7章ー了 幸せな時間
ドンちゃんは瞳を閉じて、大きく息を吸い込みます。
「黒ドラちゃんやここにいるみんなに、これからも幸せな偶然がたくさん待っていますように!たくさんたくさん、待っていますように!」
ドンちゃんの声が響き渡ると、花嫁の冠が強く輝きました。そのままキラキラと光る輪になり広がってだんだんと消えてゆきます。
「あ、花嫁の冠、消えちゃう!」
黒ドラちゃんは驚いて思わず叫びました。
「良いのよ、黒ドラちゃん」
あわてる黒ドラちゃんにドンちゃんのお母さんが声をかけます。
「でも、でも――」
「花嫁の冠に込められた黒ドラちゃんの想いはきちんと届いたわ」
「う、うん」
「そして、花嫁の願いもね」
キラキラは消えてしまい、もう冠は影も形もありません。でも、ドンちゃんはとても幸せそうでした。食いしん坊さんと見つめあうドンちゃんの瞳はキラキラと輝いて見えます。
「君の願いが叶えられるよう、わたしも一緒に願うよ」
食いしん坊さんがドンちゃんのお耳にチュッとキスをして、広場に歓声があがりました。
さあ、花嫁の冠祭り改め、食いしん坊さんとドンちゃんの結婚のお祝いパーティーの始まりです。今日はゲルードの家からデザートがたくさん運び込まれています。竜はみんな甘いものが大好きだからです。ゲルードや鎧の兵士さんにはクマン魔蜂さんたちのはちみつ玉が配られました。目をうるうるさせてゲルードがモッチにお礼を言っています。
ドンちゃんと食いしん坊さんは色々な人や可愛い系のみんなから代わる代わるお祝いを言われています。みんなのところを一通り回ってから、最後に黒ドラちゃんのところへやってきました。ドンちゃんはノラクローバーで作ったブーケを持っています。ブーケには願い事を叶える力はありませんが、代わりに消えてなくなりもしません。食いしん坊さんが「ちょっとカモミラ王女にお話があるので」と言って離れて行きました。
「黒ドラちゃん、ありがとう」
あらためてドンちゃんからお礼を言われて、まだ自分の方はお礼を言っていなかったな、と黒ドラちゃんは思い出しました。
「ドンちゃん、極甘の実、入れておいてくれてありがとう。すごく甘くて元気が出たよ!」
「良かったあ。黒ドラちゃんが寒くて凍っちゃったらどうしようって、心配してたんだ」
「大丈夫だったよ。あのね、あのね、ドンちゃん……」
「なあに?黒ドラちゃん」
黒ドラちゃんがドンちゃんを抱きあげて、じっと見つめます。
「黒ドラちゃん?」
「あのね、あたし、ノーランドの雪山で、寒くてね、それでね……」
「うん」
「もしこれから先、ドンちゃんが遠くへ、たとえばノーランドの雪の山のふもとのノラウサギの森とか」
「うん」
「毎日は会えないような遠くに行っちゃたらどうしようって考えたら、進めなくなっちゃったの」
「雪の中で!?」
「うん」
「大丈夫だったの!?」
「うん。洞穴がすぐ近くにあって、その中に入る事が出来たから」
「そっかあ、良かったあ」
ドンちゃんがホッとしたようにつぶやきました。
黒ドラちゃんがドンちゃんの瞳を見つめながら続けます。
「ねえ、ドンちゃん、もしも、遠く離れることがあっても、ずっとずっと大好きだよ」
ドンちゃんが大きく目を見開きます。
「あたし、いつまでもずっとずっとドンちゃんの友だちだよ」
ドンちゃんは目にいっぱい涙をためて黒ドラちゃんを見つめました。
「……黒ドラちゃん、ありがとう」
「ううん、あたし、ドンちゃんが友達でいてくれたから毎日がすごく楽しくて、それが当たり前みたいに思っちゃってた」
「うん、あたしも」
「でも、お友だち同士でも遠くに離れることもあるかもしれないんだよね?」
「……」
「でも、それでもあたしはドンちゃんが大好きだよ」
「――あたしも、大好きだよ、黒ドラちゃん」
ドンちゃんが黒ドラちゃんに、ぎゅっと抱きつきました。そしてつぶやきます。
“いつか”がくるのが怖いのは、あたしだけじゃなかったんだね
「いつか?」
「ううん、なんでもない」
ドンちゃんが涙をふきます。
「あたし、黒ドラちゃんとお友達になれて、とっても幸せだよ」
「うん!」
黒ドラちゃんはドンちゃんを背中に乗せると、ピカピカ光る湖の上を飛び回りました。
いつか、離れて行っても、いつまでも大好きな気持ちを忘れずにいられるように。
いつか、がいつ来ても良いように。
今をたくさん楽しもう。
幸せな時間を幸せだと感じよう。
黒ドラちゃんの背中から、ドンちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえます。
それは、湖の上に、みんなのいる広場に、そして古の森中に広がっていきました。
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