第207話-地味でも大冒険

「黒ちゃーーーん!」


 ブランです。ハッとして顔を上げると、ブランが湖の向こうの森の上を飛んでくるのが見えました。

「ブラン!」

 黒ドラちゃんは尻尾をブンブン振りながらブランを呼びました。


「黒ドラちゃん!」

 今度は後ろの茂みからドンちゃんが現れました。

「ドンちゃん!」

 振り向いてドンちゃんを抱き上げます。

「お帰り、黒ドラちゃん」

「ただいま、ドンちゃん!」

 ドンちゃんを抱きしめていると、後ろから遠慮がちに「黒ちゃん」と呼ばれました。


「ブラン!」

 黒ドラちゃんはドンちゃんごとブランに抱きつきました。一瞬残念そうな表情を浮かべながら、ブランが「お帰り」と言ってくれました。


「無事にフカフカ谷へ行ってこられたんだね?」

「うん!」

「谷を黄金色に変えられたんだ?」

「うん!」

「良かった。お疲れ様、黒ちゃん」

 ブランが優しく黒ドラちゃんの背中をポンポンしてくれます。黒ドラちゃんは悲しい気持ちが少しだけ消えて行くような気がしました。


「あのさ、マグノラの森にゲルードやラウザー達が集まっているんだ」

「マグノラさんのところに?」

「ああ、黒ちゃんフカフカ谷へ向かう途中にマグノラのところへ寄ったんだろう?」

「うん、モッチのお花が欲しくて」

「ぶいん」

「それで、あそこで待っていればまた現れるかも知れないって、みんなで待ってたんだ」

「そうだったんだあ」

「うん、それでさ、もし疲れてなければ、で良いんだけど……」

「行く!マグノラさんのところへ行く!」

「う、うん。じゃあ行こうか」


 ブランと一緒に、黒ドラちゃんは背中にドンちゃんとモッチを乗せてマグノラさんの白いお花の森へ向かいました。



 森の奥、お花畑でみんなが待っていてくれました。


「ただいま!みんな、協力してくれてありがとう!無事にフカフカ谷を黄金色に出来たよ!」

 黒ドラちゃんが元気にご報告すると、ラウザーのそばでラキ様がふわりと微笑みました。

「そうか、無事に故郷へ帰れたのじゃな、あのダンゴロムシは」

 とても優しそうな声でつぶやきます。


 そう言えばダンゴローさんはラキ様へは特にお礼を伝えて欲しいって言ってました。黒ドラちゃんがラキ様へお礼を伝えようとした時、突然ラウザーが泣き出しました。

「ラキ様ー!俺がずっとラキ様のそばに居るから!絶対淋しい思いなんてさせないから!だから大丈夫だよー!!」

 そう言ってラキ様にギュッと抱きついて、すかさず雷を落とされて「ピギャーッ!」なんて叫んでいます。


 ――ああ、そうでした。


 黒ドラちゃんは忘れていました。ラキ様も、生まれた世界から遠く離れた場所にいるんだってことに。なぜラキ様が今回あんなにダンゴローさんのための作戦に協力的だったのか……ラウザーは、はじめから気付いていたのかもしれません。騒いで逃げ回っているラウザーを目で追いかけていると、優しいガラガラ声に話しかけられました。

「おかえり、黒チビちゃん」

「マグノラさん、ただいま!あと、ありがとう!」

「ダンザエモンには会えたのかい?」

 マグノラさんが優しく黒ドラちゃんにたずねてきます。


「うん!あのね、モッチのダンゴロムシ磨きはすごいんだよ!」

「ほお、そうかい」

「ぶぶいん!ぶいん!」

「そうなの、ダンザエモンさんの背中がピカピカになって、元気になったんだよ!」

「そりゃ良かった。ダンゴローも大役を終えてホッとしたことだろうね」

「うん!モッチがダンゴローさんをダンゴロムシの勇者だ!って言って」

「ほおっ、そりゃすごいね」

「それで、ダンゴローさんが『がんばります!』って言ってくれて」

「ふんふん、やる気になったんだね」

「それで金のスコップで穴を掘って……掘って……」


「黒チビちゃん?」


「それで、穴を 掘って フカフカ谷へ…向かって……消えちゃって……」


「……」


「ダンゴローさんの穴、消えちゃった……消えちゃったのー!どこだかわからなくなっちゃったのーっ!もう、会えないのかなー!?会えないのかなあー!?マグノラさーーーん」


 黒ドラちゃんは泣きながらマグノラさんにしがみつきました。モッチもマグノラさんの頭の上で泣いています。

 マグノラさんは、黒ドラちゃんの背中を優しくポンポンしてくれました。


「よくお聞き。ダンゴロムシは臆病で滅多なことでは人前に出てこない妖精だ」

「うん……」

 黒ドラちゃんが鼻をグスグスさせながらうなずきます。

「その臆病な妖精が、たった一匹で古の森を目指して旅に出た」

「うん」

「そして、金のスコップを失くしながらも、なんとか古の森にたどり着いた」

「うん」

「ま、モッチに拾われたって言うのはあるけどね」

 マグノラさんがモッチに目をやると、モッチが「ぶ、ぶん」と羽音でうなずきました。

「そして、お前さんたちの協力で金のスコップを取り戻し、無事にフカフカ谷に戻って谷を黄金色に変えたんだ」

「うん」

「すごいことだろう?」

「うん……うん!」

「ダンゴロムシ勇者の大冒険さ!」

 マグノラさんがおどけて言います。

「そんな大冒険に関われるなんて、お前さんもあたしたちもラッキーだ!って思わないかい?」

「うん、思う、すごくラッキーだよね!」

 黒ドラちゃんが笑顔でうなずきました。

「さあ、泣くのはお止め、黒チビちゃん、モッチもね。ダンゴローの大冒険が無事に成功したことを喜ぼうじゃないか」

 マグノラさんの言葉に、ようやく黒ドラちゃんの中の淋しい気持ちが消えてくれました。

 笑い合っている黒ドラちゃんの元へ、ゲルードが進み出てきました。

「古竜様、ご無事で何よりでございます」

「あ、ゲルード!ゲルードも協力してくれてありがとう!王様にもお礼を伝えてね」

 黒ドラちゃんがそういうと、ゲルードが「いえいえ」といってから懐から何か巻物を取り出しました。黒ドラちゃんへ差し出します。

「なあに?これ」

 黒ドラちゃんがクルクルと巻物を広げます。


 見れば、そこにはピカピカと宝石のように輝くダンゴロムシと、キレイな花々を背景に白い布を持ったクマン魔蜂が、仲良く並んで描かれていました。

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