第125話-伝えておくれ

「黒ちゃん、おかえり」

 おばあ様は見えない目で優しく見つめてくれます。蔦で出来た籠のような物に乗って、するすると降りてきました。

「ノラクローバーは見つかったかい?」

 おばあ様に聞かれ、黒ドラちゃんは大きな籠に入った山盛りノラクローバーを見せました。

「まあまあ!がんばったね。こりゃあ、冠に合わせてブーケも作れるね」

 おばあ様がお鼻をくんくんさせて嬉しそうに言いました。

「どれ、花嫁の冠の作り方を教えてやろう」

「ありがとうございます」

 今日はずいぶんと、しゃん!としています。この間みたいに居眠りもしません。

「おばあ様は時々しっかり“つながる”んですの」

 サヴィさんが小声で黒ドラちゃんに教えてくれます。


 おばあ様は黒ドラちゃんに、ゆっくり丁寧に冠の作り方を教えてくれました。練習用に使って、クローバーは少し減りましたが、まだまだたっぷりあります。

「黒ちゃんや、森に戻ったら花嫁にこれを渡してあげておくれ」

 おばあ様が真新しい若草色のエプロンを出してきました。ノラクローバーの花の刺繍が入っています。


「会えないけど、グィンと結婚してくれることをとても嬉しく思っていると伝えておくれ」

「えっ!ドンちゃんはこの家に入るんじゃないんですか?」

 黒ドラちゃんは驚いておばあ様に聞きました。おばあ様がゆっくり首を振ります。

「このテーブルも椅子も茶器もね、博士が持ってきてくれたんだけど」

 そう言いながら古竜様シリーズのテーブルをなでます。

「古の森には素晴らしい古竜の黒様って言う方が棲んでいて、森は常に春のように穏やかで温かいんですって」

「え、ええっと、はい」

 黒様、黒ドラちゃんはどぎまぎしながら返事をしました。


「そんな恵まれた環境にせっかく棲んでいるのに、こんな雪国の寒い森にわざわざ来てもらうなんて可哀そうだ」

「……」

「花嫁が幸せに安全に暮らせるなら、どこでも良いんだよ、黒ちゃん」

「あの、ありがとうございます」

「ああ、そうだ、黒ちゃんからも、古竜の黒様に花嫁のことを良く頼んでおいてくれないかい?よろしく頼むよ」

「はい。しっかり頼んでおきます!」

 黒ドラちゃんはおばあ様としっかり約束しました。すぐ横でサヴィさんがニコニコしながら見守っています。


 黒ドラちゃんは、ドンちゃんとお別れすることになるかも、と覚悟して王宮の森のノラウサギの家まで来ました。でも、ドンちゃんは結婚した後も古の森で暮らしても良いって、おばあ様は言ってくれました。自分で自分によろしく頼むなんて、難しいような簡単なような頼まれごともされちゃいましたが。


 ノラウサギの家から戻る途中で、黒ドラちゃんは王宮蜜蜂の皆さんにお別れのご挨拶をしに行きました。水色のお花畑に近づくと、モッチがリースの中から飛び出していきました。

「ぶい~~~~ん!」

 モッチの周りに水色ミツバチさんたちが集まります。最初の時のように警戒しているからじゃなくて、歓迎している様子が感じられました。王宮蜜蜂の皆さんも巣から出てきました。あれ?ホペニがいません。

「ぶぶいん?」

 モッチがたずねると、女王蜂が巣を振り返って「ぶいんっ!」と怒ったように言いました。ホペニったら、モッチが帰るのが淋しくてへそを曲げて巣から出てこないんですって。モッチは巣のある木の周りをぐるぐる飛んでいましたが、ホペニが出てこないことがわかると黒ドラちゃんのところに戻ってきました。

「ぶいん……」

 残念そうなモッチと黒ドラちゃんが、王宮へ戻ろうとした時です。

「ブブブブブーーーーーン!」

 すごい勢いで巣の中からホペニが飛び出してきました。そして、モッチのいるリースの中に一度潜ったかと思うと、またすぐに出てきて巣に戻ってしまいました。


「モッチ、ホペニはどうしちゃったの?」

 黒ドラちゃんがリースをのぞき込んでみると、モッチは歪んで出来の悪そうなはちみつ玉を抱えて丸くなっています。どうやら、ホペニはモッチのまねをして、はちみつ玉を作ったようです。

 あまり上手じゃないひしゃげた形のそれを、モッチは大切そうに抱えていました。

「良かったね、モッチ。それじゃあ、古の森に帰ろうか!」


 黒ドラちゃんとモッチは、胸をポカポカさせながらノーランドの王宮の森にお別れをしたのでした。

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