第157話-しっぽが出ちゃう

 黒ドラちゃん達は、帰りも川の流れに沿って村々の上を通りながら飛びました。

 行きの時に降りてお話したせいか、村の上を通ると人々が手を振って笑顔で見送ってくれます。でも、帰りは村には寄れません。これからバルデーシュまで帰るには、けっこう一生懸命飛ばないといけないってリュングが言うんです。周りに人がいない今は、しっかり者のお目付け役として見事に復活しています。


 しばらく飛んでいくと、ホーク伯爵の屋敷が見えてきました。横の劇場にはたくさんの人が集まっているようです。


「おおーい!おおーい!みんな元気でね~!」

「また来るぜ~!楽しみにしてろよ~!」


 上を飛びながら黒ドラちゃん達が声をかけると、人だかりの中に真っ赤な髪をして、綺麗な踊り子の衣装を着たアーマルの姿が見えました。すぐ横にラマディーもいて、二人とも一生懸命手を振ってくれています。


「ありがとう!古竜様!陽竜様!ありがとう!」

 ラマディーだけ、しばらく走って黒ドラちゃん達のことを追いかけてくれましたが、やがて息を切らせて立ち止まりました。最後に大きく「ありがとーっ!またきっと来て下さーい!!」と大きく叫ぶ声が後ろで聞こえて消えて行きました。


「ねえ、ちょっと寄っちゃダメだったの?」

 名残惜しそうに黒ドラちゃんが言います。でも、ラウザーがキリッとした顔で「ダメだよ、黒ちゃん!」なんてまるでブランみたいな返事をします。

「でもさあ、まだみんなへのお土産だって買ってないし、ドンちゃんたちだって新婚旅行の思い出に何か買いたいよね?」

 籠の中の二匹に話しかけると、食いしん坊さんとドンちゃんはラウザー達を気にしながらもうなずいています。するとラウザーが「もちろんお土産は買うさ!」と言うではありませんか。

「え、どこで買うの?王都もホーク伯爵のお屋敷街も過ぎちゃったよ!?」

 黒ドラちゃんが不思議そうにたずねると、リュングが「やっぱり」とあきれ顔で言いました。

「やっぱり?」

 黒ドラちゃんが聞き返すとリュングが答えてくれました。

「陽竜様は港町で時間を取るつもりなんですよ。だから私の言うことにも素直に従ってまっすぐ飛んできたんですね?」

「もっちろんさあ!久しぶりに来たんだぜ?じいさんの魚料理を食べなきゃ帰れないぜ!」

 ラウザーが嬉しそうに叫びながら尻尾をぶんぶん振り回してリュングに叱られています。


 そうして、間もなくラウザーお待ちかねの港町が見えてきました。


「じーさーん!じーさーん!俺たち帰るんだよ!魚料理急いで作ってくれよ~!」

 他の家より少しだけ大きな家の前に降り立つと、ラウザーは人間の姿になってどんどん家の中に入っていきます。

「ちょ、ちょっとラウザー!」

「陽竜様!」

 黒ドラちゃんやリュングが止める暇もありません。仕方なく黒ドラちゃんも人間の姿になり、みんなでラウザーを追いかけていきました。

「お、おじゃましまーす……」

 大丈夫なのかと恐る恐る家の中を進んでいくと、ラウザーがおじいちゃんとハグしている場面にぶつかりました。

「もう行っちまうのか?忙しい奴だなあ、ラウザーよ」

 そう言いながらおじいちゃんがラウザーの背中や肩をバンバン叩いています。

「ごめんよ、じーさん。でもさ、その前にじーさんの魚料理食いに来たんだぜ?」

 ラウザーが元気よく言うと「全く、いきなり来て困った奴だ」なんて言いながら、おじいちゃんはすごく嬉しそうな顔をしました。それを見てリュングも、早く帰りましょう!とは言えなくなってしまいました。


 おじいちゃんの家は網元という役目をしていて、この辺りの漁師をまとめているのだそうです。そして、おじいちゃんの息子さんの奥さんや、お孫さんが一緒になって、魚料理のお店も出しているということでした。


「俺、あれが食べたい!マクロの頭を煮込んだやつ!」

「えー!魚の頭を食べるの?ラウザー」

 黒ドラちゃんが驚いて聞き返すと、おじいちゃんが笑いながら教えてくれました。

「マクロっていうのは脂の乗った大きな魚でな、頭の先から尻尾まで、捨てるところが無いほど旨い魚なんじゃ」

「へえ~!」

「ちょうど昨日獲れたマクロが煮付けで残っとるぞ。味がしみて食べごろだ!」

 おじいちゃんがそう言うのと、奥からお孫さんらしい若い娘さんが大きなお皿に載った料理を運んでくるのが重なりました。

「やったあ~!マクロのお頭だあ!」

 ラウザーったら人間の姿なのに尻尾をぶんぶん振り回して喜んでいます。それを見ておじいちゃんもお孫さんも嬉しそうに笑いました。


 お皿の上にはマクロの頭がドーンと乗っかっています。大きな目玉も付いています。黒ドラちゃんがおっかなびっくり見ていると、すぐにラウザーが食べ始めました。

「うまい!」

 ラウザーの尻尾が大車輪のように回っています。


 手を出さずに見ていたみんなも、その様子につられて一口ずつ食べてみました。

「美味しい!」

「これは!絶品ですな!」

 ドンちゃんも食いしん坊さんも目を輝かせて次の一口に取り掛かっています。黒ドラちゃんも一口食べたとたんに、尻尾が出てしまいブンブンと振っちゃいました。リュングが「これは確かに何が何でも食べておこうという気持ちになりますね」とうなずいています。


 それは、ホーク伯爵のところでも王宮でも味わえない、漁師の街ならではご馳走でした。ほんの短い時間でしたが、ナゴーンでの忘れられない旅の思い出が、また一つ増えたのです。

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