第96話-お祭りの日

 あれから何度か、ラキ様がリュングと一緒に、古の森に遊びに来ました。ラウザーが、グラシーナさんの細工の材料集めを手伝うために、ちょくちょく南の砦からいなくなったからです。


 ドンちゃんも、ムギュッとされてすりすりされるのにも慣れました。ポシェットの中には、ステキな雷玉がいっぱい入っています。


 そしていよいよ、待ちに待った夏のお祭りの日がやってきました。また、みんなで一緒に古の森の外れから、魔法の馬車に乗ります。黒ドラちゃんは、エメラルドのネックレスをしています。ブランは、若葉色で綺麗な葉っぱの形をしたペンダントをしています。ドンちゃんは、灰色の煙水晶のクローバーの形をしたペンダントをつけています。食いしん坊さんは、茶色の煙水晶のクローバーの飾りと金の鎖で、片眼鏡をキラリと光らせていました。ラウザーは、ラキ様特製雷玉をつなげて作った、大ぶりなネックレスをしています。

 そして、ラキ様は……おや、ラキ様の髪には花櫛が見当たりません。そう、グラシーナさんが手掛けた中で、ラウザーの初鱗を使った花櫛が、品評会への品物として選ばれたのです。品物を見たブランの話だと、見たこともない美しい櫛が出来あがった、ということでした。

 ひょっとしたら、王様から表彰される一番の品物になれるかも、と皆はとてもクワクしていました。


 馬車はすぐに王都に入りました。お祭りの時期と言うこともあり、人出がすごくて黒ドラちゃんもドンちゃんもビックリしてしまいました。ラキ様も同じだったようで「何事じゃ?これは何事じゃ!?」と窓の外を見て何度もつぶやいていました。


 馬車はそのまま進みます。今日はお城の門の中まで入って来ました。今日のお祭りでは、竜はみな王様からお城へ招待されています。もちろん、ドンちゃんと食いしん坊さんも一緒です。


 ラキ様とラウザーがいるので、当然リュングも一緒に来ています。リュングは、これまでお城にはめったに来ることはありませんでした。その上、今日は王様やお后様と直接話すことになるかもしれないということで、カチンコチンに緊張していました。それを見ながら、黒ドラちゃんとドンちゃんは、自分達がはじめてお城に来た時のことを思い出していました。


 廊下の肖像画もそのままです。いえ、ちょっと増えていました。


 スズロ王子とカモミラ王女が二人で寄り添う絵姿が飾られています。ご婚約記念に描かせたものだということでした。


「キラキラだね~!」

「うん、やっぱりキラキラだよね~!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんが絵の前で止まりそうになったので、ブランと食いしん坊さんがさりげなく手をひいて前に進みました。


 今日は謁見の間では無くて、舞踏会も開かれた大広間に向かいます。大広間に入ると、すでにそれぞれの品目ごとに一番になった作品が、真ん中に集められて飾られていました。黒ドラちゃんとドンちゃんは、ドキドキしながらそれぞれの品目で優秀賞となった作品を見ていきます。


 繊細でいて、切れ味よさそうに薄青く輝く剣。

 複雑な呪文が彫られて、持つ者を守り抜く盾。

 色とりどりの魔石をちりばめた、芸術品のように見える、魔術師の杖。

 鮮やかで綺麗な模様の描かれた大きな器もあります。

 被るのがもったいないような帽子も飾られています。

 どうやって彫ったのかわからないほど細かな彫刻の施された木靴もありました。


 そして、装飾品として優秀賞に選ばれて飾られているのは、見たこともない美しい櫛でした。


「ブラン、ブラン、あれって、ひょっとして!」

 黒ドラちゃんが興奮してブランに話しかけると、ブランも少し上ずった声で答えてくれました。


「グラシーナの櫛だ」


 その櫛の前にはたくさんの人が集まっていました。小さな作品でも良く見えるように、高い台の上に飾られていなければ目にすることは難しいほどの人垣です。


 光り輝くようなという表現が、比喩ではなくあてはまっています。ラキ様がその櫛に近づいていくと、自然と人垣が割れました。ラキ様は静かにその櫛を眺めています。その後ろには、興奮で頬を染めたリュングと、尻尾を握りしめたラウザーが立っていました。


 その櫛には、フジュの花、いえ、藤の花が彫りこまれていました。驚くことに、細かな花びらの一つ一つに、虹色の貝がらが埋め込まれていました。花の部分にはほのかな紫色を含んだ貝がらが、葉やつるの部分には緑色を含んだ貝がらが使われています。なにより、ラウザーの赤に近いオレンジ色の初鱗を使ったおかげで、薄い紫も緑色もくっきりと際立って見えました。


 近づいて見ると、まるで藤の花の甘い香りが漂ってくるような気さえしています。


「すごいね、グラシーナさん」

 思わず黒ドラちゃんがつぶやきました。

 ラキ様はただ黙って花櫛を見つめています。



 そこへ、王様の入場を知らせる声がひびきました。



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