、栗コケのロールケーキが置かれていました。


「えっ!?」

 黒ドラちゃんはビックリして大きな声で叫んでしまいました。モッチが再び「ぶ」と羽を鳴らします。黒ドラちゃんがお口を押さえて見守る中、モッチが辺りを見回します。


 夕日の中、黄金色の落ち葉が静かに輝いています。



 ――ぷぷぃん



 小さく、小さく。


 見えない存在へのお礼の羽音が、優しく静かに消えて行きました。

















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