第169話-ドワーフの王様
翌朝、ブランは早くから古の森へ来てくれました。
黒ドラちゃんはドンちゃんとモッチも連れて、白いお花の森へ出かけます。すでに、森のそばにはゲルード達がいつも使っている馬車が着いていました。
「ブラン、ありがとう。ゲルードにお話してくれたんだね?」
「ああ、エステンの王子が関係しているって言ったら、すぐに了承してくれた」
ブランと一緒にまっすぐ森の中を進み、マグノラさんのところへたどり着くと、ちょうどゲルードがご挨拶をしているところでした。
「ご機嫌麗しゅう、華竜様。お呼びと伺いまして急ぎ参りました」
これまでに色々あったせいか、ゲルードはものすごく低姿勢です。マグノラさんはにっこり微笑むと、尻尾を軽く振りました。
「まあ、楽におしよ、魔術師の坊や。ブランと黒チビちゃんもちょうど来たから、話をしよう」
そう言って、みんなに向かって腕を見せました。そこにはキーちゃんがプランプランとぶらさがっています。
「おや、それはエステンコーモリですな?」
さすがゲルード、エステンコーモリのことを知っていたようです。マグノラさんが軽く揺すると、キーちゃんが「キー」と返事をしました。どうやらマグノラの花のはちみつ玉の効き目は、一日だけだったようです。
「実はこの子はエステンのアズール王子を追いかけてこの国へ来たんだ」
「ああ、アズール王子を……」
あれれ?てっきり驚くと思ったのに、ゲルードは訳知り顔でうなずいています。
「ゲルード、エステンの王子様がこっそり来てるのに驚かないの?」
黒ドラちゃんは不思議に思ってたずねました。ゲルードはちょっとの間考え込んでいましたが、やがて顔を上げると答えてくれました。
「実は、半年ほど前にエステンのロド王から我が王に密書が届きまして」
「みっしょって?」
「他の人には内緒でこっそり届くお手紙のようなものだよ」
ブランが教えてくれます。
「へえ。ないしょのお手紙なんだ」
黒ドラちゃんが感心していると、ゲルードが先を続けました。
「ええ。ロド王からの密書にはアズール王子のことが書かれていました」
「えっ!?アズール王子のこと?なんて書いてあったの?ロド王は怒ってるって!?」
黒ドラちゃんが勢い込んでたずねると、キーちゃんもマグノラさんの腕から離れて落ち着か無げに辺りを飛び回りました。
「いえいえ。ロド王は我が王にアズール王子の軽挙を詫び、しばらくの間静観してもらえないかと乞うてきたのです」
「怒ってないってこと?」
「ええ。ロド王はアズール王子のことをとても心配されていたようです」
「そうなんだ」
黒ドラちゃんはホッとしました。キーちゃんもマグノラさんの腕に戻ってぶら下がっています。
「すぐに連れ戻すようなことをすると、返って王子が頑なになるかもしれない……とロド王が」
「それで、そのままコポル工房にいることになったんだ?」
「ええ。コポル工房にいることは、我が王を通してロド王にはお知らせ済みです」
「そうだったんだあ。ロド王は知ったらすぐに怒って連れ戻すのかと思ってた」
黒ドラちゃんがつぶやくと、ゲルードが首を振りました。
「ロド王は確かに頑固で短気なお方ですが、ことアズール王子のことに関しては昔から大変心を砕いておられたそうですよ」
「昔から?ゲルードはどうして知ってるの?」
黒ドラちゃんが不思議そうにたずねると、そばで聞いていたマグノラさんが教えてくれました。
「ロド王はね、人間との間に子どもを授かってとても不安だったのさ」
「マグノラさん、知ってるの?」
「アズール王子の母親はこの国の女性だからね。王子が産まれる時にはこの森に祈りに来たのさ、ロド王が」
「えっ!ロド王が!?ここに!?」
「ああ」
マグノラさんがそう言うと、ゲルードも黙ってうなずきました。どうやらロド王は、黒ドラちゃん達が想像していたような、怖いだけの頑固オヤジでは無かったようです。
「亡くなられたお后、ローズ様は、あまり体が丈夫ではなかったようです」
「アズール王子は見た目だけじゃなくて、体の弱いところもローズ様に似ちゃったのかな?」
「それはわかりませんが、少なくともロド王はそれを心配されていたようです」
「でも、キーちゃんお話だと、王子が寝込むといつも腹を立てていたって」
「いや、黒チビちゃん、それは違うだろうね」
マグノラさんが再び話に入ってきました。
「ロド王は、体の弱いローズに子どもを産ませたことを後悔していたんだよ」
「こうかい?」
「ああ、無理をさせたって。ロド王が腹を立ててたとしたら、自分自身に、だろうね」
「そうだったんだ……」
「キー……」
黒ドラちゃんもキーちゃんもなんだかしんみりしちゃいました。
「あ、でも、アズール王子はコポル工房で過ごすうちに、すごく元気で明るくなってきたって」
「キー!!」
黒ドラちゃんの言葉を聞いて、キーちゃんも羽を広げてその通り!ってしてみせています。
「あ、でも今は寝込んじゃってるけど……」
「キー……」
また一緒にしんみり、です。
ここまで話して、ようやく黒ドラちゃんはゲルードたちに来てもらった理由を思い出しました。
「そうだ!じゃあ、コポル工房にみんなで行っても大丈夫だよね?おかみさんたちもアズロが本当は王子様だって知ってるんでしょ?」
「いえ、実はコポル工房には事情を知らせてありません。ただし、工房の周りには密かに城から見張りを配置してあります」
「え、じゃあ、やっぱりキーちゃんを連れてはいけないよね?」
「そうですね……いや、なんとかしましょう」
ゲルードが何か手段を考えてくれるようです。
「ただし、いきなり私が行ったのでは、工房の者もあわてるでしょう」
「ゲルードは国一番の魔術師だもんね?」
黒ドラちゃんに言われて、ゲルードはちょっぴり嬉しそうです。
「テルーコのところのグラシーナに頼みましょう!」
「グラシーナさんに?」
黒ドラちゃんは不思議そうに聞き返しましたが、ゲルードは自信あり気です。
「グラシーナに事情を話し、なんとか王子に会ってもらうようにしましょう」
「出来るの?」
黒ドラちゃんが不安そうにたずねると、ゲルードはニッコリとしました。
「竜の皆様からの頼みとあれば、グラシーナは必ずや応えてくれるでしょう」
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