第170話-王子の瞳の色はステキ
ゲルードの言ったとおりでした。
ブランが人間の姿になりテルーコさんの工房を訪れて事情を説明すると、グラシーナさんはすぐにコポル工房を訪問してくれることになりました。お師匠様であるテルーコさんも助言してくれました。
「コポル工房の織物とうちの宝石や貴金属の細工物を組み合わせ、新たなアクセサリーを考えたい、と言ってごらん。それと、私からコポルに手紙を書こう。それをお前が持参して、ついでにアズロの見舞いもしたい、という形にすれば不審には思われないだろう」
そう言ってくれたのです。さすがはテルーコさん、年の功です!白いお花の森に戻ったブランから話を聞いて、みんなでワイワイと盛り上がりました。
「キ、キー!!」
あ、そうでした、肝心のキーちゃんをどうやって連れて行くか決まっていません。みんなの視線がマグノラさんの腕にぶら下がるキーちゃんに集まります。
「キ、キ……」
キーちゃんは見つめられてキュッと縮こまりました。
それを見ていたゲルードが、ポンっ!と手のひらを叩きました。
「キーちゃんには、そうやってキュッと縮こまっていてもらいましょう!」
「えっ!どういうこと?」
黒ドラちゃんがコテンと首をかしげると、ゲルードがキーちゃんをそっと掴みます。
「こうです」
そう言って自分の胸にキーちゃんをつかまらせました。見れば、キュッと縮こまったキーちゃんは、まるで作り物のようです。
「なるほど!!」
みんなで大きくうなずきました。
「キ……?」
キーちゃんは目だけキョロキョロとさせてみんなを見ています。
「魔石でビーズを用意しよう。それで飾りつければ、さらにブローチっぽくなるんじゃないかな?」
ブランがキーちゃんを優しく撫でながら言ってくれます。
「キー!」
キーちゃんも嬉しそうです。一瞬パッと羽を広げましたが、すぐにキュッと縮こまって動かなくなりました。
「キーちゃん、上手上手!その調子!」
黒ドラちゃんが拍手すると(キ!)と小さな声で答えます。
「これでグラシーナさんに着けて行ってもらって、なんとか部屋には入れるね」
「ああ、モッチ殿のはちみつ玉も、これでアズール王子に渡せますな」
ゲルードが満足そうにうなずきながら言いました。
マグノラさんがニッコリ微笑みながら黒ドラちゃんのことを尻尾でちょんとつつきました。
「アズール王子に渡す特別なはちみつ玉を用意しなきゃいけないね」
「あ、それなら大丈夫!モッチが昨日すごく張り切ってたから、きっと今頃作ってくれてると思うよ!」
今朝はモッチに会っていませんが、やる時はやる、モッチです。
作戦が決まったので、黒ドラちゃんは古の森に戻ることにしました。キーちゃんはモッチに直接お願いしたいらしく、一緒に古の森についてきました。ブランはキーちゃんに付ける魔石のビーズを準備するために北の山へ。ゲルードは、もう一度グラシーナさんと打ち合わせをするために、テルーコさんの工房へ行ってくれることになりました。マグノラさんはみんなを見送ってお昼寝です。
古の森に帰ってくると、ドンちゃんとモッチが洞の前で待っていてくれました。ドンちゃんが用意した葉っぱの上に、モッチの作ったはちみつ玉がたくさん置いてあります。
「すごいね~!モッチってばこんなにたくさん用意したんだ!」
「あのね、それって全部味が違うんだって!」
ドンちゃんが説明してくれます。
「このピンク色っぽいやつがサクラソウの花の蜜ので、薄い黄色はタンポポのでしょ、あと少し白っぽいのはカスミンの花ので……あと、えっと……」
「ぶぶいん!ぶいん!」
「あ、そうそうこの紫色のはフジュの花の特別濃いやつだって!」
そう言いながらドンちゃんが他のはちみつ玉より一回り大きなはちみつ玉をとりあげます。
「キ!キキー!!」
それが良い!!というように、キーちゃんがドンちゃんの前足にぶら下がりました。
「ぶぶいん?」
「キー!キキキー!」
「ぶいん!」
どうやらモッチがキーちゃんと話して、持っていくはちみつ玉が決まったようです。
「ぶぶいん、ぶいんぶいん!」
「ふんふん。このフジュの花のはちみつ玉が、アズール王子の瞳みたいだってキーちゃんが?ステキな色だって?」
「ぶん!」
「そっかあ、じゃあ、キーちゃんに当日持っていてもらうのは、この紫のやつにしよう」
「ぶいんぶいん」
「で、残りは別の袋に入れて王子様に渡すの?」
「ぶい~~~ん!」
モッチが嬉しそうにクルクルと回っています。
どうやら、キーちゃんの話を聞いて、麗しのアズール王子にぜひとも自分のはちみつ玉を味わってほしくなったようです。とりあえず、はちみつ玉はずべてゲルードが以前くれた白い布に包んでおくことにしました。早くアズール王子に渡したいけど、ブランとゲルードからの連絡を待たなきゃいけません。早く早くと一番星にお願いして、その日はそれぞれ眠りについたのでした。
翌朝早く、黒ドラちゃんは何かに呼ばれたような気がして目を覚ましました。洞の天井ではキーちゃんが逆さまにぶらさがって眠っています。今日もお天気のようで、洞の入口から明るい光が差し込んでいました。
「黒ちゃーーーん!」
やはり呼ばれていました。あわてて洞の外に出ると、ブランが湖の上を越えてくるところでした。
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